2021年3月31日更新

CQ1.非浸潤性乳管癌に対する非切除は勧められるか?

1.乳癌初期治療における乳房手術

推 奨
・非浸潤性乳管癌に対する非切除で経過をみることは弱く勧められない(切除が勧められる)。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:92%(11/12)〕

背景・目的

マンモグラフィ検診の普及により,わが国では早期癌の発見と非浸潤性乳管癌(DCIS)の発見が増加している。米国では新規発見される乳癌の20~25%がDCISと報告されていて,そのうちの17~34%がマンモグラフィで発見されている。しかし,早期発見が数年後の進行癌の減少につながっていることが明らかな大腸癌や子宮頸癌のスクリーニングとは異なり,浸潤癌の発生件数は依然として増加しているため,検診によってDCISが過剰診断されている可能性が議論となっている。手術により所局再発や浸潤癌の発生を抑制しても乳癌による死亡リスクを軽減することにはならないことが報告された1)。このように命に影響を及ぼさないDCISの存在が示唆される一方で,DCISは手術による完全切除にて根治し得る病態でもある。
今回,非浸潤性乳管癌に対する非切除(経過観察)が推奨されるかを検討する。

解 説

浸潤性乳管癌非切除例の全生存率(OS)に関して言及した論文は症例集積2編,ビッグデータを用いた後ろ向き研究の1編であった。非切除による一番重要な「害」はOSの低下である。症例集積では,良性と診断され,のちに病理レビューによってDCISと診断された症例の追跡結果の記載があるのみでOSについては不明であった。後ろ向き研究では,いくつかのリミテーションを有する研究であるものの,低グレードDCISのみに限局すると非切除/切除群でOSに差がないことが有意差をもって示された2)~4)。また,死亡時に乳癌と診断(認識)されていなかった女性の乳房に浸潤癌,非浸潤癌が存在する割合をまとめたレビューにより,生命に影響を及ぼさないDCISの存在が示唆された。1973~1987年に報告された7施設からの7データをまとめたレビューによると,1.3%の女性が浸潤癌を,8.9%(0~14.7%)の女性がDCISを有していた。これらの検討から,死因に影響をしない乳癌担癌状態の女性が相当数いることが示された5)

さらに,DCISを非切除で経過観察した場合に乳房内浸潤癌への進行のリスクが高くなるかどうかを検討した後ろ向き症例集積が6編あった。切除(摘出生検,診断目的)のみを実施し,治療目的の外科治療を実施しない(非切除)群を後ろ向きに解析した。観察期間,浸潤癌診断時期はさまざまである。DCISを非切除で観察した場合,4~53%が浸潤癌を再発した。観察期間は1~42年2)3)6)~9)

また,DCISに対する乳房温存手術後の乳房内再発病変を検討した研究では,47%が浸潤癌で再発していた10)

また,浸潤性乳管癌をDCISと過小評価して診断されてしまうと非切除は「害」となり得る。CNBによりDCISと診断された52試験,7,350例をレビューした論文によると,浸潤性乳管癌であるにもかかわらずDCISと過小評価された症例は26%(18.6~37.2%)である。過小評価のリスク因子として,11 G針ではなく14 G針を用いた針生検によるサンプル採取,高グレード症例,20 mm以上の病変が挙げられた。不適切な針生検・診断では,浸潤性乳管癌にもかかわらず,DCISと過小評価される可能性があることが示されていた11)。DCISの悪性度は癌細胞の核グレードや面疱壊死の有無を指標とする報告があるものの,これらの評価方法は標準化されておらず,観察者間の診断一致率も十分に高いとはいえない(乳癌診療ガイドライン②疫学・診断編2018年版,病理FQ6参照)。

一方で,非切除により患者は乳房の整容性を失わず,入院や治療費用が不要であることの「益」は明らかである。

DCISに対し非切除を選択する場合,アクティブ・サーベイランスとして定期的な画像検査等が必要とされることが予測される12)13)。適切な間隔や項目は推奨決定されていないことから,現時点では,不確実な状況のもと患者が一致して非切除を希望するとはいえない。患者の希望については,癌であるのに手術をしない不安がある一方で,手術を希望しない患者も存在し,価値観のばらつきは大きいと考えられる。

以上より,DCISに対する非切除では,低グレードDCISのような限られたグループのみが「益」を受けられる可能性はあるものの,その診断は不確実である。後ろ向きの解析のみでは,生存への安全性を保障するには不十分と総合的に判断し,DCISに対する非切除は弱く勧められない(切除が勧められる)とした。診断方法を詳細に規定した前向き試験の結果が待たれる12)~15)

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Carcinoma,Intraductal,Noninfiltrating”,“Mastectomy”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,504件がヒットした。それ以外にハンドサーチで75編の論文が追加された。一次スクリーニングで295編,二次スクリーニングで84編の論文が抽出され,定性的システマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビュー

参考文献

1)Narod SA, Iqbal J, Giannakeas V, Sopik V, Sun P. Breast cancer mortality after a diagnosis of ductal carcinoma in situ. JAMA Oncol. 2015;1(7):888―96. [PMID:26291673]

2)Eusebi V, Foschini MP, Cook MG, Berrino F, Azzopardi JG. Long―term follow―up of in situ carcinoma of the breast with special emphasis on clinging carcinoma. Semin Diagn Pathol. 1989;6(2):165―73. [PMID:2548274]

3)Rosen PP, Braun DW Jr, Kinne DE. The clinical significance of pre―invasive breast carcinoma. Cancer. 1980;46(4 Suppl):919―25. [PMID:7397668]

4)Sagara Y, Mallory MA, Wong S, Aydogan F, DeSantis S, Barry WT, et al. Survival Benefit of Breast Surgery for Low―Grade Ductal Carcinoma In Situ:A Population―Based Cohort Study. JAMA Surg. 2015;150(8):739―45. [PMID:26039049]

5)Welch HG, Black WC. Using autopsy series to estimate the disease“reservoir”for ductal carcinoma in situ of the breast:how much more breast cancer can we find? Ann Intern Med. 1997;127(11):1023―8. [PMID:9412284]

6)Page DL, Dupont WD, Rogers LW, Jensen RA, Schuyler PA. Continued local recurrence of carcinoma 15―25 years after a diagnosis of low grade ductal carcinoma in situ of the breast treated only by biopsy. Cancer. 1995;76(7):1197―200. [PMID:8630897]

7)Collins LC, Tamimi RM, Baer HJ, Connolly JL, Colditz GA, Schnitt SJ. Outcome of patients with ductal carcinoma in situ untreated after diagnostic biopsy:results from the Nurses’ Health Study. Cancer. 2005;103(9):1778―84. [PMID:15770688]

8)Schwartz GF, Finkel GC, Garcia JC, Patchefsky AS. Subclinical ductal carcinoma in situ of the breast. Treatment by local excision and surveillance alone. Cancer. 1992;70(10):2468―74. [PMID:1330281]

9)Sanders ME, Schuyler PA, Dupont WD, Page DL. The natural history of low―grade ductal carcinoma in situ of the breast in women treated by biopsy only revealed over 30 years of long―term follow―up. Cancer. 2005;103(12):2481―4. [PMID:15884091]

10)Bijker N, Peterse JL, Duchateau L, Robanus―Maandag EC, Bosch CA, Duval C, et al. Histological type and marker expression of the primary tumour compared with its local recurrence after breast―conserving therapy for ductal carcinoma in situ. Br J Cancer. 2001;84(4):539―44. [PMID:11207051]

11)Brennan ME, Turner RM, Ciatto S, Marinovich ML, French JR, Macaskill P, et al. Ductal carcinoma in situ at core―needle biopsy:meta―analysis of underestimation and predictors of invasive breast cancer. Radiology. 2011;260(1):119―28. [PMID:21493791]

12)Elshof LE, Tryfonidis K, Slaets L, van Leeuwen―Stok AE, Skinner VP, Dif N, et al. Feasibility of a prospective, randomised, open―label, international multicentre, phase Ⅲ, non―inferiority trial to assess the safety of active surveillance for low risk ductal carcinoma in situ― The LORD study. Eur J Cancer. 2015;51(12):1497―510. [PMID:26025767]

13)Francis A, Thomas J, Fallowfield L, Wallis M, Bartlett JM, Brookes C, et al. Addressing overtreatment of screen detected DCIS;the LORIS trial. Eur J Cancer. 2015;51(16):2296―303. [PMID:26296293]

14)Bartlett JM, Nofech―Moses S, Rakovitch E. Ductal carcinoma in situ of the breast:can biomarkers improve current management? Clin Chem. 2014;60(1):60―7. [PMID:24262106]

15)Lebeau A, Kuhn T. Updates in the treatment of ductal carcinoma in situ of the breast. Curr Opin Obstet Gynecol. 2016;28(1):49―58. [PMID:26694830]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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