2021年3月31日更新

CQ25.化学療法の適応とならないホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳癌に対して内分泌療法単独や抗HER2療法と内分泌療法併用は勧められるか?

2.転移・再発乳癌

推 奨
・抗HER2療法と内分泌療法併用を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:100%(11/11)〕

・内分泌療法単独を行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:91%(10/11)〕

背景・目的

ホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳癌に対する内分泌療法単独と抗HER2療法・内分泌療法併用の効果・安全性について検討する。

解 説

本CQに対してはTAnDEM試験1),eLEcTRA試験2),EGF30008試験3)に対して定性的システマティック・レビューを行った。これらの試験はいずれもホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳癌(閉経後)に対する一次治療として,「内分泌療法単独」と「抗HER2療法(トラスツズマブ,もしくはラパチニブ)+内分泌療法の併用療法」の比較試験である。

これらの試験から,内分泌療法単独に対して,抗HER2療法+内分泌療法併用療法がPFS(HR 0.67,95%CI 0.55-0.81),ORR(HR 0.39,95%CI 0.23-0.67),クリニカルベネフィット率(CBR)(HR 0.68,95%CI 0.54-0.84)のいずれも良好な結果であった。OSについてはTAnDEM試験1)しか報告(28.5カ月vs 23.9カ月,p=0.325)がないため不明である。

有害事象に関しては,抗HER2療法+内分泌療法併用療法により増悪する傾向にあった。具体的には,心疾患(HR 2.66,95%CI 0.66-10.76),Grade 3以上の非血液毒性(HR 1.60,95%CI 0.81-3.17)とも増加する傾向であった。特にラパチニブを併用した場合には下痢の発生が高くなる結果(HR 5.12,95%CI 1.96-13.36)であった。しかし,QOLに関しては両治療間でほぼ同等であった。

上記3試験とは別に,ALTERNATIVE試験4)の結果が報告されている。この試験の発表はシステマティック・レビューを行った後であったため,上述した定性的システマティック・レビューには加えていないが,重要な報告であるため,この解説文で紹介する。本試験はホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳癌(閉経後)に対する,ラパチニブ・トラスツズマブ・アロマターゼ阻害薬併用療法(Dual HER2-blockade+アロマターゼ阻害薬),ラパチニブ・アロマターゼ阻害薬併用療法,トラスツズマブ・アロマターゼ阻害薬併用療法の3群比較試験である。3剤併用群はトラスツズマブ・アロマターゼ阻害薬併用療法に比し,PFS(11カ月vs 5.7カ月,HR 0.62,95%CI 0.45-0.88,p=0.0064)を延長した。ラパチニブ+アロマターゼ阻害薬併用療法群のPFSは8.3カ月であり,3剤併用群が最も優れていた。また,ORR(31.7%,13.7%,18.6%),CBR(41%,31%,33%)も同様の結果であった。有害事象については3剤併用群で下痢(69%),発疹(36%),嘔気(22%)と他の2群に比べて高い傾向にあったが,重篤な有害事象は3群いずれも稀であり,有害事象による治療中止割合も低率であった(3%,6%,9%)。この結果からホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳癌に対する治療として,ラパチニブ・トラスツズマブ・アロマターゼ阻害薬併用療法も一つのオプションとなり得ることが示された。

しかし,HER2陽性進行再発乳癌の治療に関しては,CLEOPATRA試験などの結果から,基本的には「抗HER2薬+化学療法の併用療法」が標準であると考える。上述した4試験はいずれも現在の標準治療である,抗HER2薬+化学療法の併用療法と比較したものではないため,そのエビデンスの解釈には留意する必要がある。

「抗HER2療法+化学療法の併用療法」と「抗HER2療法+内分泌療法の併用療法」を比較した試験はないことから,両推奨とも,エビデンスの強さは「中」とした。

抗HER2療法+内分泌療法併用は,脱毛をはじめとする有害事象が少ないことが大きな特徴であるが,OSやDFSは,抗HER2療法+化学療法の併用療法に劣るため,益が勝るとはいえないと考えられた。

抗HER2療法+化学療法併用に比べて,有害事象は少ないが,効果は劣るため,患者の希望にはばらつきがあると考えられた。

推奨決定会議での投票では,「抗HER2療法+内分泌療法の併用」を「弱く推奨する」で全員一致した。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は,「抗HER2療法と内分泌療法併用を行うことを弱く推奨する」とした。

これに対して,「内分泌療法単独」は,上記結果から有害事象は抗HER2療法+内分泌療法併用と比較しても軽微であるため,標準治療である抗HER2療法+化学療法併用と比較した場合に有害事象が少ない。しかし,DFSが,抗HER2療法+化学療法の併用療法に比べて明らかに劣るため,「益」が劣ると判断した。

内分泌療法単独は,抗HER2療法+化学療法の併用に比べて,有害事象は少ないものの,効果は劣るため,患者の希望にはばらつきがあると考えられた。

推奨決定会議の投票では,「内分泌療法単独」は「行わないことを弱く推奨する」が91%(10/11),「行わないことを強く推奨する」が9%(1/11)であった。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は,「内分泌療法単独を行わないことを弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Receptor, ErbB―2”,“Receptor, Epidermal Growth Factor”,“Phosphoproteins”,“Proto―Oncogene Proteins”,“Estrogen Antagonists”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Gonadotropin―Releasing Hormone”,“Aromatase Inhibitors”,“Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols”のキーワードと,“Antibodies, Monoclonal, Humanized”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,1,443件がヒットした。一次スクリーニングで18編,二次スクリーニングで4編の論文が抽出され,定性的および定量的システマティック・レビューを行った。これらの論文以外に,レビュー後にこのCQに関する新たな結果が発表されたので1編追加した。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Kaufman B, Mackey JR, Clemens MR, Bapsy PP, Vaid A, Wardley A, et al. Trastuzumab plus anastrozole versus anastrozole alone for the treatment of postmenopausal women with human epidermal growth factor receptor 2―positive, hormone receptor―positive metastatic breast cancer:results from the randomized phase Ⅲ TAnDEM study. J Clin Oncol. 2009;27(33):5529―37. [PMID:19786670]

2)Huober J, Fasching PA, Barsoum M, Petruzelka L, Wallwiener D, Thomssen C, et al. Higher efficacy of letrozole in combination with trastuzumab compared to letrozole monotherapy as first―line treatment in patients with HER2―positive, hormone―receptor―positive metastatic breast cancer― results of the eLEcTRA trial. Breast. 2012;21(1):27―33. [PMID:21862331]

3)Johnston S, Pippen J Jr, Pivot X, Lichinitser M, Sadeghi S, Dieras V, et al. Lapatinib combined with letrozole versus letrozole and placebo as first―line therapy for postmenopausal hormone receptor―positive metastatic breast cancer. J Clin Oncol. 2009;27(33):5538―46. [PMID:19786658]

4)Johnston SRD, Hegg R, Im SA, Park IH, Burdaeva O, Kurteva G, et al. Phase Ⅲ, randomized study of dual human epidermal growth factor receptor 2(HER2)blockade with lapatinib plus trastuzumab in combination with an aromatase inhibitor in postmenopausal women with HER2―positive, hormone receptor―positive metastatic breast cancer:ALTERNATIVE. J Clin Oncol. 2017:JCO2017747824. [PMID:29244528]

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