2021年3月31日更新

CQ1.全乳房照射において通常分割照射と同等の治療として寡分割照射は勧められるか?

1.乳房手術後放射線療法

推 奨

・50歳以上,乳房温存手術後のpT1―2N0,全身化学療法を行っていない,乳癌の患者では強く勧められる。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:中,合意率:100%(12/12)〕

・上記以外の患者ではデータがいまだ十分とはいえず,行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:92%(11/12)〕

背景・目的

乳房温存手術後の全乳房には経験的に4.5~5.5週かけて照射されるが,カナダやイギリスでは3週程度で完遂する寡分割照射が行われている。その安全性および効果についてシステマティック・レビューを行った。

解 説

わが国では全乳房照射の線量・分割については,総線量45~50.4 Gy/1回線量1.8~2.0 Gy/4.5~5.5週が経験的かつ標準的に行われてきた(☞放射線:総説1参照)。一方,欧米では1回線量を増やし,より短期間で照射を終了する寡分割照射が標準的に行われている国もある。カナダで実施されたランダム化比較試験では42.5 Gy/16回/22日と50 Gy/25回/35日が比較され,両者の10年局所再発率,全生存率,整容性に差を認めなかった。局所再発率のサブグループ解析でも,年齢,腫瘍径,エストロゲン受容体発現の有無,全身療法の有無で有意差を認めなかった。腫瘍の高グレード群では通常分割が有意に良好であった1)が,中央病理診断で再分析した結果,グレードやサブタイプ別でも差がなかった2)

イギリスでも至適な線量・分割方法を検証すべく,ランダム化比較試験が行われた。START―A試験では照射期間を5週として50 Gy/25回,41.6 Gy/13回,39 Gy/13回の3群を比較し,START―B試験では50 Gy/25回/5週とイギリスでよく用いられている40 Gy/15回/3週の2群を比較した。START-A,B試験ともに通常分割と寡分割照射では9年以上に観察期間を延ばしても局所再発や局所・領域リンパ節再発に差がみられなかったが,START―B試験では遠隔再発,乳癌関連死,全死亡率が寡分割照射群で有意に少なかった。晩期有害事象をみるとSTART―A試験では50 Gyと41.6 Gyの間に有意差はなかったが,50 Gyと39 Gyでは寡分割照射群で腫瘍床の乳房硬結,毛細血管拡張および乳房浮腫の頻度は少なかった。START-B試験でも同様に40 Gy群で乳房萎縮,毛細血管拡張および乳房浮腫が少なかった3)。これらの結果は現在,イギリスで広く用いられている40 Gy/15回/3週法を支持する根拠となっている。

今回行ったシステマティック・レビューでは,寡分割照射を通常分割照射と比べたリスク比(RR)は領域リンパ節再発(RR 1.24,95%CI 0.56‒2.77),局所再発(RR 0.93,95%CI 0.77‒1.12),遠隔再発(RR 1.1,95%CI 0.72‒1.68),全生存率(RR 0.92,95%CI 0.82‒1.04)で全く差を認めなかった。評価した有害事象のうち,急性期の放射線皮膚炎(RR 0.44,95%CI 0.26‒0.75),晩期の毛細管拡張(RR 0.68,95%CI 0.52‒0.91),乳房浮腫(RR 0.63,95%CI 0.51‒0.78)および乳房萎縮(RR 0.89,95%CI 079‒1.00)については寡分割照射群で有意に少なかった。他の晩期有害事象である放射線肺臓炎(RR 0.98,95%CI 0.14‒6.96),乳房線維化(RR 0.93,95%CI 0.83‒1.05),肋骨骨折(RR 0.87,95%CI 0.25‒3.10),整容性(RR 1.11,95%CI 0.99‒1.24)や虚血性心疾患(RR 0.71,95%CI 0.28‒1.79)には差がみられなかった。

このように寡分割照射による虚血性心疾患は10年をみても増加していない3)が,心臓障害は重篤な晩期障害の一つであるので長期追跡結果をもう少し待ちたい。1980年以前に開始された術後照射で10~15年以上の長期間を追跡した研究ではすべてにおいて心臓障害が増加していたとの報告もある4)。晩期心臓障害予防のためには可及的に多分割コリメータなどで心臓の被曝線量低減に努めねばならない。
2011年,米国放射線腫瘍学会(American Society for Radiation Oncology;ASTRO)によるガイドラインでは50歳以上,乳房温存手術後のpT1―2N0,全身化学療法を行っていない,中心軸平面での線量均一性が±7%以内の患者については,寡分割照射も従来の照射と同等であり,それ以外の症例にも寡分割照射は禁忌ではないとした5)。その後,最近のエビデンスを加え,2018年新しいガイドラインが示された。年齢制限や全身化学療法の施行などの制限が外され、接線照射野外の領域リンパ節照射が必要ない全ての症例に、寡分割照射が推奨された6)。ただし線量均一性は、3次元で105%以上領域の最小化が求められた。その他、Field in Field法の推奨や、セットアップ誤差が大きい例での画像誘導の推奨などが求められた。10年以上の長期観察を行った良質なデータは新たな報告がなく、今回の適応拡大には対しては慎重な対応を求める報告もある7)

本ガイドライン委員会でも全乳房の寡分割照射の適応条件緩和を検討した。上記2011年3条件以外の症例もサブグループ解析の報告では効果や有害事象に差を認めていないものの,観察期間が最も長いカナダの報告1)では対象患者の多くが3条件に当てはまるものであった。また,2011年以降,エビデンスレベルの高い報告はなく,2015年の診療ガイドラインと比較して推奨度を強めたが,適応条件については据え置くこととした。

一方,人種間の体格の差により寡分割照射が及ぼす有害事象の程度が日本人では異なる可能性もあり,300人を超える単一アームでJCOG0906試験が実施された。第一報では、急性有害事象と3年以内の晩期有害事象について解析がなされ、短期的には日本人でも寡分割照射が安全に行えることが報告された8)

このように心臓に関して長期間の観察が今しばらく必要と考えられるも、これまでのエビデンスでは通常分割照射と寡分割照射の効果は同等であり、有害事象も同等かもしくは軽度である。さらに寡分割照射では通院に要する時間および医療費が節約される。安全性と効果に違いがなければ、より短期間で治療を完遂できる利便性は高いので、患者選択や線量の均一性、心臓などの正常組織への線量に注意したうえで,寡分割照射は推奨される方法である。

前述した多数例を扱ったランダム化比較試験では上記3条件を満たす場合が多く,また虚血性心疾患ではより長期の観察期間が必要なため,エビデンスは強くない。しかし,寡分割照射が適応される患者では通常分割照射と効果は同等であり,有害事象も同等かもしくは軽度で,通院に要する時間や医療費も節約されるため,心臓などへの線量に注意したうえで,推奨される方法である。このような適応患者では好みや価値観のばらつきは少ない。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Dose Fractionation”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2014年~2017年3月とし,199件がヒットした。それ以外にハンドサーチで2編の論文が追加された。一次スクリーニングで47編,二次スクリーニングで45編の論文が抽出され,定性的および定量的システマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Whelan TJ, Pignol JP, Levine MN, Julian JA, MacKenzie R, Parpia S, et al. Long―term results of hypofractionated radiation therapy for breast cancer. N Engl J Med. 2010;362(6):513―20. [PMID:20147717]

2)Bane AL, Whelan TJ, Pond GR, Parpia S, Gohla G, Fyles AW, et al. Tumor factors predictive of response to hypofractionated radiotherapy in a randomized trial following breast conserving therapy. Ann Oncol. 2014;25(5):992―8. [PMID:24562444]

3)Haviland JS, Owen JR, Dewar JA, Agrawal RK, Barrett J, Barrett―Lee PJ, et al;START Trialists’ Group. The UK Standardisation of Breast Radiotherapy(START)trials of radiotherapy hypofractionation for treatment of early breast cancer:10―year follow―up results of two randomised controlled trials. Lancet Oncol. 2013;14(11):1086―94. [PMID:24055415]

4)Demirci S, Nam J, Hubbs JL, Nguyen T, Marks LB. Radiation―induced cardiac toxicity after therapy for breast cancer:interaction between treatment era and follow―up duration. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;73(4):980―7. [PMID:19251085]

5)Smith BD, Bentzen SM, Correa CR, Hahn CA, Hardenbergh PH, Ibbott GS, et al. Fractionation for whole breast irradiation:an American Society for Radiation Oncology(ASTRO)evidence―based guideline. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011;81(1):59―68. [PMID:20638191]

6) Smith BD, Bellon JR, Blitzblau R, Freedman G, Haffty B, Hahn C, et al. Radiation therapy for the whole breast: Executive summary of an American Society for Radiation Oncology (ASTRO) evidence-based guideline. Pract Radiat Oncol 2018; 8(3): 145-52.[PMID: 29545124]

7)Contemporary Guidelines in Whole-Breast Irradiation: an Alternative Perspective: International Journal of Radiation Oncology • Biology • Physi, in press. [PMID: 30366007]

8) Nozaki M, Kagami Y, Shibata T, Nakamura K, Ito Y, Nishimura Y, et al. A primary analysis of a multicenter, prospective, single-arm, confirmatory trial of hypofractionated whole breast irradiation after breast-conserving surgery in Japan: JCOG0906. Jpn J Clin Oncol 2019; 49(1): 57-62.  [PMID: 30428042]

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