2021年3月31日更新

FQ7.乳房温存手術後の温存乳房内再発に対するセンチネルリンパ節生検は勧められるか?

4.転移・再発乳癌に対する外科手術

FQ7a 初回手術時腋窩リンパ節郭清なしの場合

ステートメント
・腋窩リンパ節郭清よりもセンチネルリンパ節生検を行うことを考慮してもよい。

FQ7b 初回手術時腋窩リンパ節郭清ありの場合

ステートメント
・センチネルリンパ節生検を日常臨床で施行することの意義は確立しておらず,適用にあたっては十分な注意が必要である。

背 景

温存乳房内再発は遠隔再発のリスク因子である。しかし,その後の遠隔再発のリスクを予測できる因子は明らかでない。温存乳房内再発に対して,センチネルリンパ節生検(SNB)を施行し,センチネルリンパ節(SLN)転移の有無が評価できれば,その後の予後の予測および治療方針の決定に役立つ可能性がある。温存乳房内再発に対する再度のSNBの有用性と安全性について検討した。

解 説

本FQは当初,CQとしてシステマティック・レビューを行った。SNBの結果が初回腋窩手術の内容で異なるため,初回手術を腋窩郭清あり・なしで分けてそれぞれ評価を行った。FQ7a(初回手術時腋窩リンパ節郭清なしの場合)では腋窩郭清に対して,SNBを行うことが勧められるかが,FQ7b(初回手術時腋窩リンパ節郭清ありの場合)ではリンパ節手術なしに対して,SNBを行うことが勧められるかが問題となる。
抽出された論文はいずれも,後ろ向きの症例集積やコホート研究であり,前向き研究や比較研究がなく,エビデンスの強さは「とても弱い」と判断した。

生存率や無病生存率,QOLに言及した論文はほとんどなく,多くはSLN同定率・転移率,異所性SLN同定率・転移率(益),リンパ節再発率(害)に関する報告であった。一部に初回手術時に乳房全切除術が行われた症例も含まれていた。

初回手術時腋窩郭清なしの場合,腋窩リンパ節郭清を行うことに対するSNBとの比較となる。SLN同定率はリンフォシンチグラフィで57.1~97.6%,手術時では38.5~92.5%であった。同側腋窩以外の領域にSLNが同定される割合はリンフォシンチグラフィで5.6~44.6%,手術では8.2~44.6%であった。同側腋窩SLN転移率は2.7~15.6%,同側腋窩以外のSLN転移率は0~2.7%であった。リンパ節再発率は0~3.8%であった1)~7)

「益」としては,SNBを行うことは,予後の予測および治療方針の決定に役立つ可能性がある。さらに,リンパ節再発率は5%以下と低く,患側上肢の合併症・後遺症も腋窩郭清より少ないことは明らかである。「害」としては,SLNの同定率にばらつきが大きく,またSNBの正診率のデータは不十分である。以上より,SNBの手技の不安定性はあるものの,リンパ節再発は少なく,腋窩リンパ節郭清を行わないことの「益」が大きいと考えられ,現時点の実臨床でもセンチネルリンパ節生検は考慮してもよいと思われる。

初回手術時腋窩リンパ節郭清ありの場合,領域リンパ節手術を行わないことに対するSNBとの比較となる。SLN同定率はリンフォシンチグラフィで49.2~72.1%,手術時では29~60.5%であった。同側腋窩以外の領域にSLNが同定される割合はリンフォシンチグラフィで17~46.5%,手術では8.5~47.8%であった。同側腋窩SLN転移率は1.4~6.7%,同側腋窩以外のSLN転移率は7.9~16.3%であった。リンパ節再発率は0%,

患側上肢の合併症は0~2.2%であった1)2)5)8)~11)
このように,論文間にSNBの結果にばらつきが認められ,初回手術内容や施設間格差が影響していると考えられる。全体としてはSLN同定率・転移率は初回手術時腋窩リンパ節郭清なしのほうが高く,同側以外の領域のSLN同定率・転移率は初回手術時腋窩リンパ節郭清ありのほうが高い傾向にあった。

「益」としてはSNBを行うことは,予後の予測および治療方針の決定に役立つ可能性がある。「害」としては,SLNの同定率にばらつきが大きく,「初回腋窩リンパ節郭清なしの場合」よりは同定率がさらに低く,SNBの正診率のデータは不十分である。患側上肢の合併症・後遺症発生頻度は低いが,領域リンパ節手術を行わないよりは発生する可能性があり,「害」はやや大きい可能性がある。以上より,現時点の実臨床においてSNBを行うことの意義は確立しておらず,慎重な対応が必要である。今後のさらなる症例集積による長期成績の結果が期待される。

以上,本FQは当初CQとして取り上げ,定性的システマティック・レビューを行い討議したが,推奨会議において,初回SNBに比べて,再SLNの意義がいまだ十分に確立しておらず,予後への影響が明らかでないことを指摘され,CQとして取り上げるには時期尚早との意見が出され,今回はfuture research question(FQ)として取り上げることにした。

検索キーワード・参考にした二次資料

本FQは当初,CQとしてシステマティック・レビューを行った。PubMedで“Mastectomy, Segmental”,“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Sentinel Lymph Node Biopsy”,“ipsilateral”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,226件がヒットした。それ以外にハンドサーチで数編の論文が追加された。一次スクリーニングで23編,二次スクリーニングでFQ7aは7編,FQ7bは7編の論文が抽出され,定性的システマティック・レビューを行った。また,2編のメタアナリシスの論文も参考にした12)13)

参考文献

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2)Vugts G, Maaskant―Braat AJ, Voogd AC, van Riet YE, Luiten EJ, Rutgers EJ, et al. Repeat sentinel node biopsy should be considered in patients with locally recurrent breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2015;153(3):549―56. [PMID:26358709]

3)van der Ploeg IM, Oldenburg HS, Rutgers EJ, Baas―Vrancken Peeters MJ, Kroon BB, Valdes Olmos RA, et al. Lymphatic drainage patterns from the treated breast. Ann Surg Oncol. 2010;17(4):1069―75. [PMID:19949880]

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9)Karanlik H, Ozgur I, Kilic B, Fathalizadeh A, Sanli Y, Onder S, et al. Sentinel lymph node biopsy and aberrant lymphatic drainage in recurrent breast cancer:Findings likely to change treatment decisions. J Surg Oncol. 2016;114(7):796―802. [PMID:27778360]

10)Kaur P, Kiluk JV, Meade T, Ramos D, Koeppel W, Jara J, et al. Sentinel lymph node biopsy in patients with previous ipsilateral complete axillary lymph node dissection. Ann Surg Oncol. 2011;18(3):727―32. [PMID:20593244]

11)Axelsson CK, Jonsson PE. Sentinel lymph node biopsy in operations for recurrent breast cancer. Eur J Surg Oncol. 2008;34(6):626―30. [PMID:18029134]

12)Maaskant―Braat AJ, Voogd AC, Roumen RM, Nieuwenhuijzen GA. Repeat sentinel node biopsy in patients with locally recurrent breast cancer:a systematic review and meta―analysis of the literature. Breast Cancer Res Treat. 2013;138(1):13―20. [PMID:23340861]

13)Ahmed M, Baker R, Rubio IT. Meta―analysis of aberrant lymphatic drainage in recurrent breast cancer. Br J Surg. 2016;103(12):1579―88. [PMID:27598038]

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