2021年3月31日更新

CQ2.乳房温存手術後に断端陰性の場合,全乳房照射後の腫瘍床に対するブースト照射は勧められるか?

1.乳房手術後放射線療法

推 奨
・病理学的な断端陰性の浸潤性乳癌について,腫瘍床に対するブースト照射が弱く勧められる。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

背 景

病理学的な断端陽性乳癌では断端陰性乳癌に比べ局所再発率が高いことが知られており,ランダム化比較試験による検証は少ないものの,多くの施設では腫瘍床に対する10~16 Gy程度のブースト照射が行われている。しかしながら,病理学的な断端陰性の浸潤性乳癌についてはランダム化比較試験で腫瘍床に対するブースト照射によって温存乳房内再発率を有意に低下させることが報告されているが,施設によってはブースト照射が行われていない。そこで腫瘍床に対するブースト照射の有用性,安全性について検討した。

解 説

病理学的な断端陰性の浸潤性乳癌については,EORTCのランダム化比較試験で腫瘍床に対する16 Gyのブースト照射によって20年の温存乳房内再発率を16.4%から12%に低下させることが報告されており1),推奨される。ただし,全生存率の改善は認めておらず推奨度としては弱くなると考えた。40歳以下,41~50歳,51~60歳,61歳以上のいずれの年齢層でもブーストによる局所再発率の有意な低下を認めたが,特に40歳以下で局所再発率の低下が大きく,これらの年齢層でブースト群,非ブースト群で重度の線維化の頻度に有意差を認めなかったため1),40歳以下で特に局所再発低下の利益と晩期障害のバランスが良いと考える。ただし,この試験では断端陰性の定義が日本と異なり,非浸潤部が露出していても陰性とみなされており,ブースト照射による影響がより強いと考えらることに注意が必要である。晩期障害については全体としてブースト群で有意に線維化の頻度が多いが重度の線維化の頻度は20年で5.2%と少なかった。また,同試験では不完全切除例に対し,ブースト線量を10 Gyもしくは26 Gyとするランダム化を行い,重度の線維化の頻度が26 Gy群では10年で14.4%であったのに対し,10 Gy群では3.3%と有意に少なかった2)。このことより日本での標準的なブースト線量である10 Gyでの腫瘍床へのブースト照射は安全に施行可能と考えられる。

また,2017年にコクランによる5つのランダム化比較試験(うち3つが断端陰性の浸潤性乳癌を対象とした試験)からなるシステマティック・レビューが発表された。このレビューでは断端の状態によるサブグループ解析は行っていないが,有害事象については腫瘍床へのブースト照射の有無で乳房の収縮や整容性に有意差は認めなかった3)以上より,断端陰性の浸潤性乳癌では,特に若年者では腫瘍床に対するブースト照射が推奨される。しかし,ブースト照射を行うことにより通院期間の延長や治療費の増加が起こることは患者によっては害と考えられる可能性がある。ブースト照射に要する期間は約5日である。ブースト照射が局所再発を有意に減少させること,それにより再発に伴う治療費や精神面での負担のリスクも低減することを患者によく説明する必要がある。局所再発が減少すること,しかしブースト照射に伴い治療期間が延長すること,治療費が増加することにより患者の好みは分かれると考えられる。

また,ランダム化比較試験の結果を報告した論文は1編のみであり,エビデンスの強さは「中」とした。

実際には,多くの施設で断端陰性の浸潤性乳癌に対しブースト照射が行われていない現状もあり,推奨決定会議では,ブースト照射を行うことを弱く推奨するという意見が10/12(83%)であったが,一方で行わないことを弱く推奨するという意見が2/12(17%)認められた。

非浸潤性乳管癌(DCIS)においてはブースト照射の有用性を検討するランダム化比較試験の報告はなく,いくつかの非ランダム化試験で局所制御における有用性について検討されている4)5)。欧米,カナダ,フランスの10施設・4,131例のDCIS温存手術例を対象とした経過観察期間中央値9年の後ろ向きの解析5)では,NSABPとSSO/ASTRO/ASCOによる異なる2つの断端の定義を用いて解析を行っている。前者の定義である,断端陽性を“Ink on tumor”とした場合と,後者の定義である,2 mm未満とした場合の両者とも,断端陰性例ではブースト照射群で同側乳房内再発率が有意に低かった。一方で1,895例のDCISの乳房温存手術例を対象とした経過観察期間中央値10年の検討では,断端陰性例において,ブースト照射の有無で局所再発率に有意差は認めなかった4)

以上より,DCISにおけるブースト照射の有用性に関するこれまでの報告のエビデンスレベルは高くなく,一定の見解が得られていないため,今後さらなる検討が必要と考えられる。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Mastectomy,Segmental”のキーワードと,boostの同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,334件がヒットした。一次スクリーニングで81編,二次スクリーニングで3編の論文が抽出され,ハンドサーチで2編の論文を追加した。

エビデンス総体システマティックレビュー

参考文献

1)Bartelink H, Maingon P, Poortmans P, Weltens C, Fourquet A, Jager J, et al;European Organisation for Research and Treatment of Cancer Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Whole―breast irradiation with or without a boost for patients treated with breast―conserving surgery for early breast cancer:20―year follow―up of a randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2015;16(1):47―56. [PMID:25500422]

2)Poortmans PM, Collette L, Horiot JC, Van den Bogaert WF, Fourquet A, Kuten A, et al;EORTC Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Impact of the boost dose of 10 Gy versus 26 Gy in patients with early stage breast cancer after a microscopically incomplete lumpectomy:10―year results of the randomised EORTC boost trial. Radiother Oncol. 2009;90(1):80―5. [PMID:18707785]

3)Kindts I, Laenen A, Depuydt T, Weltens C. Tumour bed boost radiotherapy for women after breast―conserving surgery. Cochrane Database Syst Rev. 2017;11:CD011987. [PMID:29105051]

4)Rakovitch E, Narod SA, Nofech―Moses S, Hanna W, Thiruchelvam D, Saskin R, et al. Impact of boost radiation in the treatment of ductal carcinoma in situ:a population―based analysis. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;86(3):491―7. [PMID:23708085]

5)Moran MS, Zhao Y, Ma S, Kirova Y, Fourquet A, Chen P, et al. Association of radiotherapy boost for ductal carcinoma in situ with local control after whole―breast radiotherapy. JAMA Oncol. 2017;3(8):1060―8. [PMID:28358936]

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