2021年3月31日更新

総説 ライフスタイルと乳癌予後との関連

7.乳癌患者の生活習慣・環境因子と予後の関連

これまで欧米諸国を中心に乳癌発症リスクと食物・栄養との関連が精力的に検討され,膨大なエビデンスが蓄積している。これらのエビデンスをもとに因果関係を評価した報告書として代表的なものにWorld Cancer Research Fund;WCRF(世界がん研究基金)/American Institute for Cancer Research;AICR(米国がん研究協会)が行った「食物・栄養・身体活動とがん予防:国際的な視点から」がある1)(詳細は疫学・予防:2.乳癌発症リスク―①生活習慣・環境因子 総説に記載)。このContinuous Update Projectとして,2014年にDiet,nutrition,physical activity and Breast Cancer Survivorsが発表された。ここではこの報告の内容を紹介したい〔2014年以降の研究結果については個別のクリニカルクエスチョン(CQ)を参照のこと〕。乳癌になった女性が,病気を克服するだけでなく,より長く生きるためにはライフスタイルが与える影響を調べることが重要である。比較的新しい分野であるため,まだまだ明らかにしなければならないことは多いものの,ライフスタイルによって予後が改善されたり,二次癌のリスクが減少したりするかもしれないというエビデンスがいくつか示されるようになってきたため,これまでのエビデンスをまとめ,現時点でのサマリーを示すことを目的として行われた。

この報告では,すでに治った人も含めて,癌と診断された女性乳癌患者を対象に,食事,体重,身体活動と,乳癌死亡,二次乳癌,他の疾患との関連が調べられた。この報告で検討を行った研究数は85,乳癌患者数は164,416人,死亡数は42,572人にのぼる。結論として,これまでに行われた研究の質と量が十分でなく,乳癌予後に関して特別な推奨ができるほどエビデンスが強くないということであったが,いくつかの要因については,予後との関連が示唆されるものもあった。それは,「健康な体重」「活動的なこと」「食物繊維を含んだ食物を食べること」「大豆を含んだ食品を食べること」「総脂肪,特に飽和脂肪酸摂取を減らすこと」である。エビデンスのまとめを表1に示す。本ガイドラインでは,肥満,脂肪摂取,身体活動,アルコール摂取,喫煙,イソフラボン,乳製品に関してCQとして取り扱っている。

全体の推奨として,乳癌の治療後に対するアドバイスは,医療に関するアドバイスと矛盾しない限り,癌予防のガイドライン(詳細は疫学・予防:2.乳癌発症リスク―①生活習慣・環境因子 総説に記載)に従う。つまり,健康的な食事,活動的であること,健康的な体重を維持すること,である。また,乳癌患者に特化した推奨を行うためには,質,量ともにさらなる研究が必要である,としている。

このプロジェクトには日本人に関するエビデンスはほとんど含まれていない。現在,日本人乳癌に対する大規模コホート研究2)も実施されており,結果が待たれるところである。

参考文献

1)World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research:Continuous Update Project. Diet, nutrition, physical activity and Breast Cancer Survivors. 2014.

2)Mizota Y, Ohashi Y, Iwase T, Iwata H, Sawaki M, Kinoshita T, et al. Rainbow of KIBOU(ROK)study:a breast cancer survivor cohort in Japan. Breast Cancer. 2018;25(1):60―7. [PMID:28547387]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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