2021年3月31日更新

BQ1.ホルモン受容体陽性乳癌に対して術後内分泌療法は有用か?

1.初期治療

ステートメント
・閉経前ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として,タモキシフェン投与の有効性は確立している。
・閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対して,アロマターゼ阻害薬投与は有効性が確立されている。

背 景

乳癌の内分泌療法は,Beatsonにより1896年に卵巣摘出術の有効性が報告されたことに始まる。1960年代にエストロゲン受容体が発見され,1970年代にタモキシフェンが乳癌に有効であることが示された。さらに閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対して,アロマターゼ阻害薬を含む術後5年間の治療は複数の臨床試験によってその有効性が確立されている。
また,ホルモン受容体陽性乳癌では晩期再発が多くみられる。タモキシフェンを5年間内服した場合の5年間の累積再発率は16.4%,15年間の累積再発率は33%であり,再発の約半数はタモキシフェンの終了した術後5年以降に起こる。

解 説

閉経前女性では主に卵巣から女性ホルモンが供給され,閉経後女性では副腎から分泌されたアンドロゲンが主に脂肪細胞などに存在するアロマターゼにより女性ホルモンに変換され供給されるという機序の違いがある。それゆえ,閉経状況により治療法を選択する必要がある。

1)閉経前乳癌の術後内分泌療法薬

選択的エストロゲン受容体モジュレーター(selective estrogen receptor modulator;SERM)に分類されるタモキシフェンと,卵巣機能を抑制するLH-RHアゴニスト(ゴセレリンまたはリュープロレリン)がある。閉経前ホルモン受容体陽性乳癌においては卵巣由来の内因性エストロゲンレベルを低下させることが重要である。
タモキシフェンの5年間投与の有効性は確立されており,EBCTCGによるメタアナリシスでは,年齢,閉経状況,リンパ節転移や化学療法併用の有無にかかわらず,術後5年間のタモキシフェン投与により,ホルモン受容体陽性乳癌において再発および死亡リスクが減少することが示された1)

2)閉経後乳癌の術後内分泌療法薬

閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法では,第三世代のアロマターゼ阻害薬であるアナストロゾール(ATAC試験)2),レトロゾール(BIG 1-98試験)3),エキセメスタン(TEAM試験)4)の5年間服用は,タモキシフェン5年間と比較してDFSを改善することが報告された。また,ATAC試験とBIG1-98試験の統合解析(n=9,856)の結果では,アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンに比較し,再発を23%減少させたが,乳癌による死亡を減少させることはできなかった5)。一方,EBCTCGが2015年に発表したタモキシフェンvsアロマターゼ阻害薬に関するメタアナリシス(n=31,920)では,アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンに比較し,再発を30%減少させ,10年致死率を15%減少すると報告している6)
また,タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬の順次投与(スイッチ)とタモキシフェンやアロマターゼ阻害薬単独治療を比較する試験や,タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬5年投与終了後の内分泌療法が検討されている。

(1)タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬の順次投与(スイッチ)

IES 031試験は術後タモキシフェンを2~3年投与された閉経後早期乳癌患者を対象に,エキセメスタンにスイッチして合計5年間の治療群(スイッチ群)と,そのままタモキシフェンを投与して合計5年間の治療群を比較した二重盲検第Ⅲ相試験である7)。OSに有意差は認めなかったが,エキセメスタン群でDFSの延長を認めた。タモキシフェンと,アロマターゼ阻害薬へのスイッチを比較した試験のメタアナリシス(n=9,015)では,タモキシフェン単独に比較してスイッチ群は再発を29%〔standard error(SE)6%〕,乳癌による死亡を22%(SE 9%)低下させた。
閉経後ホルモン受容体陽性乳癌を対象に,エキセメスタンの5年投与とエキセメスタンへのスイッチを比較した試験(TEAM試験)の結果では,5年DFSに有意差を認めなかった。
わが国では,閉経後術後早期乳癌患者706人を対象としてタモキシフェン5年とアナストロゾールスイッチ群を比較した試験N―SAS BC03が実施された8)。その結果,タモキシフェン単独と比較してアナストロゾールスイッチ群は日本人でも欧米人と同程度にDFSが改善されることが示唆され,術後2~3年のタモキシフェンを投与されている閉経後ホルモン受容体陽性乳癌患者に対しては,アロマターゼ阻害薬へスイッチし,計5年間投与することが推奨される。

(2)アロマターゼ阻害薬同士の比較

閉経後ホルモン受容体陽性乳癌を対象としてエキセメスタンとアナストロゾールを比較したMA.27試験ではEFSに有意差は認められず,OSも同等であった9)。有害事象による内服中止はそれぞれ33.8%と29.4%に認められ,エキセメスタン群でビリルビン高値,ざ瘡,男性化,心房細動が多く,アナストロゾール群で不正出血,高脂血症などが多く認められた。新たに骨粗鬆症と診断された頻度はそれぞれ31%と35%であったが,骨折率は4%で有意差はなかった。また,アナストロゾールとレトロゾールを比較したFACE試験(4,136人)では観察期間中央値64カ月でDFS,OSともに両剤で差は認めなかった10)

以上より多くの臨床試験からホルモン受容体陽性乳癌に対して術後内分泌療法の有用性は明らかであるが,タモキシフェンによる血栓症,アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症に起因する骨折などの副作用には注意が必要である。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Aromatase Inhibitors”,“Estrogen Antagonists”,“Gonadotropin―Releasing Hormone”,“Tamoxifen”,“Letrozole”,“Anastrozole”,“Exemestane”のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,1,706件がヒットした。

参考文献

1)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG), Davies C, Godwin J, Gray R, Clarke M, Cutter D, et al. Relevance of breast cancer hormone receptors and other factors to the efficacy of adjuvant tamoxifen:patient―level meta―analysis of randomised trials. Lancet. 2011;378(9793):771―84. [PMID:21802721]

2)Cuzick J, Sestak I, Baum M, Buzdar A, Howell A, Dowsett M, et al;ATAC/LATTE investigators. Effect of anastrozole and tamoxifen as adjuvant treatment for early―stage breast cancer:10―year analysis of the ATAC trial. Lancet Oncol. 2010;11(12):1135―41. [PMID:21087898]

3)Mouridsen H, Giobbie―Hurder A, Goldhirsch A, Thürlimann B, Paridaens R, Smith I, et al;BIG 1―98 Collaborative Group. Letrozole therapy alone or in sequence with tamoxifen in women with breast cancer. N Engl J Med. 2009;361(8):766―76. [PMID:19692688]

4)van de Velde CJ, Rea D, Seynaeve C, Putter H, Hasenburg A, Vannetzel JM, et al. Adjuvant tamoxifen and exemestane in early breast cancer(TEAM):a randomised phase 3 trial. Lancet. 2011;377(9762):321―31. [PMID:21247627]

5)Dowsett M, Cuzick J, Ingle J, Coates A, Forbes J, Bliss J, et al. Meta―analysis of breast cancer outcomes in adjuvant trials of aromatase inhibitors versus tamoxifen. J Clin Oncol. 2010;28(3):509―18. [PMID:19949017]

6)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG). Aromatas inhibitors versus tamoxifen in early breast cancer:patient―level meta―analysis of the randomised trials. Lancet. 2015;386(10001):1341―52. [PMID:26211827]

7)Coombes RC, Kilburn LS, Snowdon CF, Paridaens R, Coleman RE, Jones SE, et al;Intergroup Exemestane Study. Survival and safety of exemestane versus tamoxifen after 2―3 years’ tamoxifen treatment(Intergroup Exemestane Study):a randomised controlled trial. Lancet. 2007;369(9561):559―70. Erratum in:Lancet. 2007;369(9565):906. [PMID:17307102]

8)Aihara T, Takatsuka Y, Ohsumi S, Aogi K, Hozumi Y, Imoto S, et al. Phase Ⅲ randomized adjuvant study of tamoxifen alone versus sequential tamoxifen and anastrozole in Japanese postmenopausal women with hormone―responsive breast cancer:N―SAS BC03 study. Breast Cancer Res Treat. 2010;121(2):379―87. [PMID:20390343]

9)Goss PE, Ingle JN, Pritchard KI, Ellis MJ, Sledge GW, Budd GT, et al. Exemestane versus anastrozole in postmenopausal women with early breast cancer:NCIC CTG MA. 27――a randomized controlled phase Ⅲ trial. J Clin Oncol. 2013;31(11):1398―404. [PMID:23358971]

10)Smith I, Yardley D, Burris H, De Boer R, Amadori D, McIntyre K, et al. Comparative efficacy and safety of adjuvant letrozole versus anastrozole in postmenopausal patients with hormone receptor―positive, node―positive early breast cancer:final results of the randomized phase Ⅲ femara versus anastrozole clinical evaluation(FACE)trial. J Clin Oncol. 2017;35(10):1041―8. [PMID:28113032]

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