2021年3月31日更新

総説2 日本人女性と欧米人女性の乳癌予後の比較

1.疫学総論

日本人の乳癌の予後は欧米と比べて良いといわれることがあるが,これは本当であろうか。ここでは癌患者の生存率を比較する方法について説明する。

癌患者の生存率は治療効果を判定する最も重要かつ客観的な指標である。ただし,生存率は,計算する対象の特性(性別や年齢),進行度,計算する対象の選び方(外来患者のみか,入院患者のみか,その来院患者すべてを含んでいるかなど)に大きく影響を受ける。そのため,複数の施設(病院)間での比較や,地域や国別の比較を行う場合は,どのような対象について生存率を計算しているかに注意する必要がある。以下順に,わが国を代表する生存率の計測値についてどのようなデータが利用可能か調べ,欧米の数値との比較を試みる。

生存率は,癌患者の予後を追跡することによって計測される。生存率に関する資料は,① 臨床試験のデータ,② 院内がん登録のデータに基づき,病院を受診した患者について,それぞれの施設で計算して公表しているもの,③ 地域がん登録のデータに基づき計算しているものがある。このうち,② 院内がん登録については,2006年に成立したがん対策基本法とそれに基づくがん対策推進基本計画,2016年に施行されたがん登録等の推進に関する法律により大きく様変わりし,急速に精度が向上した。以下,順に説明する。

① の臨床試験のデータは,臨床試験という設定上,参加する患者が限られるため,得られる生存率の数字は,一般の患者を代表しているとはいえない。臓器がん登録などのデータであっても,代表性が高くなければ一般化可能な値である保証がないため,他国との比較など外部比較が妥当である保証はない。

② の院内がん登録に基づく生存率の例としては,公益財団法人がん研究振興財団発行の「がんの統計〈2005年〉」に掲載されている,国立がんセンター(現国立がん研究センター)中央病院の治療成績が古い例として挙げられる1)。ただし,これは初回入院患者の生存率である。このように病院ごとの集計値は,集計対象(どのような患者を生存率計算の対象としているのか)によって値が変わってくるため,注意を要する。これらの問題点を克服するため,全国がん(成人病)センター協議会(以下,全がん協)加盟施設では研究班の活動を中心に,2007年10月に「全がん協加盟施設におけるがん患者生存率の公表にあたっての指針」を公表した(http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/index.html)。これに基づき,同じ定義で主要部位(胃・肺・乳・大腸)の施設別5年生存率を算定し,一定の精度をクリアした施設で同意の得られた施設のみ,その結果を公表している。厚生労働科学研究(第三次対がん総合戦略研究)「院内がん登録の標準化と普及に関する研究」による共同調査によると,全がん協加盟施設にて2006~2008年に診断した女性乳癌患者の相対生存率は93.6%であった(表1)2)。相対生存率とは,生存率を計算する対象者と同じ特性(性,年齢,暦年,地域など)をもつ一般集団の期待生存確率より算出した期待生存率で実測生存率を割ることによって,その影響を補正したものである。

 

このような病院ごとの生存率の精度の高いデータは,近年まで全がん協施設のものしか計測されていなかったが,がん対策推進基本計画による院内がん登録の整備により,がん診療連携拠点病院については,2008年以降の生存率が報告されるようになった3)。ただし,精度が高くなっても,生存率はそれぞれの病院における患者の年齢,基礎疾患や健康状態,診断当時の病気の進行度等,さまざまな因子に大きく影響されるため,単純に施設間の成績の比較に用いることができないのは全がん協による院内がん登録と同じである。しかしながら,同一施設内の年次推移や,院内がん登録をもとに計算される都道府県ごとの比較などに利用することによって,癌治療の精度管理などに用いることができるようになった。がん診療連携拠点病院のデータから計算される2008年診断例の女性乳癌5年相対生存率は92.7%となっている。

③ の地域がん登録に基づく生存率については,国立がん研究センターがん情報サービスに掲載されている(http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html4)5)。地域レベルの癌の生存率や代表性の高い生存率は,地域がん登録によって把握する必要がある。地域がん登録はすべての都道府県で行われているが,すべてが生存率計算に必要な「生存確認調査」を十分な精度で行っているとは限らず,現段階では限られた地域でしか精度の高い生存率が計算できない。そこでこの報告では,代表性の高い生存率データを把握するために,比較的精度の高い府県を対象に生存率が計算されている。この報告では1993年診断例以降の生存率の算出を行っており,2017年12月現在,2006~2008年診断例についての結果が利用可能である。生存率の年次推移についてはデータの蓄積がまだ浅いため,十分に傾向を検証することができないが少しずつ成績の向上がみられている。全国21地域の2006~2008年診断例についての5年相対生存率では,乳癌は91.1%と高い生存率を示している(表2)2)。2016年より,法律による全国がん登録が開始されたため,地域がん登録による生存率集計は2015年診断例まで行われ,それ以降は全国がん登録が取って代わることになる。

地域がん登録に基づく乳癌患者(女性)の5年相対生存率を,日本(21府県)と米国(SEER計画参加18登録,http://seer.cancer.gov/)で比較すると,診断年に多少の違いがあり留意が必要であるが,日本91.1%(2006~2008診断例),米国89.0%(2002~2008診断例)であり,大きな違いはない。また,臨床進行度ごとにみても大きな差は認められない(表3)4)~6)

しかし,両者のがん登録には,代表性,登録精度の違い,生存確認精度の違い,定義の違い,診断の違い,治療方針の違いなどがあるため必ずしも妥当な比較とはいえず,現時点でいえることは,大きな差があるという証拠はないということのみである。これらの違いをできるだけなくすために,比較可能な方法で生存率を出すことを目的に,各国のがん登録が個別データを集め,集計する試みも行われている7)。しかしながら,このCONCORD—2プロジェクトでは,それぞれのがん登録で必ずしも進行度別のデータがとられているわけではないこともあり,進行度ごとの生存率の比較は行われていない。

参考文献

1)公益財団法人がん研究振興財団.がんの統計’05.http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/backnumber/2005_jp.html

2)公益財団法人がん研究振興財団.がんの統計’16.http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/backnumber/2016_jp.html

3)国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター.がん情報診療連携拠点病院院内がん登録生存率集計.http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html

4)国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター.全国がん罹患モニタリング集計2006—2008年生存率報告,2016.

5)独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書.

6)National Cancer Institute. Surveillance, Epidemiology, and End Results Program. http://seer.cancer.gov/

7)Allemani C, Weir HK, Carreira H, Harewood R, Spika D, Wang XS, et al;CONCORD Working Group. Global surveillance of cancer survival 1995—2009:analysis of individual data for 25,676,887 patients from 279 population—based registries in 67 countries(CONCORD—2). Lancet. 2015;385(9972):977—1010. [PMID:25467588]

 

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