2021年3月31日更新

CQ6.手術可能な浸潤性乳癌に対して術前化学療法は推奨されるか?

1.初期治療

推 奨
手術可能な浸潤性乳癌に,乳房温存を目的とした術前化学療法を行うことは弱く推奨される。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:100%(12/12)〕

背景・目的

当初は局所進行乳癌に行われていた術前化学療法が,手術可能な浸潤性乳癌にまで適応が拡大されてきた。本CQでは手術可能な浸潤性乳癌に対して術前に化学療法を行うことの有用性について検討した(薬物:1.初期治療 総説3)(6)参照)。

解 説

術前化学療法と術後化学療法の比較について,Cochrane Libraryよりシステマティック・レビューが報告されている1)。同じ薬剤を術前または術後に投与した14のランダム化比較試験(RCT)(n=5,500)で解析が行われた。OSとDFSはそれぞれ10のRCTからメタアナリシスが行われており,術前と術後の化学療法の間には有意な差は認めなかった(OS:HR 0.98,95%CI 0.87-1.09,DFS:HR 0.97,95%CI 0.89-1.07)。乳房温存率は10のRCTからメタアナリシスが行われており,術前化学療法で有意に向上していた(HR 0.71,95%CI 0.67-0.75)。一方,乳房温存手術後の局所再発率は11のRCTからメタアナリシスが行われており,術前化学療法で有意に増加していた(HR 1.21,95%CI 1.02-1.43)。しかし,この解析で用いたRCTのうち,3試験では手術省略例が含まれており異質性が高く,この3つのRCTを除外した解析結果からは術前と術後の化学療法で,局所再発率に有意な差は認めなかった(HR 1.12,95%CI 0.92-1.37)。EBCTCGのメタアナリシスでも同様の検討が行われ局所再発率の上昇を認めているが(RR 1.37,95%CI 1.17-1.61),非手術例が含まれており,放射線治療の影響も検討はなされていない2)。有害事象においては,術後合併症,嘔気・嘔吐,脱毛に有意な差は認めず,心毒性の発生は術前化学療法で少ない傾向にあり(RR 0.74,95%CI 0.53-1.04),白血球減少・好中球減少・重症感染症は術前化学療法で有意に少なかった(RR 0.69,95%CI 0.56-0.84)。術前化学療法において有害事象が少ない理由はシステマティック・レビュー内では考察されていない。

メタアナリシスについて,各試験で化学療法の内容に相違があることから,外的妥当性がやや損なわれる(「非直接性」がある)と判断されるが,そのほかに問題となるバイアスリスクは認めない。以上からエビデンスの強さは「強」とした。

術前化学療法は術後化学療法と比較し,乳房温存率が向上し,非手術例を除いた検討では乳房温存手術後の局所再発率の増加は認めない。また,予後に差はなく,その他の害の増悪もないため,乳房温存手術を目的とした場合,術前化学療法の益と害のバランスは,やや益が勝るといえる。また,患者の希望のばらつきは小さいと考えられる。実際の術前化学療法の適応に関してはサブタイプ等を考慮して検討すべきである(薬物:1.初期治療 総説5)参照)。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「手術可能な浸潤性乳癌に,乳房温存を目的とした術前化学療法を行うことは弱く推奨される」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoadjuvant Therapy”,“Combined Modality Therapy”,“Survival Analysis”,“Survival Rate”,“Treatment Outcome”,“operable breast cancer”,“surgery”,“neoadjuvant”,“survival”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,950件がヒットした。一次スクリーニングで19編,二次スクリーニングで14編の論文が抽出された。検索式(Breast Neoplasms, Neoadjuvant)にて2005年以降の文献検索を行った結果,PubMed 348編,Cochrane 358編,医学中央雑誌120編が抽出されたが,二次スクリーニングに抽出される論文はなく,Cochraneのシステマティック・レビューを引用した。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Mieog JS, van der Hage JA, van de Velde CJ. Preoperative chemotherapy for women with operable breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2007;(2):CD005002. [PMID:17443564]

2)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG). Long―term outcomes for neoadjuvant versus adjuvant chemotherapy in early breast cancer:meta―analysis of individual patient data from ten randomised trials. Lancet Oncol. 2018;19(1):27―39. [PMID:29242041]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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