2021年3月31日更新

CQ31.BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者の薬物療法としてPARP阻害薬は推奨されるか?

3.その他(特殊病態、副作用対策など)

アンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤既治療HER2陰性進行・再発乳癌の場合、オラパリブの使用を強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:強,合意率:100%(19/19)〕

背景・目的

乳癌のうち5%程度の症例はBRCA1あるいはBRCA2遺伝子の生殖細胞系列病原性変異 (以下BRCA1/2遺伝子変異) を有する。BRCA1/2遺伝子変異陽性乳癌は、PARP 〔poly(ADPーribose)polymerase〕 阻害薬やプラチナ製剤に対する感受性が高いことが報告されている。BRCA1/2遺伝子変異を有するHER2陰性進行・再発乳癌患者におけるPARP阻害薬の意義について検討した。プラチナ製剤についてはFQ22を参照。
BRCA1/2遺伝子変異のある細胞では相同組み換えによるDNA二本鎖切断修復が働かない相同組み換え修復不全(homologous recombination deficiency;HRD)がある。PARP〔poly(ADP-ribose)polymerase〕はDNA一本鎖切断の塩基除去修復に働くが、PARP機能が抑制されるとDNA一本鎖切断が蓄積されて、DNA二本鎖切断が生じる。BRCA1/2遺伝子変異のある細胞ではDNA二本鎖切断が修復されないため、PARP阻害薬により合成致死と呼ばれる細胞死が誘導される。
乳癌においてBRCA1/2遺伝子変異を有する症例は5%程度と少ない。しかし、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)では約20%がBRCA1/2遺伝子変異、とくにBRCA1変異陽性であり、またBRCA1遺伝子変異陽性乳癌患者の多くがTNBCとされている。一方、多くの乳癌はホルモン受容体陽性であることから、BRCA1/2遺伝子変異陽性乳癌の絶対数はホルモン受容体陽性乳癌で多い。英国の40歳以下で浸潤性乳癌を発症した女性を対象とした研究(POSH研究)において、BRCA1/2遺伝子変異陽性者のうち40%がTNBC、49%がER陽性であったと報告されている1)。したがって、ホルモン受容体の発現状況のみでBRCA1/2遺伝子変異の有無を判断することはできない。
BRCA1/2遺伝子に変異がない場合であっても、エピジェネティックな変化によりHRDとなることがある。これらは「BRCAness」とされ、このBRCAnessを高精度に評価する方法の開発が進んでいる。

解説文

PARP阻害薬

BRCA1/2遺伝子変異陽性HER2陰性進行・再発乳癌患者を対象として、医師が選択した標準化学療法と比較してPARP阻害薬を検討したランダム化第Ⅲ相試験は、オラパリブを検討したOlympiAD試験2)、talazoparib (未承認) を検討したEMBRACA試験3)の2編があり、これを統合解析した。OlympiAD試験ではアンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤、EMBRACA試験ではそのいずれかの治療歴を有する症例が対象とされた。
PARP阻害薬は主治医が選択した標準化学療法と比べ無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長 (ハザード比(HR) 0.56, 95%CI 0.45-0.68, p<0.0001) し、全生存期間 (OS) も延長する傾向がみられたが (HR 0.83, 95%CI 0.66-1.04, p = 0.11) 統計学的には有意でなかった。

有害事象としては、PARP阻害薬ではgrade 3以上の貧血が多く (リスク比 (RR) 5.20, 95%CI 2.95 – 9.16, p<0.0001)、grade3以上の好中球数減少は少なかった (RR 0.47, 95%CI 0.30 – 0.71, p = 0.0004)。なお、嘔吐が多い傾向がみられたが有意な差ではなかった (RR 1.46, 95%CI 0.77-2.80, p = 0.25)。
質の高いランダム化第Ⅲ相試験の統合解析であり、エビデンスの強さは「強」とした。益と害のバランスについては、PFSの延長という「益」が有害事象による「害」を上回ると考えられた。医療費を比較検討した論文はなかったが、治療薬の費用はPARP阻害薬では高額である。患者の希望に関しては、有害事象のプロファイルによって多少のバラツキが想定されるものと考えられた。
以上より、エビデンスの強さの程度、益と害のバランス、患者の希望などを勘案し、推奨文は「アンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤既治療の場合、オラパリブの使用を強く推奨する」とした。Talazoparibについては未承認である (2020年5月現在)。

検索キーワード・参考にした二次資料

本CQに対して”BRCA1 mutation”、”BRCA2 mutation”、”PARP inhibitor”、“chemotherapy”、”platinum”のキーワードで文献検索を行った結果、PubMedから99編、Cochrane Libraryから252編、医中誌から77編が抽出され、それ以外にハンドサーチで1編の論文が追加された。一次スクリーニングで28編の論文が抽出され、二次スクリーニングで13編の論文が抽出された。PARP阻害薬の無再発生存期間、全生存期間、有害事象について、2編のRCTについてメタアナリシスを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1. Copson ER, Maishman TC, Tapper WJ, Cutress RI, Greville-Heygate S, Altman DG, Eccles B, et al. Germline BRCA mutation and outcome in young-onset breast cancer (POSH): a prospective cohort study. Lancet Oncol. 2018 Feb;19(2):169-180. [PMID: 29337092]

2. Robson M, Im SA, Senkus E, Xu B, Domchek SM, Masuda N, et al. Olaparib for metastatic breast cancer in patients with a germline BRCA mutation. N Engl J Med. 2017; 377(6): 523-33. [PMID:28578601]
3. Litton JK, Rugo HS, Ettl J, Hurvitz SA, Gonçalves A, Lee KH, F,et al. Talazoparib in Patients with Advanced Breast Cancer and a Germline BRCA Mutation. N Engl J Med. 2018; 379(8): 753-763. [PMID: 30110579]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.