2021年3月31日更新

FQ19.BRCA遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者の薬物療法として何が勧められるか?

3.その他(特殊病態、副作用対策など)

ステートメント
・BRCA遺伝子変異陽性の進行・再発乳癌に対して,PARP阻害薬は従来の化学療法と比較し無増悪生存期間(PFS)の延長を示した。
・BRCA遺伝子変異陽性の進行・再発乳癌に対して,プラチナ製剤による高い奏効割合が報告されている。

背 景

乳癌におけるBRCA遺伝子変異を有する症例は5%程度と少ない。統合解析の結果では ,BRCA遺伝子変異の有無は予後に影響しない (N = 10,180, HR = 1.06,95 % CI = 0.84~1.34,p = 0.61)1)。一方,BRCA遺伝子変異が明らかとなった女性における生涯の乳癌発症率は高率であり (BRCA1遺伝子変異陽性で46~87 %、BRCA2遺伝子変異陽性で38~84 %)2),適切な検診や乳癌発症予防法の確立は重要な課題である。

トリプルネガティブ(TNBC)乳癌の約20%がBRCA遺伝子変異、とくにBRCA1変異陽性であり,BRCA1遺伝子変異陽性乳癌患者の多くがTNBCとされている。

一方、多くの乳癌はホルモン受容体陽性であることから、BRCA遺伝子変異陽性乳癌の絶対数はホルモン受容体陽性乳癌で多い。したがって、ホルモン受容体の発現状況のみでBRCA遺伝子変異の有無を判断することはできない。

解 説

BRCA遺伝子はDNA修復や細胞周期、転写を調節する機能をもち,BRCA遺伝子に異常をきたすとDNA修復経路に異常が発生しDNA損傷が蓄積されるため,プラチナ製剤などのDNA損傷を引き起こす薬剤やPARP(poly(ADPーribose)polymerase)阻害薬に対する感受性が高いことが報告されている。

BRCA1/2遺伝子が正常に機能していない細胞においてPARPを阻害すると,相同組み換えによるDNA修復酵素が働かず相同組み換え修復不全(homologous recombination deficiency;HRD)となり,これにより細胞は合成致死へ誘導される。

BRCA遺伝子に変異がない野性型においても,他のエピジェネティックな変化により相同組み換え修復機能が障害されることがある。これらは「BRCAness」とされ,このBRCAnessを高精度に評価する方法の開発が進んでいる。

BRCA遺伝子変異陽性進行再発乳癌において,プラチナ製剤の有効性が報告されている。シスプラチンを検討した第Ⅱ相試験では、20人のBRCA1遺伝子変異陽性乳癌患者を対象にシスプラチン75mg/m2を3週毎に6サイクルまで投与し、CR 45%、PR 35%、無増悪期間中央値は12か月であった3)

TNBCを対象とした単群第Ⅱ相試験であるTBCRC 009試験では、86例 (69例がファーストライン、17例がセカンドライン) が、シスプラチン (43例) あるいはカルボプラチン (43例) の投与を受けた4)。86例中77例でBRCA遺伝子変異が検討され、9例でBRCA1遺伝子変異が、2例でBRCA2遺伝子変異が認められた。11例のORRは54.5%であったが、PFS中央値は3.3か月であった。

TNBCないしホルモン受容体やHER2の発現を問わないgermline BRCA1/2遺伝子変異陽性乳癌を対象に、カルボプラチンのドセタキセルに対するORRの優越性を検証する第Ⅲ相試験TNT試験が376例を対象に行われた5)。このうち43例(11%)がBRCA1/2変異陽性であった。ORRはカルボプラチン群で68%、ドセタキセル群で33.3%と有意にカルボプラチン群で良好であった。またPFS中央値も6.8ヶ月対4.4ヶ月とカルボプラチンで優れていた。OSには差がなかった。

BRCA変異陽性進行・再発乳癌に対してPARP阻害薬であるオラパリブ単剤の有効性を検討した多施設共同第Ⅱ相試験において,3レジメン以上の治療歴のある転移性乳癌に対する奏効率は12.9%,CBR 47%という結果であった。最も多くみられた有害事象は疲労感,悪心,嘔吐であり,Grade 3以上の貧血が54%の患者に認められた6)

さらに,オラパリブ単剤と医師が選択した標準的な化学療法を比較した第Ⅲ相試験(OlympiAD試験)では,PFSは中央値7.0カ月対4.2カ月で有意に延長を示した(HR 0.58,95%CI 0.43-0.80,p=0.0009)。なお,全生存期間中央値は両群に差を認めていない(HR 0.90,95%CI 0.63-1.29,p=0.57)7)

また別のPARP阻害薬であるtalazoparib (未承認) 単剤と医師が選択した標準的な化学療法を比較した第Ⅲ相試験(EMBRACA)でも、PFSは中央値8.6カ月対5.6カ月とtalazoparib (未承認) 群で有意に延長を示した(HR 0.54,95%CI 0.41-0.71,p < 0.001)。8)

以上のようにプラチナ製剤の有用性は臨床試験で示唆されているものの,どのプラチナ製剤を使用するのか、単剤で行うのか併用が適切なのかなどは明らかになっていないこと,また長期成績について十分な情報がなく,さらにわが国ではプラチナ製剤がTNBCやBRCA変異陽性乳癌に対して保険適用となっていないことなどが課題である。

PARP阻害薬については第Ⅲ相試験でPFS延長が示され,米国食品医薬品局(FDA)によりオラパリブ、talazoparib (本邦では未承認) が承認されている。本邦ではオラパリブは承認され、talazoparib (未承認) の試験が進行中である。オラパリブ使用のためのBRCA遺伝子変異のコンパニオン診断として、BRACAnalysis診断システムが承認されている。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“BRCA1 Protein”,“BRCA2 Protein”,“Genes, BRCA1”,“Genes, BRCA2”のキーワードで検索した。検索期間は2019年2月までとし,91件がヒットした。追加で“talazoparib or olaparib” “breast neoplasms” のキーワードで検索した。検索期間は2019年2月までとし,306件がヒットした。

参考文献

1) Templeton AJ, Gonzalez LD, Vera-Badillo FE, Tibau A, Goldstein R, Šeruga B, et al. Interaction between hormonal receptor status, age and survival in patients with BRCA1/2 germline mutations: a systematic review and meta-regression. PLoS One. 2016;11(5):e0154789.  [PMID: 27149669]

2) Gene Reviews Japan. Available from: http://grj.umin.jp/grj/brca_hboc.htm (accessed on 26 March 26, 2019)

3)Byrski T, Dent R, Blecharz P, Foszczynska—Kloda M, Gronwald J, Huzarski T, et al. Results of a phaseⅡ open—label, non—randomized trial of cisplatin chemotherapy in patients with BRCA1—positive metastatic breast cancer. Breast Cancer Res. 2012; 14(4): R110. [PMID: 22817698]

4)Isakoff SJ, Mayer EL, He L, Traina TA, Carey LA, Krag KJ, et al. TBCRC009: a multicenter phase II clinical trial of platinum monotherapy with biomarker assessment in metastatic triple-negative breast cancer. J Clin Oncol. 2015;33(17):1902-9. [PMID: 25847936]

5) Tutt A, Tovey H, Cheang MCU, Kernaghan S, Kilburn L, Gazinska P, et al. Carboplatin in BRCA1/2-mutated and triple-negative breast cancer BRCAness subgroups: the TNT Trial. Nat Med. 2018;24(5):628-37. [PMID: 29713086]

6) Kaufman B, Shapira—Frommer R, Schmutzler RK, Audeh MW, Friedlander M, Balmana J, et al. Olaparib monotherapy in patients with advanced cancer and a germline BRCA1/2 mutation. J Clin Oncol. 2015; 33(3): 244—50. [PMID: 25366685]

7)Robson M, Im SA, Senkus E, Xu B, Domchek SM, Masuda N, et al. Olaparib for metastatic breast cancer in patients with a germline BRCA mutation. N Engl J Med. 2017; 377(6): 523—33. [PMID: 28578601]

8) Litton JK, Rugo HS, Ettl J, Hurvitz SA, Gonçalves A, Lee KH, et al. Talazoparib in patients with advanced breast cancer and a germline BRCA mutation. N Engl J Med. 2018;379(8):753-63. [PMID: 30110579]

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