2021年3月31日更新

FQ8.乳房全切除後の対側乳房や乳房温存手術後の温存乳房に超音波検査や造影乳房MRIは定期的に必要か?

3.乳癌の精密検査(治療後)

ステートメント
・術後,局所再発や対側乳房の早期発見のためには,定期的な超音波検査が行われることが望ましい。

背 景

浸潤性乳癌術後患者は10年で10~22%に同側再発がある1)とされ,対側乳房の乳癌も10%程度発生することが知られており,定期的な同側,対側乳房の画像診断検査が経験的に行われているが,科学的根拠は不明であり,施設ごとに検査方法,期間の差異が大きい。術後の同側,対側乳房の検査には,マンモグラフィ,超音波検査,造影乳房MRIなどが行われており,これらの有効性を検討することにしたが,画像診断モダリティは常に進歩しているため,今回,近年の報告に限定して検索し,乳癌術後の同側,対側乳房の画像診断の必要性を検討した。

マンモグラフィに関しては,すでに多くの施設で,乳房温存手術後は1~2年おきにマンモグラフィが行われており,コンセンサスが得られていると思われる。新しいエビデンスとしては,Annual surveillance mammography(ASM)の意義に関して,669例の同側乳房再発,対側再発した症例の後ろ向きの解析報告2)がある。これによるとASMを受けている患者での乳房温存手術後死亡ハザードが0.865と下がっており,生命予後を改善されていることになる。術後死亡率低減効果があると予測されるサーベイランスであることになり,患者負担も少ない検査であることから,術後1年ごとの定期的マンモグラフィは強く推奨される。

そこで,本項では超音波検査,造影乳房MRIについてフューチャーリサーチクエスチョン(FQ)として検討した。

解 説

1)超音波検査

乳房温存手術後の超音波検査は,手術瘢痕や瘢痕,変形などによるアーチファクト(シャドー)などにより非手術後の乳房に比べ,検査自体が難しくなると想定されるため,瘢痕近傍の再発診断は決して容易ではない。しかし,J-STARTの結果などから,アジア人に多いとされる高濃度乳房では超音波の検出感度が特に浸潤癌では高く,小さいサイズで発見されていることから,術後乳房であっても超音波検査が早期再発浸潤癌の検出に有効であることが期待される。

最近,日本人と乳房組成が近いと考えられる韓国での局所再発例診断モダリティに関する臨床試験3)が報告されている。この報告では,局所再発乳癌は初回乳癌の組織型に類似した組織型が多かったとされているので,原発乳癌の診断手法がそのまま術後検査の参考になると考えられる。さらに,局所再発を診断したモダリティの初回手術時サブタイプ別の解析結果が報告されている〔以下,括弧内は(各診断モダリティでの診断数/局所再発診断数)である〕。最も多かったLuminalタイプでは視触診(9/35),マンモグラフィ(11/31),超音波(15/22),MRI(8/17)であったことから,超音波による定期検査が推奨されている。しかし,HER2タイプでは,触診(11/35),マンモグラフィ(14/31),超音波(2/22),MRI(4/17)であり,マンモグラフィが勧められている。さらにトリプルネガティブタイプでは,触診(15/35),マンモグラフィ(6/31),超音波(5/22),MRI(5/17)となっており,特定の画像診断に対する優位性はなかった。

以上より,乳房温存手術後,特にLuminalタイプの乳癌の局所再発早期診断においては,超音波検査が有用であり,他の組織型では,他モダリティも併用することが推奨される。

特に超音波検査は他のモダリティと比べ,頻回に検査を行っても,被曝も薬剤曝露もコスト負担も少ない。疑わしい所見があれば,1年以下(6カ月など)の間隔で検査により,経時的変化を確認することも可能であり,積極的に検査を行うことが勧められる。この場合,重点的に検索する部位の再現性が重要であるので,疑わしい病変があれば,その位置情報を可及的正確に記録し,保存することが必要である。

2)MRI

同側の乳癌再発の早期発見における定期的MRIの有用性を評価した臨床試験は認められなかったが,フォローアップ中の対側乳癌検出に関する有用性が報告されている4)。320例の乳癌術後患者でのMRIサーベイランス研究では,20%の対側乳癌の浸潤癌リスク軽減効果(非浸潤癌で検出する)が認められた。また,MRIが有用な因子の多変量解析では,初発乳癌の組織型には関係なく,高濃度乳房症例(p<0.0007)や初発がマンモグラフィオカルトであった乳癌症例(p<0.0001)など,初回診断時にも検出困難であった乳癌症例において有意に有用性が認められた。

以上より,初発乳癌がマンモグラフィ等で検出困難であった症例,または高濃度乳房症例では,対側乳癌の早期発見を目的としたMRI検査は許容される。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Local Recurrence of Breast Cancer”, “Ipsilateral Recurrence of Breast Cancer”, “Breast Cancer Follow up”のキーワードで検索した。抽出された新しい報告から,本テーマに関連する最新の4編の関連論文を選択,総括した。

参考文献

1)Voinea SC, Sandru A, Blidaru A. Management of breast cancer locoregional recurrence. Chirurgia(Bucur). 2017;112(4):429―435. [PMID:28862119]

2)Paszat LF, Sutradhar R, Gu S, Rakovitch E. Annual surveillance mammography after early―stage breast cancer and breast cancer mortality. Curr Oncol. 2016;23(6):e538―45. [PMID:28050142]

3)Chu AJ, Chang JM, Cho N, Moon WK. Imaging surveillance for survivors of breast cancer:correlation between cancer characteristics and method of detection. J Breast Cancer. 2017;20(2):192―7. [PMID:28690656]

4)Hegde JV, Wang X, Attai DJ, DiNome ML, Kusske A, Hoyt AC, et al. Predictors associated with MRI surveillance screening in women with a personal history of unilateral breast cancer but without a genetic predisposition for future contralateral breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2017;166(1):145―6. [PMID:28702891]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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