2021年3月31日更新

FQ13.化学療法誘発性閉経予防・妊孕性維持のために化学療法中にLH―RHアゴニストを使用することは勧められるか?

3.その他(特殊病態、副作用対策など)

ステートメント
・化学療法に併用するLH-RHアゴニストは化学療法誘発性閉経を減少させる可能性が報告されている。しかし,妊孕性維持の目的でのLH-RHアゴニストの有効性を示すようなエビデンスは乏しい。

背 景

化学療法による卵巣機能不全は,稀発月経や無月経(無排卵症)として現れ,chemotherapy―induced amenorrhea(CIA)と称される。一般にCIAは化学療法開始後1年以内に生じる3カ月以上の無月経(無排卵症)とされ,その発症頻度は化学療法の使用薬剤やレジメンにより異なり,20~100%という報告がある1)。化学療法時にLH-RHアゴニストを併用し,卵胞発育を抑制して未成熟卵胞優位の状態をつくり,卵巣機能を保護する試みが行われている。

解 説

LH-RHアゴニストによるCIAに対する卵巣機能保護効果を主要評価項目としたランダム化比較試験はこれまでに複数行われているが,その有効性について定まった結果とはなっていない。CMF施行時にLH-RHアゴニストを併用する群としない群,さらにタモキシフェンのある群とない群の2×2群を比較したZIPP試験では,LH-RHアゴニストのみを併用した群で治療終了1年後の無月経の割合が少ないと報告された2)

PROMISE-GIM6試験では,StageⅠ,Ⅱ,Ⅲで化学療法の対象となる18~45歳の閉経前乳癌患者281人を,化学療法にtriptorelin(未承認)を併用する群としない群(対照群)に割り付け,早発閉経率〔定義:化学療法1年後に月経が再開していないこと,およびfollicle stimulating hormone(FSH)とエストラジオール値が閉経域であること〕につき検討した。結果は対照群の早発閉経率が25.9%に対して併用群は8.9%,絶対差は-17%と有意に併用群で早発閉経率が低かった3)。この試験の後ろ向き解析で,長期の卵巣機能および妊娠の有無,無再発生存(DFS)についても検討され,5年間の累積月経再開率は併用群で72.6%,対照群で64.0%と有意に併用群で月経が再開しやすかった。しかし,妊娠率およびDFSについては統計学的有意差が認められていない。また,この試験では対象患者の約8割がER陽性乳癌であり,そのほとんどに術後内分泌治療が入っていること,また後ろ向き解析であることに注意が必要である4)

ランダム化第Ⅲ相比較試験のPOEMS試験では,257人の手術可能な閉経前ER陰性乳癌患者を対象に,化学療法にゴセレリンを併用する群としない群(対照群)の化学療法後2年時点での卵巣機能不全率(定義:先行する6カ月の無月経とFSHレベルが2年間閉経状態であること)が比較された。卵巣機能不全率は併用群で8%,対照群で22%と併用群で有意に抑制され(HR 0.30,95%CI 0.09-0.97),副次的評価項目であった妊娠率および出産率でも対照群で12例(11%)が妊娠(8例が出産)に対し併用群では22例(21%)が妊娠し16例が出産と併用群で有意に多い(p=0.03,p=0.05)結果であった。流産,中絶,出産に伴う合併症などの有害事象は両群に差は認めらなかった5)

これらの報告を含めた早期乳癌患者でのLH-RHアゴニストのCIAに対する卵巣機能保護の有効性についての7つのランダム化比較試験のメタアナリシスで856人が解析され,LH―RHアゴニスト併用群は化学療法後6カ月(OR 2.41,p=0.002),12カ月(OR 1.85,p<0.001)での月経回復率がそれぞれ有意に高率であることが示された6)このメタアナリシスでは,LH―RHアゴニストの使用が妊娠率とも関連がある可能性を報告しているが,妊娠率や妊孕性を主要評価項目とした試験は含まれていない。また,乳癌のみならず他癌腫での試験も含んだ9つの論文を検討したメタアナリシスでは,全体としては化学療法に加えてLH-RHアゴニストを併用することで卵巣機能不全を有意に減少させるとの結果が示されている(OR 0.43,p=0.013)。ただし,サブグループ解析で癌腫ごとにその効果が異なる可能性も指摘されている7)。なお,LH-RHアゴニストを化学療法と併用するタイミングは,ほとんどの試験で化学療法開始の少なくとも1週間前から投与を開始し,最後の化学療法終了時までとなっている。

安全性については,いずれの試験でもLH-RHアゴニスト併用の安全性は良好であったと報告している。ER陽性乳癌では化学療法後の月経回復により乳癌再発の危険性が増すのではないかという懸念があるが,これを支持する直接的なエビデンスはない。その後の出産に対する影響については,Foxらが24人を対象に,同等薬のリュープロレリンを化学療法に併用し,5人で6回の妊娠を確認できたが,うち3回は流産,1回はダウン症候群で流産,1回は正常妊娠,1回は妊娠継続中と報告している8)。LH-RHアゴニストを化学療法と併用することによる直接的な有害事象はそれほど問題とならない可能性は高いが,出産やその後の児に対する長期的な影響など,安全性の観点から多岐にわたる問題も残っていると考えられる。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Drug Therapy”,“Gonadotropin―Releasing Hormone”,“lhrh”のキーワードと,“agonist”の同義語で検索した。検索期間は2016年11月までとし,296件がヒットした。

参考文献

1)Bines J, Oleske DM, Cobleigh MA. Ovarian function in premenopausal women treated with adjuvant chemotherapy for breast cancer. J Clin Oncol. 1996;14(5):1718―29. [PMID:8622093]

2)Sverrisdottir A, Nystedt M, Johansson H, Fornander T. Adjuvant goserelin and ovarian preservation in chemotherapy treated patients with early breast cancer:results from a randomized trial. Breast Cancer Res Treat. 2009;117(3):561―7. [PMID:19153828]

3)Del Mastro L, Boni L, Michelotti A, Gamucci T, Olmeo N, Gori S, et al. Effect of the gonadotropin―releasing hormone analogue triptorelin on the occurrence of chemotherapy―induced early menopause in premenopausal women with breast cancer:a randomized trial. JAMA. 2011;306(3):269―76. [PMID:21771987]

4)Lambertini M, Boni L, Michelotti A, Gamucci T, Scotto T, Gori S, et al;GIM Study Group. Ovarian Suppression With Triptorelin During Adjuvant Breast Cancer Chemotherapy and Long―term Ovarian Function, Pregnancies, and Disease―Free Survival:A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015;314(24):2632―40. [PMID:26720025]

5)Moore HC, Unger JM, Phillips KA, Boyle F, Hitre E, Porter D, et al;POEMS/S0230 Investigators. Goserelin for ovarian protection during breast―cancer adjuvant chemotherapy. N Engl J Med. 2015;372(10):923―32. [PMID:25738668]

6)Munhoz RR, Pereira AA, Sasse AD, Hoff PM, Traina TA, Hudis CA, et al. Gonadotropin―releasing hormone agonists for ovarian function preservation in premenopausal women undergoing chemotherapy for early―stage breast cancer:a systematic review and meta―analysis. JAMA Oncol. 2016;2(1):65―73. [PMID:26426573]

7)Del Mastro L, Ceppi M, Poggio F, Bighin C, Peccatori F, Demeestere I, et al. Gonadotropin―releasing hormone analogues for the prevention of chemotherapy―induced premature ovarian failure in cancer women:systematic review and meta―analysis of randomized trials. Cancer Treat Rev. 2014;40(5):675―83. [PMID:24360817]

8)Fox K, Scialla J, Moore H. Preventing chemotherapy―related amenorrhea using leuprolide during adjuvant chemotherapy for early―stage breast cancer. Proc Am Soc Clin Oncol 2003;22(abstract 50).

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