2021年3月31日更新

総説 食事関連要因と乳癌発症リスクとの関連

2.乳癌発症リスク―①生活習慣・環境因子

これまで欧米諸国を中心に乳癌と食物・栄養との関連が精力的に検討され,膨大なエビデンスが蓄積されている。これらのエビデンスをもとに因果関係を評価した報告書として代表的なものにWorld Cancer Research Fund;WCRF(世界がん研究基金)/American Institute for Cancer Research;AICR(米国がん研究協会)が行った「食物・栄養・身体活動とがん予防:国際的な視点から」がある1)。これは1997年に第1版が発表されて以来,統一的な基準で包括的にエビデンスの信頼性を評価した報告として,世界中の行政および医療関係者,研究者の間で広く用いられてきた。2007年11月にはエビデンスをアップデートする形で第2版が発行され,ウェブサイトでも内容が公開されている(http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-cup/second-expert-report1)。この報告書は,2005年末までの文献検索結果に基づくものであるが,その後,部位別に更新作業が進められ,乳癌については,2010年に2007年末までのエビデンスに基づく更新版がウェブサイトに公開され,さらに2017年には2015年4月末までのエビデンスに基づく更新版が公開された(http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-findings-reports/breast-cancer)。ここでは最新版の報告書をもとに,食事関連要因と乳癌発症リスクとの関連における因果関係評価の国際的な現状を概説する。

第2版では,エビデンスのレビュー結果をもとにその因果関係の確からしさを総合的に評価して,最終的に「Convincing(確実)」,「Probable(ほぼ確実)」,「Limited—suggestive(可能性あり)」,「Limited—no conclusion(証拠不十分)」,「Substantial effect on risk unlikely(大きな関連なし)」の5段階に分類している。この方法は,その後の更新版でも踏襲している。「確実」と評価されるには,複数のコホート研究のエビデンスがあること,それらの結果が一致していること,バイアスをできるだけ排除した質の高い研究であること,量反応関係があること,動物実験などにより生物学的なメカニズムの説明が可能であること,などの要件を満たす必要がある。「ほぼ確実」という評価は,必ずしもコホート研究である必要はないが,複数の疫学研究のエビデンスがあることに加え,上述の量反応関係以外の要件を満たす必要がある。したがって「確実」または「ほぼ確実」と評価された要因については,予防行動を取ることが勧められる。一方,「可能性あり」は,研究の方法論に問題がある場合や研究数自体が少ない場合があるものの,複数のコホート研究または症例対照研究のエビデンスがあり,それらの結果が概ね一致しており,動物実験などにより生物学的なメカニズムの説明が可能である場合が該当する。「証拠不十分」という評価は,研究数が少ない,結果が一致しない,研究の質が低いなどの理由から,より確定的な評価ができない場合になされる。したがって「可能性あり」または「証拠不十分」と評価された要因を予防行動に取り入れることは勧められない。また「大きな関連なし」という評価は,複数のコホート研究のエビデンスがあり,摂取量の最低群と最高群を比較したときのリスクが1に近いという結果が一致してみられ,バイアスをできるだけ排除した質の高い研究がある場合になされる。

評価結果のまとめを表1に示す。閉経前に診断される乳癌と閉経後に診断される乳癌とではリスク要因が異なる可能性があるため,評価は閉経前後に分けて行われた。閉経前後にかかわらず,成人期の高身長は「確実」なリスク要因で,授乳は「ほぼ確実」な予防要因に位置付けられている。アルコールも閉経前後にかかわらずリスク要因であるが,閉経前は「ほぼ確実」,閉経後は「確実」という評価であった。一方,肥満(腹部肥満を含む)は,閉経後では「確実」なリスク要因であるが,閉経前は「ほぼ確実」な予防要因という評価であった。さらに閉経後では,肥満関連要因として成人になってからの体重増加が「確実」なリスク要因と評価され,一方,18~30歳頃の青・壮年期の肥満は「ほぼ確実」な予防要因という評価であった。身体活動も閉経前後ともに予防要因であるが,閉経前は「可能性あり」,閉経後は「ほぼ確実」という評価であったが,閉経前では特に激しい身体活動は「ほぼ確実」という評価であった。その他,閉経前では出生時体重が重いことが「ほぼ確実」なリスク要因という評価であった。また閉経前後にかかわらず,非でんぷん野菜(エストロゲン受容体陰性のみ),食物に含まれるカロテノイド,カルシウムを多く含む食事は,予防要因として「可能性あり」という評価であり,さらに閉経前では乳製品も予防要因として「可能性あり」に位置付けられている。以上が「可能性あり」より上位に分類された要因であるが,その他,多くの食品・栄養素は「証拠不十分」と評価されている。また,「大きな関連なし」と判断された要因はない。表中に赤字で記載した要因は,本書においてバックグランウドクエスチョン(BQ)として取り上げている。詳細については各項を参照されたい。

主に欧米諸国から報告されたエビデンスに基づく評価は前述の通りであるが,日本人のエビデンスに基づく評価の現状について,国立がん研究センター研究開発費による研究班「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の評価結果を紹介する(表2)https://epi.ncc.go.jp/can_prev/)。本研究班でもWCRFや他の国際機関での評価方法を参考に規準を定め,日本人のエビデンスに基づき因果関係評価を行っている。その結果,閉経後の肥満は「確実」なリスク要因,閉経前の肥満(BMIが30以上の場合),喫煙および受動喫煙はリスク要因として「可能性あり」という評価であった。閉経後の肥満は国際的な評価と一致しているが,閉経前の肥満については国際的評価とは逆の評価であった。また運動,授乳,大豆およびイソフラボン摂取は予防要因として「可能性あり」という評価であった。運動および授乳は,国際的評価よりランクは劣るものの同じく予防要因に位置付けられているが,国際的には「証拠不十分」となっている大豆およびイソフラボン摂取が「可能性あり」と1つ上の評価となっている。その他,国際的には「確実」ないしは「ほぼ確実」なリスク要因である飲酒は,日本人のエビデンスをみる限り,「データ不十分」という評価にとどまっている。

このように必ずしも日本人を対象とした評価は,国際的な評価と一致しているわけではないが,今回の評価結果を生活習慣改善による乳癌予防の観点から見直すと,個人レベルで実践に値する要因は,アルコール,肥満,身体活動であり,アルコール摂取を控え,閉経後の肥満を避けるために体重を管理し,身体活動量を増やすことが重要である。

参考文献

1)World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Washington DC, AICR, 2007.

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