2021年3月31日更新

CQ30.転移・再発乳癌に対してPD-1/PD-L1阻害薬は勧められるか?

2.転移・再発乳癌

推奨
・PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳癌の転移・再発一次治療として、化学療法(アルブミン懸濁型パクリタキセル)にアテゾリズマブを併用することを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:76%(13/17)〕

背 景

腫瘍免疫に対するブレーキであるPD-1(programmed cell death -1)1)とそのリガンドであるPD-L1(programmed cell death – ligand 1)2)を標的とした抗体医薬の開発が多くの癌種ですすめられ、乳癌においても有効性が示されている。

本CQでは、PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳癌に対して適応となったアテゾリズマブを対象に、その試験結果をもとに検証する。また、ペムブロリズマブに関しては、論文未発表であるKEYNOTE-355試験とMSI(microsatellite instability)-high症例への適応について解説する。

解 説

1)PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳癌に対するアテゾリズマブ

PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブは、化学療法未施行の切除不能あるいは転移トリプルネガティブ乳癌を対象に行われたIMpassion130試験の結果をもとに、PD-L1陽性集団において毎週投与のアルブミン懸濁型パクリタキセルの併用で保険承認となった3)。本試験は、phaseIb試験の結果を受けて4)、902例の化学療法未施行の切除不能あるいは転移トリプルネガティブ乳癌を、アテゾリズマブとアルブミン懸濁型パクリタキセルの併用と、プラセボとアルブミン懸濁型パクリタキセル併用を比較したランダム化プラセボ対照第Ⅲ相試験である。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)であり、両主要評価項目はITT(Intent-to-treat)解析集団およびPD-L1陽性集団での評価が予定された。PD-L1の評価は、SP142抗体を用いて腫瘍浸潤免疫細胞が1%以上陽性であるかで判断された。

PFSは、アテゾリズマブ併用群でITT解析集団およびPD-L1陽性集団において有意に改善した[ITT解析集団;PFS中央値:7.2カ月 vs 5.5カ月、ハザード比:0.80、95%信頼区間:0.69-0.92、p=0.002][PD-L1陽性集団;PFS中央値:7.5カ月 vs 5.0カ月、ハザード比:0.62、95%信頼区間:0.49-0.78、p<0.001]。

OSは、中間解析の時点でITT解析集団において統計学的な有意差は認められなかった[OS中央値:21.3カ月 vs 17.6カ月、ハザード比:0.84、95%信頼区間:0.69-1.02、p=0.08]。PD-L1陽性集団においては、階層構造に基づいた統計解析を行う試験デザインであることから検証的なものではないが、OS中央値で9.5カ月の延長が認められ改善傾向が示唆された[OS中央値:25.0カ月 vs 15.5カ月; ハザード比:0.62、95%信頼区間:0.45-0.86、p値の報告は無し]。

ORRは、アテゾリズマブ併用群でITT解析集団およびPD-L1陽性集団において有意に改善した[ITT解析集団;56.0% vs 45.9%、ハザード比:1.52、95%信頼区間:1.16-1.97、p=0.002][PD-L1陽性集団;58.9% vs 42.9%、ハザード比:1.96、95%信頼区間:1.29-2.98、p=0.002]。

Grade3以上の有害事象はアテゾリズマブ併用群で50%、プラセボ群で42.9%の症例に認められ、有害事象による治療中止はアテゾリズマブ併用群で15.9%、プラセボ群で8.2%と、いずれもアテゾリズマブ併用群で増加傾向にあった。また、Adverse events of special interest (AESIs)として指標化された免疫関連有害事象(肝炎、脳脊髄膜炎、肺炎、腸炎、膵炎、腎炎、下垂体機能低下症、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能異常症、糖尿病)のなかでGrade3以上の頻度は、アテゾリズマブ併用群で7.5%、プラセボ群で4.3%であった。これらは他の乳癌治療薬では認められない有害事象であり、がん免疫療法ガイドライン、免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害の診療ガイドライン5)、ASCOの免疫関連有害事象に関するガイドライン6)などを参考にするとともに、各科、メディカルスタッフと連携した対応が必須である。

QOL(quality of life)に関しては、ITT集団、PD-L1陽性集団において4つの指標(HRQoL, physical functioning, role functioning, cognitive functioning)での評価が行われた。アテゾリズマブ併用群、プラセボ群での比較で、各スコアまたベースラインからの変化に関して両群で差は認められなかった7)

IMpassion130試験の質に問題は無くエビデンスの強さは強(A)であるが、論文化されたものは1試験のみでありエビデンスの総括として強さは中(B)と判断した。益と害のバランスに関して、主要評価項目のPFSは有意に改善され、またPD-L1陽性集団でOS中央値が9.5カ月延長されており、有害事象、コストの増加を鑑みても益が上回ると考えられる。一方で、OSのデータはあくまで中間解析であり最終結果はまだ出ていない。

以上より推奨文は、PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳癌に対して、化学療法(アルブミン懸濁型パクリタキセル)にアテゾリズマブを併用することを弱く推奨する、とした。

2)トリプルネガティブ乳癌に対するペムブロリズマブ(保険適用外)

PD-1阻害薬であるペムブロリズマブ(適応外)は、KEYNOTE-355試験でPD-L1陽性集団においてその有効性が確認されている8)本試験は、847例の化学療法未施行の切除不能あるいは転移トリプルネガティブ乳癌を対象に、ペムブロリズマブと化学療法(パクリタキセルまたはアルブミン懸濁型パクリタキセルまたはゲムシタビン/カルボプラチン)の併用と、プラセボと化学療法(パクリタキセルまたはアルブミン懸濁型パクリタキセルまたはゲムシタビン/カルボプラチン)の併用を比較したランダム化プラセボ対照第Ⅲ相試験である。主要評価項目はPFSとOSに設定され、ITT集団解析に加えて、PD-L1陽性集団での解析も予定された。PD-L1陽性の定義は、22C3抗体を用いてCombined positive score (CPS)による評価でCPS10以上とCPS1以上で解析が行われた。

結果がASCO2020で発表され、最初に予定されたPD-L1陽性集団(CPS10以上)でのPFSの解析が行われ、ペムブロリズマブ併用群でPFSが有意に延長された[PFS中央値:9.7カ月 vs 5.6カ月、ハザード比:0.65、95%信頼区間:0.49-0.86、p=0.0012]。一方で、PD-L1陽性集団(CPS1以上)での解析ではペムブロリズマブ併用群でPFSが良好な傾向が認められたが[PFS中央値:7.6カ月 vs 5.6カ月、ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.61-0.90、p=0.0014]、階層構造で設定されたP値境界値(p=0.00111)を満たさなかった為、ITT集団における統計解析は行われなかった[PFS中央値:7.5カ月 vs 5.6カ月、ハザード比:0.82、95%信頼区間:0.69-0.97、p値の報告は無し]。

Grade3以上の有害事象はペムブロリズマブ併用群で68.1%、プラセボ群で66.9%の症例に認められ、両群間で差は無かった。免疫関連有害事象はペムブロリズマブ併用群で25.6%、プラセボ群で6.0%の症例に認められ、Grade3以上の有害事象はペムブロリズマブ併用群で5.2%、プラセボ群では0.0%といずれもペムブロリズマブ併用によって増加した。

この結果を受けて、今後は乳癌に対する適応拡大が予定されている。

3)MSI-high乳癌に対するペムブロリズマブ

DNA複製の際に生じるミスマッチを修復する機能(Mismatch Repair:MMR)の低下により、1から数塩基の繰り返し配列(マイクロサテライト)の反復回数に変化が生じた状態をマイクロサテライト不安定性という。マイクロサテライト不安定性が高頻度に認められる場合をMicrosatellite Instability (MSI) -Highと呼び、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が期待できる。

PD-1阻害薬であるペムブロリズマブが、「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」を対象に2018年12月に本邦において承認された。承認にはKEYNOTE-164 試験8)及び158 試験9)のデータが使用され、それぞれ奏効割合は27.9%(17/61例)、34.9%(29/83例)であったが、乳癌症例は含まれていなかった。一方、米国食品医薬品局(FDA)における承認にはKEYNOTE-016試験、164試験、012試験、028試験、158試験の5試験のデータが使用され、これには2例の乳癌症例が含まれ、2例とも部分奏効(PR)が得られた。

TCGAのデータベースでは乳癌の中でMSI-high腫瘍は1.53%(16/1,044例)であった10)。乳癌におけるMSI-highはまれではあるが一定の頻度で認められる。MSI-highの判定にはMSI 検査キット(FALCO)がコンパニオン診断薬として承認されている。

検索キーワード・参考にした二次資料

Breast Neoplasms, drug therapy, Neoplasm Metastasis, Neoplasm Recurrence, metastatic breast cancer, local advanced breast cancerに、Atezolizumab, Pembrolizumab, Immune checkpointをキーワードに文献検索を行い、Pubmed: 159編、Cochran: 204編の論文が抽出された。また適宜ハンドサーチを追加した。

エビデンス総体システマティックレビュー

参考文献

1) Ishida Y, Agata Y, Shibahara K et al. Induced expression of PD-1, a novel member of the immunoglobulin gene superfamily, upon programmed cell death. EMBO J. 1992; 11(11): 3887-3895.

2) Iwai Y, Ishida M, Tanaka Y, Okazaki T, Honjo T, Minato N. Involvement of PD-L1 on tumor cells in the escape from host immune system and tumor immunotherapy by PD-L1 blockade. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Sep 17;99(19):12293-7.

3) Schmid P, Adams S, Rugo HS et al. Atezolizumab and Nab-Paclitaxel in Advanced Triple-Negative Breast Cancer. N Engl J Med 2018; 379: 2108-2121.

4) Adams S, Diamond JR, Hamilton E et al. Atezolizumab Plus nab-Paclitaxel in the Treatment of Metastatic Triple-Negative Breast Cancer With 2-Year Survival Follow-up: A Phase 1b Clinical Trial. JAMA Oncol 2019; 5: 334-342.

5) 免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害の診療ガイドライン. 日本内分泌学会雑誌, 2018 年 94 巻 S. November 号 p. 1-11, https://doi.org/10.1507/endocrine.94.S.November_1

6) Brahmer JR, Lacchetti C, Schneider BJ, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline. J Clin Oncol. 2018 Jun 10;36(17):1714-1768.

7) Adams S, Dieras V, Barrios CH, et al. Patient-reported Outcomes From the Phase III IMpassion130 Trial of Atezolizumab Plus Nab-Paclitaxel in Metastatic Triple-Negative Breast Cancer. Ann Oncol. 2020 May;31(5):582-589.

8) Cortes J, Cescon DW, Rugo HS, et al. Pembrolizumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy for previously untreated locally recurrent inoperable or metastatic triple-negative breast cancer (KEYNOTE-355): a randomised, placebo-controlled, double-blind, phase 3 clinical trial. Lancet. 2020 Dec 5;396(10265):1817-1828.

9) Le DT, Kim TW, Van Cutsem E, et al. Phase II Open-Label Study of Pembrolizumab in Treatment-Refractory, Microsatellite Instability-High/Mismatch Repair-Deficient Metastatic Colorectal Cancer: KEYNOTE-164. J Clin Oncol. 2020 Jan 1;38(1):11-19.

10) Marabelle A, Le DT, Ascierto PA, et al. Efficacy of Pembrolizumab in Patients With Noncolorectal High Microsatellite Instability/Mismatch Repair-Deficient Cancer: Results From the Phase II KEYNOTE-158 Study. J Clin Oncol. 2020 Jan 1;38(1):1-10.

11) Bonneville R, Krook MA, Kautto EA, et al. Landscape of Microsatellite Instability Across 39 Cancer Types. JCO Precis Oncol. 2017;2017. doi: 10.1200/PO.17.00073.

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