2021年3月31日更新

FQ16 術前化学療法で病理的完全奏効(pCR)を得られなかった場合、術後化学療法の変更を考慮すべきか?

1.初期治療

ステートメント
・術前化学療法後にpCRが得られない場合、術後療法を追加または変更することで予後が改善する可能性がある。

背 景

術前化学療法後にpCRが得られない場合に、術後療法として、現在の標準治療と比較しより高い抗腫瘍効果が期待できる治療へ変更することによる予後の改善を検証する試験が行われている。ここではHER2陰性とHER2陽性に分けて、それらの臨床試験結果を解説する。

解 説

病理学的完全奏効(pCR)を指標として術後治療を変更する治療戦略の有効性を検証した第Ⅲ相試験として、HER2陰性ではCREATE-X試験、HER2陽性ではKATHERINE試験がある。

CREATE-X試験1)では、StageⅠ-ⅢB のHER2陰性乳癌に対しアンスラサイクリンもしくはタキサンを含む標準的な術前化学療法を行った後に手術を施行し、pCRが得られていない910例を、術後は標準的な治療のみの群と標準的な治療にカペシタビン(保険適用外)6-8コース併用をする群に1:1にランダム化割り付けをした。計画された中間解析でカペシタビン併用群の有効性が認められ、追跡期間の中央値が3.6年の時点で結果が公表された。主要評価項目のDFSはHR 0.70(95%CI, 0.53-0.92, p=0.01)と改善し、OSでもHR 0.59 (95%CI, 0.39-0.90, p=0.01)と有意な改善が認められた。尚、ホルモン受容体発現別のサブグループ解析がDFSについてなされたが、カペシタビン併用群で改善の傾向が一貫して認められた。主な有害事象は、カペシタビン併用群でGrade3の手足症候群が11.1%、Grade3以上の下痢が2.9%で認められた。

もう1つの試験であるKATHERINE試験2)では、HER2陽性乳癌に対し標準的な術前化学療法後に手術を行いpCRが得られていない1486例を、術後にトラスツズマブを計1年間投与する群とトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)(保険適用外)を計1年間投与する群に1:1にランダム化割り付けを行った。また、内分泌療法と放射線療法が必要な場合は標準的な方法で行うことが許容された。追跡期間の中央値が41.1カ月の時点での中間解析で有効性が事前に規定された水準を上回り結果が公表された。主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(IDFS)が、T-DM1群で有意に良好な結果となった(HR 0.50; 95%CI, 0.39-0.64,p<0.001)。また、ホルモン受容体陽性、陰性に関わらず一貫してIDFSは改善された。尚、OSについてはT-DM1群での有意な改善は認めていないが、現時点では十分な解析ができるイベント数に達していなかった。重篤な有害事象はトラスツズマブ群で8.1%、T-DM1群で12.7%であった。T-DM1群のGrade3以上の有害事象で最も頻度が高かったのは血小板減少で5.7%であった。

これら2つの試験から術前化学療法にてpCRが得られなかった症例に対して、術後治療としてHER2陰性ではカペシタビンの追加を、HER2陽性ではT-DM1への変更を行うことで有害事象は増加するものの予後が改善する可能性が示された。この治療方針は、今後標準治療となる可能性があり全生存期間を含めたフォローアップのデータが注目される。

また、治療変更を、pCRを指標に術後療法に対し行うのではなく、術前治療中の腫瘍縮小の有無を指標にその後の術前治療内容に対し行う治療方針の有効性も検証されている。第Ⅲ相試験のGeparTrio試験3)では、術前化学療法としTAC(ドセタキセル+ドキソルビシン+シクロホスファミド)をまず2サイクル行い(N=2072 )、腫瘍縮小があったearly-responder群をTAC 4サイクル追加(N=704) と6サイクル追加(N=686) に無作為割り付けし、腫瘍縮小がなかったearly-nonresponder群をTAC 4サイクル(N=321) 追加とNX(ビノレルビン+カペシタビン)4サイクル (N=301)への変更に無作為化比較を行った。それぞれのTAC 4サイクル追加を標準治療群、TAC 6サイクル追加とNX 4サイクルへ変更をレスポンスガイド群としたとき主要評価項目のpCR率では差は認めなかったが、副次的評価項目であるDFSはHR 0.71(95%CI, 0.60 to 0.85; P=0.0003)と、標準群と比較しレスポンスガイド群で有意に改善された。しかし、サブグループ解析を見ると、ホルモン受容体陰性ではHR 0.94(95%CI, 0.73 to 1.22)とDFSの改善が認められなかった。

このように腫瘍縮小を指標としたレスポンスガイド治療は探索的な結果であるものの、予後を改善する可能性が示唆された。しかし、ホルモン受容体陰性も対象とできるのか、early-nonresponderの治療はNXが最適なのかといった点については今後のさらなる検証が必要である。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“breast neoplasms(またはbreast cancer)”,“neoadjuvant therapy or preoperative therapy”,“response guide or response guided”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2018年12月までとし,15件がヒットした。また,ハンドサーチで2件の文献を追加した。

参考文献

1)Masuda N, Lee SJ, Ohtani S, Im YH, Lee ES, Yokota I, et al. Adjuvant Capecitabine for Breast Cancer after Preoperative Chemotherapy. N Engl J Med. 2017;376(22):2147-59. [PMID: 28564564]

2)von Minckwitz G, Huang CS, Mano MS, Loibl S, Mamounas EP, Untch M, et al; KATHERINE Investigators. Trastuzumab emtansine for residual invasive HER2-positive breast cancer. N Engl J Med. 2019;380(7):617-28. [PMID: 30516102]

3)von Minckwitz G, Blohmer JU, Costa SD, Denkert C, Eidtmann H, Eiermann W, et al. Response-guided neoadjuvant chemotherapy for breast cancer. J Clin Oncol. 2013;31(29):3623-30. [PMID:24002511]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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