2021年3月31日更新

CQ23.HER2陽性転移・再発乳癌に対する二次治療で推奨される治療は何か?

2.転移・再発乳癌

推 奨
・トラスツズマブ投与中もしくは投与後に病勢進行となったHER2陽性転移・再発乳癌に対する二次治療では,トラスツズマブ エムタンシンの投与を強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:中,合意率:100%12/12)〕

・トラスツズマブ+化学療法を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:92%(11/12)〕

ラパチニブ+カペシタビンの併用療法を行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

背景・目的

本項では,トラスツズマブ投与中もしくは投与後に病勢進行(PD)となったHER2陽性転移・再発乳癌に対する二次以降の治療について検証した(薬物:2.転移・再発乳癌 総説6)参照)。

解 説

1)トラスツズマブ エムタンシン(T―DM1)

本レジメンに関するランダム化比較試験が1編存在し,定性的システマティック・レビューを行った。

HER2陽性局所進行または転移・再発乳癌でタキサン+トラスツズマブ既治療例に対する,T―DM1 vsカペシタビン+ラパチニブ(対照群:XL)の二重盲検ランダム化第Ⅲ相試験(EMILIA試験)(n=991)において,PFS(T-DM1群9.6カ月,XL群6.4カ月,HR 0.65,95%CI 0.55-0.77)1)およびOS(T-DM1群29.9カ月,XL群25.9カ月,HR 0.75,95%CI 0.64-0.88)2)は,T-DM1群で有意に延長していた。奏効率もT―DM1群43.6%,XL群30.8%とT-DM1群で良好であった。安全性においてはT-DM1群でXL群より多く認められたGrade 3以上の有害事象は,血小板減少症(14% vs 0.4%),AST上昇(4.5% vs 1.4%)および貧血(3.9% vs 2.3%)のみで,下痢(1.8% vs 21%),手足症候群(0% vs 18%),嘔吐(1% vs 4.9%)などはXL群に多い結果であった2)。QOLについてはQOLを維持できる期間(T-DM1群7.1カ月,XL群4.6カ月,HR 0.796,95%CI 0.67-0.95)がT-DM1群のほうが有意に長い3)。また,トラスツズマブ+ペルツズマブ+化学療法により病勢進行となった場合の二次治療としてのT-DM1使用のデータはまだない。

EMILIA試験は非盲検化ランダム化試験である点,39%(500症例)が三次治療以上である点などから,エビデンスの強さは「中」とした。

二次治療におけるT-DM1の予後延長効果(益)は明らかであり,毒性(害)が低く,バランスは確実に益が上回ると考えられる。本レジメンに対する患者希望は一致していると考えられる。わが国におけるコスト評価の文献はない。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「トラスツズマブ投与中もしくは投与後に病勢進行となったHER2陽性転移・再発乳癌に対する二次治療では,トラスツズマブ エムタンシンの投与を強く推奨する」とした。

2)トラスツズマブ+化学療法

本レジメンに関するランダム化比較試験が1編およびプール解析が1編存在し,定性的システマティック・レビューを行った。

トラスツズマブ既治療(術後療法も含まれる)の転移・再発乳癌(n=156)に対するカペシタビン単独(X群)とカペシタビンとトラスツズマブ併用(XH群)とのランダム化第Ⅲ相試験が行われた(GBG 26/BIG 03-05試験)4)5)。奏効率(XH群48.1% vs X群27.0%,OR 2.50,p=0.0115),TTP(XH群8.2カ月,X群5.6カ月,HR 0.69,95%CI 0.48-0.97)ともにXH群で優れていたが,OS(XH群24.9カ月,X群20.6カ月,HR 0.94,p=0.734)の改善には至らなかった。本試験は予定した症例数よりもはるかに少ない症例数で解析を終了した。また,試験治療終了後に50%以上の症例でXH群へのクロスオーバーが行われており,データの解釈には注意を要する。トラスツズマブ使用後の二次治療としてトラスツズマブ継続については,2,618例のプール解析があり6),トラスツズマブ含有レジメンにおいて奏効率28.7%,TTP 7カ月,OS 24カ月であった。

上述したように,GBG 26/BIG 03―05試験においては,予定症例数に達しなかった点,クロスオーバーなどを考慮するとデータの解釈には注意を要すこと,真の有効性は不明であることなどから,エビデンスの強さは「弱」とした。

二次治療におけるトラスツズマブ+化学療法の真の予後延長効果(益)は不明であり,益と害のバランスは大きいとはいえない。特に化学療法に対する患者希望は多様であり,レジメン選択に大きく影響する。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「トラスツズマブ+化学療法を行うことを弱く推奨する」とした。

3)ラパチニブ+カペシタビン

本レジメンに関するランダム化比較試験がEMILIA試験の他に1編存在し,定性的システマティック・レビューを行った。EMILIA試験については本CQの1)を参照。

化学療法やトラスツズマブで病勢が進行したHER2陽性転移・再発乳癌(n=324)に対するカペシタビン単独(X群)vsラパチニブとカペシタビン併用(XL群)のランダム化第Ⅲ相試験が行われた(EGF 100151試験)7)8)。予定された中間解析の結果,TTP(ランダム化から病勢進行ないし乳癌関連死まで,XL群8.4カ月vs X群4.4カ月,HR 0.49,95%CI 0.34-0.71,p<0.001),PFS(ランダム化から病勢進行ないし原因を問わない死亡まで,XL群8.4カ月vs X群4.1カ月,HR 0.47,95%CI 0.33-0.67,p<0.001),奏効率(XL群22% vs X群14%,p=0.09)において併用群のほうが優れていた。中間解析において併用療法の有用性が明らかになり,新規症例の組み入れが中止された。本試験においてカペシタビン単独群の22%が併用群へのクロスオーバーが行われており,データの解釈には注意を要する。最終解析ではOS(XL群75.0週vs X群64.7週,HR 0.87,95%CI 0.71-1.08,p=0.21)の改善には至らなかったが,クロスオーバー症例を除外した解析ではOS(XL群75.0週vs X群56.4週,HR 0.78,95%CI 0.62-0.97,p=0.023)は併用群で延長していた。有害事象は,併用により下痢(60%),消化不良(11%),皮疹(27%)などの増加が認められる。

EMILIA試験,EGF 100151試験はともに非盲検化ランダム化試験である点,クロスオーバーなどを考慮するとデータの解釈には注意を要し,エビデンスの強さは「中」とした。

上述のエビデンスより二次治療におけるラパチニブ+カペシタビンの使用に関しては,予後延長効果(益)はデータの解釈には注意を要するものの,予後延長効果はあると考えられる。ただし,毒性(害)が多く,益と害のバランスは大きいとはいえない。患者希望は多様であり,レジメン選択に大きく影響する。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は二次治療として「ラパチニブ+カペシタビンの併用療法を行わないことを弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols”,“Antineoplastic Agents”のキーワードと,“Receptor, ErbB―2”,“Antibodies, Monoclonal, Humanized”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,1,854件がヒットした。一次スクリーニングで91編の文献が抽出され,二次スクリーニングで26編の文献が抽出された。うちCQの主旨に関するランダム化試験としてCQ23の1)~3)いずれもランダム化比較試験が1編存在し,各々に対して定性的システマティック・レビューを行った。CQ23の2)に関してはプール解析が1編存在し,定性的システマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Verma S, Miles D, Gianni L, Krop IE, Welslau M, Baselga J, et al;EMILIA Study Group. Trastuzumab emtansine for HER2―positive advanced breast cancer. N Engl J Med. 2012;367(19):1783―91. [PMID:23020162]

2)Diéras V, Miles D, Verma S, Pegram M, Welslau M, Baselga J, et al. Trastuzumab emtansine versus capecitabine plus lapatinib in patients with previously treated HER2―positive advanced breast cancer(EMILIA):a descriptive analysis of final overall survival results from a randomised, open―label, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2017;18(6):732―42. [PMID:28526536]

3)Welslau M, Dieras V, Sohn JH, Hurvitz SA, Lalla D, Fang L, et al. Patient―reported outcomes from EMILIA, a randomized phase 3 study of trastuzumab emtansine(T―DM1)versus capecitabine and lapatinib in human epidermal growth factor receptor 2―positive locally advanced or metastatic breast cancer. Cancer. 2014;120(5):642―51. [PMID:24222194]

4)von Minckwitz G, du Bois A, Schmidt M, Maass N, Cufer T, de Jongh FE, et al. Trastuzumab beyond progression in human epidermal growth factor receptor 2―positive advanced breast cancer:a german breast group 26/breast international group 03―05 study. J Clin Oncol. 2009;27(12):1999―2006. [PMID:19289619]

5)von Minckwitz G, Schwedler K, Schmidt M, Barinoff J, Mundhenke C, Cufer T, et al;GBG 26/BIG 03―05 study group and participating investigators. Trastuzumab beyond progression:overall survival analysis of the GBG 26/BIG 3―05 phase Ⅲ study in HER2―positive breast cancer. Eur J Cancer. 2011;47(15):2273―81. [PMID:21741829]

6)Petrelli F, Barni S. A pooled analysis of 2618 patients treated wit trastuzumab beyond progression for advanced breast cancer. Clin Breast Cancer. 2013;13(2):81―7. [PMID:23276465]

7)Geyer CE, Forster J, Lindquist D, Chan S, Romieu CG, Pienkowski T, et al. Lapatinib plus capecitabine for HER2―positive advanced breast cancer. N Engl J Med. 2006;355(26):2733―43. [PMID:17192538]

8)Cameron D, Casey M, Press M, Lindquist D, Pienkowski T, Romieu CG, et al. A phase Ⅲ randomized comparison of lapatinib plus capecitabine versus capecitabine alone in women with advanced breast cancer that has progressed on trastuzumab:updated efficacy and biomarker analyses. Breast Cancer Res Treat. 2008;112(3):533―43. [PMID:18188694]

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