2021年3月31日更新

CQ4.手術可能なホルモン受容体陽性浸潤性乳癌を有する女性に術前内分泌療法を勧められるか?

1.初期治療

CQ4a 閉経後女性の場合

推 奨
・手術可能なホルモン受容体陽性閉経後浸潤性乳癌に対する乳房温存手術を目的とした術前内分泌療法は,その有効性は化学療法と同等であるものの,至適投与期間や予後への影響が不明であることから,現時点で推奨を決定することはできない。
〔推奨の強さ:2~3,エビデンスの強さ:弱,合意率:合意に至らず〕

CQ4a 閉経前女性の場合

推 奨
・手術可能なホルモン受容体陽性浸潤性乳癌を有する閉経前女性に対して乳房温存手術を目的とした術前内分泌療法のエビデンスは乏しく勧められない(行わないことを弱く推奨する)。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:75%(9/12)〕

背景・目的

手術可能な乳癌に対して化学療法を行う場合,術前でも術後でも予後に関しては同等であるが,術前に行うことによって乳房温存率は改善する。ここでは術前内分泌療法の予後や乳房温存率への影響を検討した。

解 説

1)閉経後女性

本CQに対する推奨の作成にあたっては,閉経後女性に対する ①術前内分泌療法と術前化学療法とを比較した3試験(GEICAM試験1),NEOCENT試験,Semiglazov et al2)),また,②術前内分泌療法を比較した4試験(IMPACT試験3),P024試験,PROACT試験4),Ellis et al5))をもとに検討した。①術前化学療法に比べ術前内分泌療法は有害事象が少なく(44.8% vs 23.7%,HR 0.64,95%CI 0.48-0.85),乳房温存率は同等(28.3% vs 37.2%,HR 0.89,95%CI 0.78-1.01)である(図1)。②術前内分泌療法の比較ではアロマターゼ阻害薬(AI)は,タモキシフェン(TAM)と比べて,乳房温存率を向上させ(45% vs 33%,HR 0.81,95%CI 0.73-0.90),有害事象は同等であった(31% vs 33%,HR 0.98,95%CI 0.80-1.19)(図2)。しかし,長期予後への影響は不明であり,確立された至適投与期間はまだなく,エビデンスの強さは「弱」とした。

上述したように,閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対する術前内分泌療法は,術前化学療法と比較し,奏効率や乳房温存率の有効性は同等であり,有害事象の発生は明らかに少ない。しかし,長期予後への影響は不明であること,至適投与期間も不明であることから,益が勝るとはいえないと考えられた。

術前内分泌療法は,術前化学療法と比べて明らかに有害事象が少ないため,患者の希望のばらつきは少ないと考えられた。

推奨決定会議では,投票は3回行われたが,いずれも,「行うことを弱く推奨」が60%,「行わないことを弱く推奨」が40%であり,意見が分かれた。長期予後のデータが待たれることや,至適投与期間の確立が今後の課題であると結論付けられた。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「手術可能なホルモン受容体陽性閉経後浸潤性乳癌に対する乳房温存手術を目的とした術前内分泌療法は,その有効性は化学療法と同等であるものの,至適投与期間や予後への影響が不明であることから,現時点で推奨を決定することはできない」とした。

 

2)閉経前女性

本CQに該当する閉経前女性に対するランダム化比較試験は,①術前内分泌療法と術前化学療法を比較した1試験(GEICAM試験のサブセット解析),また,②術前内分泌療法のレジメンを比較した1試験(STAGE試験6))のみであった。GEICAM試験のサブセット解析では,閉経前女性に対する術前内分泌療法は術前化学療法と比べ奏効率が劣った(44% vs 75%)。一方,術前内分泌療法のレジメンを比較したSTAGE試験では,アロマターゼ阻害薬(AI+LH―RH)は,タモキシフェン(TAM+LH―RH)と比べ乳房温存率を向上させ(88% vs 68%),有害事象は同等(52% vs 52%)であった。以上のようにエビデンスは極めて限られることから,エビデンスの強さは「とても弱い」とした。

限られた試験の結果においても,術前内分泌療法は,術前化学療法と比較して,乳房温存率が劣ると考えられ,害が勝ると考えられた。

術前内分泌療法は有害事象が少ないため患者の期待は高いものの,エビデンスが極めて限られることなどから,術前内分泌療法に対する患者希望のばらつきは大きいと考えられた。

推奨決定会議では,1回の投票で「行わないことを弱く推奨」および「行わないことを強く推奨」はそれぞれ合意率75%(9/12),25%(3/12)であった。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「手術可能なホルモン受容体陽性浸潤性乳癌を有する閉経前女性に対して乳房温存手術を目的とした術前内分泌療法のエビデンスは乏しく勧められない(行わないことを弱く推奨する)」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoadjuvant Therapy”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Tamoxifen”,“Aromatase Inhibitors”,“Letrozole”,“Anastrozole”,“Exemestane”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,1,731件がヒットした。一次スクリーニングで24編の論文を抽出し,二次スクリーニングで内容を検討し,最終的に3編の論文を抽出した。ホルモン受容体陽性DCISに対する術後内分泌療法によって無浸潤癌乳房内再発率,全生存期間の改善,治療関連有害事象に関して定性的システマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビューエビデンス総体

参考文献

1)Alba E, Calvo L, Albanell J, De la Haba JR, Arcusa Lanza A, Chacon JI, et al;GEICAM. Chemotherapy(CT)and hormonotherapy(HT)as neoadjuvant treatment in luminal breast cancer patients:results from the GEICAM/2006―03, a multicenter, randomized, phase―Ⅱ study. Ann Oncol. 2012;23(12):3069―74. [PMID:22674146]

2)Semiglazov VF, Semiglazov VV, Dashyan GA, Ziltsova EK, Ivanov VG, Bozhok AA, et al. Phase 2 randomized trial of primary endocrine therapy versus chemotherapy in postmenopausal patients with estrogen receptor―positive breast cancer. Cancer. 2007;110(2):244―54. [PMID:17538978]

3)Smith IE, Dowsett M, Ebbs SR, Dixon JM, Skene A, Blohmer JU, et al;IMPACT Trialists Group. Neoadjuvant treatment of postmenopausal breast cancer with anastrozole, tamoxifen, or both in combination:the Immediate Preoperative Anastrozole, Tamoxifen, or Combined with Tamoxifen(IMPACT)multicenter double―blind randomized trial. J Clin Oncol. 2005;23(22):5108―16. [PMID:15998903]

4)Cataliotti L, Buzdar AU, Noguchi S, Bines J, Takatsuka Y, Petrakova K, et al. Comparison of anastrozole versus tamoxifen as preoperative therapy in postmenopausal women with hormone receptor―positive breast cancer:the Pre―Operative“Arimidex”Compared to Tamoxifen(PROACT)trial. Cancer. 2006;106(10):2095―103. [PMID:16598749]

5)Ellis MJ, Coop A, Singh B, Mauriac L, Llombert―Cussac A, Jänicke F, et al. Letrozole is more effective neoadjuvant endocrine therapy than tamoxifen for ErbB―1― and/or ErbB―2―positive, estrogen receptor―positive primary breast cancer:evidence from a phase Ⅲ randomized trial. J Clin Oncol. 2001;19(18):3808―16. [PMID:11559718]

6)Masuda N, Sagara Y, Kinoshita T, Iwata H, Nakamura S, Yanagita Y, et al. Neoadjuvant anastrozole versus tamoxifen in patients receiving goserelin for premenopausal breast cancer(STAGE):a double―blind, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2012;13(4):345―52. [PMID:22265697]

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