2021年3月31日更新

CQ2.乳房トモシンセシスは高濃度乳房に対する対策型乳がんマンモグラフィ検診の補助的乳がん検診モダリティとして推奨されるか?

1.乳がん検診

推 奨
・乳癌死亡率低減効果が証明されていないので,高濃度乳房に対する対策型マンモグラフィ検診の補助的乳がん検診モダリティとして乳房トモシンセシスを行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:100%(12/12)〕

背景・目的

高濃度乳房ではマンモグラフィの感度と特異度の低下が問題視されている。すなわち,乳癌検出率低下により発見が遅れ,予後悪化につながる。また特異度低下による要精査率上昇は追加検査の増加による患者の不利益,医療費増加につながる。乳房トモシンセシスはfull field digital mammography;FFDM(2D)の弱点である乳腺の重なりを減少させることから,高濃度乳房でのマンモグラフィの弱点を補完する検査法として期待されている。そこで,本CQではトモシンセシスが高濃度乳房を対象とする乳がんマンモグラフィ検診の精度向上に寄与するかどうかエビデンスをもとに検討した。

解 説

本CQに対する推奨の作成を行ううえで,トモシンセシスを高濃度乳房に対するマンモグラフィ検診の補助的役割として使用した場合の死亡率減少,感度,被曝,要精査率減少をアウトカムとして設定した。

死亡率低減効果に関してはトモシンセシス導入から経過が浅く,長期経過観察結果の報告はいまだない。また,高濃度乳房におけるトモシンセシスの被曝について検討した報告は認められなかった。感度が示されている研究は検診の二次精査を含めたトモシンセシスの診断での使用報告であり,本CQとは対象が異なる。検診では欧米の研究で癌検出率上昇が指摘されているが,フォローアップデータが不十分であるため,現時点では正確な感度は不明とされている1)。よって,癌検出率と要精査率に関して該当する論文を紹介する。

乳がん検診におけるトモシンセシスの有用性を比較した5つの研究のシステマティック・レビュー1)では欧州の2つの前向き研究(OTST試験2)~4),STORM試験5)~8))と米国の3つの後ろ向き研究9)~11)を採用している。いずれも2D単独と2D+トモシンセシスとの比較だが,欧州と米国では乳癌の割合,人口統計,スクリーニング方法に差があることから,実践の有意差を反映するために別々に分析されている。欧州の研究のうち,STORM試験5)~8)では7,294人が対象で,癌検出率0.81%(2D単独0.53%)の上昇と要精査率4.3%(2D単独5%)の減少を認めた。OTST試験2)~4)では12,621人を対象に一人読影で癌検出率0.80%(2D単独0.61%),要精査率2.78%(2D単独2.1%),二重読影で癌検出率0.94%(2D単独0.71%),要精査率3.67%(2D単独2.9%)の結果であった。要精査率は,二重読影法により変化し,2つ大規模研究ではともに,prospective blinded consensus readingが行われていないことから,consensus reading後の要精査率は現在のところ,トモシンセシスの正しい効果を確認するエビデンスには不十分であるとされている。米国の研究でDestounisら9)は524人を対象として癌検出率0.57%(2D単独0.38%),要精査率4.2%(2D単独11.45%),Lourencoら10)は2D+トモシンセシス12,921人,2D単独12,577人を対象として癌検出率0.46%(2D単独0.54%),要精査率6.4%(2D単独9.3%),Friedewaldら11)は2D+トモシンセシス173,663人,2D単独281,887人を対象として癌検出率0.55%(2D単独0.43%),要精査率8.95%(2D単独10.57%)の結果であった。これら3つの研究の規模の差が大きく,2つの研究9)11)で乳癌検出率は上昇していたが,欧州の研究よりも低く,原因として,検診間隔の違い(米国1年,欧州2年)や欧州の前向き試験は二重読影で相対的に高齢女性が多く含まれている点が挙げられている。これらの臨床研究で,2D単独に対してトモシンセシスを加えることで検出率は上昇し有用性は示されたものの,要精査率に関しては増加する報告や減少する報告があり現時点では一定のコンセンサスがなく,さらなる研究が必要である。また,これらの臨床研究では乳房構成別の成績は検討されておらず,高濃度乳房を対象とした本CQに該当する研究ではない。

乳房構成別にトモシンセシスの検診での有用性について検討した研究は,以下1つが認められた。上記Friedewaldら11)の13施設の多施設共同研究のデータを用いて,乳腺濃度別にトモシンセシスの検診成績について調べたRaffertyら12)の後ろ向き研究では,2D単独278,906件,2Dとトモシンセシス併用173,414件の総計452,320検査を対象としている。要精査率は脂肪性55/1,000(2D単独57/1,000,p=0.34),乳腺散在性84/1,000(2D単独97/1,000,p<0.001),不均一高濃度110/1,000(2D単独128/1,000,p<0.001),極めて高濃度98/1,000(2D単独114/1,000,p<0.001),癌検出率は脂肪性4.2/1,000(2D単独3.2/1,000,p=0.10),乳腺散在性5.3/1,000(2D単独4.4/1,000,p=0.004),不均一高濃度6.1/1,000(2 D単独4.5/1,000,p<0.001),極めて高濃度3.9/1,000(2D単独3.8/1,000,p=0.88)の結果であった。要精査率については,高濃度乳房のうち,不均一高濃度,極めて高濃度の両者で2D単独と比較して有意に減少がみられ,トモシンセシスの有用性が示されていた。しかし,乳癌検出率は,不均一高濃度では有意差を認めるが,極めて高濃度では認めず,トモシンセシスの限界が示されている。高濃度乳房のうち不均一高濃度ではトモシンセシスの使用が勧められるが,極めて高濃度では病変を指摘できない可能性があることを知っておかなければならない。

以上より,乳房構成別に高濃度乳房におけるトモシンセシス併用の癌検出率および要精査率について検討したランダム化比較試験はなく,エビデンスの強さは「とても弱い」となる。

今回のアウトカムには設定していないが,トモシンセシス併用マンモグラフィ検診の費用効果について,Leeら13)は50~74歳の高濃度乳房女性に対する検診で,またKalraら14)は全乳房構成を含む40歳代検診でいずれも良いと報告している。しかし,国によって保険や検診制度が異なることから,世界的には異なるタイプの検診プログラムに対する研究が必要とされているのが現状で,今後,日本の制度に則した研究結果も必要になると推定される。

本CQにおいては,がん検診の有効性を示す最も重要な指標である死亡率低減効果を示す研究が認められないことから,対策型検診において,乳房トモシンセシスは高濃度乳房に対する乳がんマンモグラフィ検診の補助的乳がん検診モダリティとして行わないことを弱く推奨する。

ただし,任意型乳がん検診においては,トモシンセシスを追加しても乳癌死亡率低減効果が証明されていないこと,高濃度乳房の中でも極めて高濃度では病変を指摘できない可能性がある不利益についても説明を行い,受診者が十分に理解したうえで,受診については個人の判断に任せることは容認される。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Mammography”,“radiation exposure”,“tomosynthesis”のキーワードと,“dense breast”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとした。上記キーワードにて58編が抽出され,それ以外にハンドサーチで9編の論文が追加された。一次スクリーニングで21編,二次スクリーニングで14編の論文が抽出された。

エビデンス総体システマティックレビュー資料

参考文献

1)Hodgson R, Heywang―Köbrunner SH, Harvey SC, Edwards M, Shaikh J, Arber M, et al. Systematic review of 3D mammography for breast cancer screening. Breast. 2016;27:52―61. [PMID:27212700]

2)Skaane P, Bandos AI, Eben EB, Jebsen IN, Krager M, Haakenaasen U, et al. Two―view digital breast tomosynthesis screening with synthetically reconstructed projection images:comparison with digital breast tomosynthesis with full―field digital mammographic images. Radiology. 2014;271(3):655―63. [PMID:24484063]

3)Skaane P, Bandos AI, Gullien R, Eben EB, Ekseth U, Haakenaasen U, et al. Prospective trial comparing full―field digital mammography(FFDM)versus combined FFDM and tomosynthesis in a population―based screening programme using independent double reading with arbitration. Eur Radiol. 2013;23(8):2061―71. [PMID:23553585]

4)Skaane P, Bandos AI, Gullien R, Eben EB, Ekseth U, Haakenaasen U, et al. Comparison of digital mammography alone and digital mammography plus tomosynthesis in a population―based screening program. Radiology. 2013;267(1):47―56. [PMID:23297332]

5)Bernardi D, Caumo F, Macaskill P, Ciatto S, Pellegrini M, Brunelli S, et al. Effect of integrating 3D―mammography(digital breast tomosynthesis)with 2D―mammography on radiologists’true―positive and false―positive detection in a population breast screening trial. Eur J Cancer. 2014;50(7):1232―8. [PMID:24582915]

6)Caumo F, Bernardi D, Ciatto S, Macaskill P, Pellegrini M, Brunelli S, et al. Incremental effect from integrating 3D―mammography(tomosynthesis)with 2D―mammography:Increased breast cancer detection evident for screening centres in a population―based trial. Breast. 2014;23(1):76―80. [PMID:24316152]

7)Ciatto S, Houssami N, Bernardi D, Caumo F, Pellegrini M, Brunelli S, et al. Integration of 3D digital mammography with tomosynthesis for population breast―cancer screening(STORM):a prospective comparison study. Lancet Oncol. 2013;14(7):583―9. [PMID:23623721]

8)Houssami N, Macaskill P, Bernardi D, Caumo F, Pellegrini M, Brunelli S, et al. Breast screening using 2D―mammography or integrating digital breast tomosynthesis(3D―mammography)for single―reading or double―reading――evidence to guide future screening strategies. Eur J Cancer. 2014;50(10):1799―807. [PMID:24746887]

9)Destounis S, Arieno A, Morgan R. Initial experience with combination digital breast tomosynthesis plus full field digital mammography or full field digital mammography alone in the screening environment. J Clin Imaging Sci. 2014;4:9. [PMID:24744966]

10)Lourenco AP, Barry―Brooks M, Baird GL, Tuttle A, Mainiero MB. Changes in recall type and patient treatment following implementation of screening digital breast tomosynthesis. Radiology. 2015;274(2):337―42. [PMID:25247407]

11)Friedewald SM, Rafferty EA, Rose SL, Durand MA, Plecha DM, Greenberg JS, et al. Breast cancer screening using tomosynthesis in combination with digital mammography. JAMA. 2014;311(24):2499―507. [PMID:25058084]

12)Rafferty EA, Durand MA, Conant EF, Copit DS, Friedewald SM, Plecha DM, et al. Breast cancer screening using tomosynthesis and digital mammography in dense and nondense breasts. JAMA. 2016;315(16):1784―6. [PMID:27115381]

13)Lee CI, Cevik M, Alagoz O, Sprague BL, Tosteson AN, Miglioretti DL, et al. Comparative effectiveness of combined digital mammography and tomosynthesis screening for women with dense breasts. Radiology. 2015;274(3):772―80. [PMID:25350548]

14)Kalra VB, Wu X, Haas BM, Forman HP, Philpotts LE. Cost―effectiveness of tomosynthesis in annual screening mammography. AJR Am J Roentgenol. 2016;207(5):1152―5. [PMID:27547861]

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