2021年3月31日更新

CQ5.原発乳癌の精密検査として乳房エラストグラフィは推奨されるか?

2.乳癌の精密検査(治療前)

推 奨
・乳房超音波検査において,Bモードにエラストグラフィを追加することを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:75%(9/12)〕

背景・目的

現在,乳がん検診ではマンモグラフィ単独が推奨されている。マンモグラフィ単独検診では十分に精度管理された検診でも6.4~8.8%の要精検率があり,一方で癌発見率は0.176~0.345%であるため,この差(約6.2~8.5%)が偽陽性例(乳癌の疑いをかけられ,最終的に乳癌でない例)となる。おそらく10万人単位で不要な精検等を受けていると考えられる。これらの検診要精検症例に対する精密検査として,最初に行われる検査が超音波検査である。超音波精密検査にて乳癌の可能性が低いと判断されれば検診に戻され,乳癌の疑いが高ければ生検が行われ確定診断される。乳癌の中から,検査にて乳癌と診断する割合を感度,乳癌と診断された中に実際に含まれる乳癌の割合を特異度,乳癌の疑いがあるとされたが最終的に乳癌でない症例の割合が偽陽性率,乳癌でないと診断された中で最終的に乳癌でないもの予測割合がNPV(negative predictive value,陰性適中度)である。NPVが低いことは偽陽性が高い検査となり,感度が低いこと(癌を見逃すこと)と同様に重大な不利益である。もちろん乳癌を見逃すことは避けなければならないが,不要な生検による心的,身体的,経済的損失は小さくなく,最初に行われる超音波精密検査の診断精度向上は重要である。通常の超音波検査はBモードだけで行われ,このBモード単独の感度,特異度,NPVで診断精度を評価するのであるが,これに新ジャンルの超音波アプリケーションであるエラストグラフィを追加することにより,診断精度の向上,特異度(最終的に乳癌であるもののみを選択する率)が向上することが期待されている。本アプリケーションは,すでに導入後10年以上経過しており,多くの臨床試験報告が存在する。大部分の臨床研究はBモードのみでの良悪性判定を行い,同症例に対しエラストグラフィを追加することで,Bモード単独,エラストグラフィ単独,両方を併用した場合の診断精度を比較している。今回,エラストグラフィを追加した場合の診断精度(感度,特異度,NPV,偽陽性率)に関しシステマティック・レビューを実施した。

解 説

今回のシステマティック・レビューを行ううえで,「偽陽性率の低下,または不要な生検の回避」,「乳房腫瘍の良悪性鑑別」,「乳房腫瘍診断における特異度向上」をアウトカムとして設定した。残念ながら,不要な生検回避率,偽陽性率低下そのものをプライマリーエンドポイントとした報告はなかったが,NPVについて報告している論文は今回の検索では31編あり,NPV値が高い→偽陽性率の低下→不要な生検回避率の論法は成り立つと考察し,「NPVの上昇」を「偽陽性率の低下,または不要な生検の回避」に相当するアウトカムとした。

今回抽出したメタアナリシス1)~8)では,原発乳癌の超音波診断において,Bモードにエラストグラフィを追加することにより特異度が向上し,偽陽性が低減することから,不要な生検を回避される症例が増えると考察されているが,その精度は年代によりまちまちであった(72~97%)。これはエラストグラフィが2003年の臨床応用当時から,常に開発が継続し,進歩し続けているアプリケーションであるうえ,臨床的診断手法も研究結果をフィードバックすることで,年々改良されているためである。実際,最近の国際的ガイドラインやシステマティック・レビューをみても,エラストグラフィの検査精度自体が向上していると解説されている(初期は検査手技に高度な技術が必要であったが,最近のものでは検査手技が容易となっており,検査バイアスが大幅に小さくなっている)し,実臨床では古いものは使われなくなっていることから,今回のレビューでは,新しいエラストグラフィアプリケーションを使用した臨床試験のみを判断材料とすべきと考えた。

近々の報告では,2017年7月に発表された高濃度乳房と診断されている女性に対する乳房超音波検診で要精査(BI―RADSカテゴリー3以上)とされた症例に対する精密検査超音波検査の前向き多施設臨床試験(ALL韓国)がある9)。Bモード+ドプラ+エラストグラフィ併用のデザインで,エラストグラフィ,ドプラの上乗せ効果を評価している。本報告からエラストグラフィのデータを抽出し検討すると,BI-RADSのカテゴリー4a+4b+4c+5判定例に対するエラストグラフィ上乗せ効果は,NPVが99.3(707/710病変)と改善していた。基本的にBI-RADSマネジメントではカテゴリー4b,4c,5は生検対象となるので生検回避に貢献したことになる。さらに,臨床上,最も生検適応を迷うBI-RADSカテゴリー4aの675病変(最終的に良性が649病変)で検討してみると,エラストグラフィの上乗せ効果はNPV 92.5%〔617/667病変(エラストグラフィができなかった8病変を除く)〕であった。本論文では,最終的に全体(BI-RADSカテゴリー3+4a+4b+4c+5)ではPPV(陽性適中度)が8.9(Bモード)から20.3%(エラストグラフィ併用)と上昇し,66.7%(471/696病変)の病変が生検回避可能であったことから,不要な生検回避に有用であるとまとめられている。

国内のごく最新の報告では,2017年10月発表の最新のエラストグラフィアプリケーションを用いた単施設での前向き臨床試験10)が報告されており,BモードでBI-RADSカテゴリー3以上の病変に対するエラストグラフィの上乗せ効果として,NPV 94.0%(157/167病変)と報告されており,海外,国内とも,乳房超音波Bモード検査に,エラストグラフィを追加することにより,感度上昇(追加されれば当然感度は上昇する)だけでなく,NPVも向上すると考えられる。

以上より,乳房精密検査においてエラストグラフィを導入することは,NPVが向上し,不要な生検回避に貢献すると考えられ,乳房超音波精密検査の診断精度向上に推奨できる。

検索キーワード

PubMedで“Breast Diseases”,“Breast”,“Elasticity Imaging Techniques”,“Elasticity”,“Artifacts”,“Diagnosis”,“Diagnostic Imaging”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,797の論文が検索された。臨床的に超音波エラストグラフィに関する論文は412編,さらに乳房関連の臨床試験に限定すると358編,乳癌診断に関するものが234編であった。

これらのうち研究デザインが十分妥当であり,今回の目的に適正と判断した96編を選択した。研究デザインはシステマティック・レビュー3編,ガイドライン3編,メタアナリシス8編,前向き臨床研究31編(うち多施設共同研究で研究デザインがしっかりしたもの4編),後ろ向き臨床試験57編であった。最終的にメタアナリシス8編と前向き臨床試験31編の39編を用い,後ろ向き臨床試験の57編は参考程度とした。また,超音波エラストグラフィとして日常臨床で広く使用されているアプリケーションにはShear Wave ElastographyとStrain Elastographyの2種類の方式が存在する。新しいバージョンのアプリケーションではこの両者とも撮像方法が同等であるが,以前は撮像方法に違いがみられた。また,診断する推奨アルゴリズムも共通するものと共通しないものが混在しており,撮像手法,診断手法によるバイアスが懸念されたが,今回,抽出したメタアナリシスの論文ではいずれも同等に扱い解析してあったため,今回も両者の細かい違いは考慮せず,評価することとした。

エビデンス総体システマティックレビュー資料

参考文献

1)Liu B, Zheng Y, Huang G, Lin M, Shan Q, Lu Y, et al. Quantitative diagnosis using ultrasound shear wave elastography ― a systematic review and meta―analysis. Ultrasound Med Biol. 2016;42(4):835―47. [PMID:26778289]

2)Liu B, Zheng Y, Shan Q, Lu Y, Lin M, Tian W, et al. Elastography by acoustic radiation force impulse technology for differentiation of benign and malignant breast lesions:a meta―analysis. J Med Ultrason(2001). 2016;43(1):47―55. [PMID:26703166]

3)Chen L, He J, Liu G, Shao K, Zhou M, Li B, et al. Diagnostic performances of shear―wave elastography for identification of malignant breast lesions:a meta―analysis. Jpn J Radiol. 2014;32(10):592―9. [PMID:25195123]

4)Sadigh G, Carlos RC, Neal CH, Dwamena BA. Accuracy of quantitative ultrasound elastography for differentiation of malignant and benign breast abnormalities:a meta―analysis. Breast Cancer Res Treat. 2012;134(3):923―31. [PMID:22418703]

5)Sadigh G, Carlos RC, Neal CH, Dwamena BA. Ultrasonographic differentiation of malignant from benign breast lesions:a meta―analytic comparison of elasticity and BIRADS scoring. Breast Cancer Res Treat. 2012;133(1):23―35. [PMID:22057974]

6)Li G, Li DW, Fang YX, Song YJ, Deng ZJ, Gao J, et al. Performance of shear wave elastography for differentiation of benign and malignant solid breast masses. PLoS One. 2013;8(10):e76322. [PMID:24204613]

7)Sadigh G, Carlos RC, Neal CH, Wojcinski S, Dwamena BA. Impact of breast mass size on accuracy of ultrasound elastography vs. conventional B―mode ultrasound:a meta―analysis of individual participants. Eur Radiol. 2013;23(4):1006―14. [PMID:23085865]

8)Gong X, Xu Q, Xu Z, Xiong P, Yan W, Chen Y. Real―time elastography for the differentiation of benign and malignant breast lesions:a meta―analysis. Breast Cancer Res Treat. 2011;130(1):11―8. [PMID:21870128]

9)Lee SH, Chung J, Choi HY, Choi SH, Ryu EB, Ko KH, et al. Evaluation of screening US―detected breast masses by combined use of elastography and color doppler US with B―mode US in women with dense breasts:a multicenter prospective study. Radiology. 2017;285(2):660―9. [PMID:28640693]

10)Nakashima K, Mizutou A, Sakurai S. Auto strain ratio system for the quality control of breast strain elastography. J Med Ultrason(2001). 2018; 45(2): 261‒8. [PMID:28956192]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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