2021年3月31日更新

総説 乳癌初期治療における腋窩手術

2.乳癌初期治療における腋窩手術

1)乳癌のbiology

現在の乳癌治療は,外科手術,放射線治療,薬物療法を適切に組み合わせて治療する。局所病変に対する単独治療であれば,照射や薬物療法に比較し,外科的切除が最も確実に病変を消失させることができる。明らかな遠隔転移を認めない場合,外科腫瘍学の基本として乳房内の原発巣切除と領域リンパ節郭清により,腫瘍を完全に取り除くことが治癒するための必要条件であるとされてきた。一方,乳癌のbiologyはかつてのHalsted理論1)からFisherらの全身病説(外科:1.乳癌初期治療における乳房手術 総説参照)へと大きくシフトし,手術の縮小化は進行しているが,顕在化した乳癌でも外科手術だけで治癒する症例は多い。つまり,すべての乳癌が初期段階から全身病ではないため,不用意な縮小手術は再発・生存に影響する可能性がある。

2)領域リンパ節と郭清

乳癌の領域リンパ節は,腋窩リンパ節,鎖骨下リンパ節,鎖骨上リンパ節,内胸リンパ節に分類される。病理学的リンパ節転移個数は現在でも最も強力な予後予測因子であり,リンパ節転移状態を正確に知ることは術後薬物療法や放射線療法の決定に重要な情報である。しかし,術前臨床的リンパ節転移陰性(cN0)は必ずしも病理学的リンパ節転移陰性(pN0)とは限らないため,Halstedの時代から正確な情報と局所制御を目指し,領域リンパ節の切除・郭清が施行されてきた。

初発乳癌において領域リンパ節のなかで腋窩リンパ節転移の頻度は高い。臨床的に明らかな腋窩リンパ節転移陽性患者ではレベルⅡまでの腋窩リンパ節郭清(axillary lymph node dissection;ALND)が勧められる(外科BQ4参照)。胸郭入り口へのレベルⅢの郭清は,レベルⅡに肉眼的リンパ節転移が認められる場合に限るべきである。

一方,早期発見が増え,多くの患者はcN0である。このようなcN0患者に対してALNDが予後を改善するかどうかについてはいまだ議論の余地がある。ランダム化比較試験NSABP B-04の結果によるとcN0乳癌患者において予防的ALNDを施行した群は再発時のみALNDを行う郭清省略群と比べて無遠隔転移生存および全生存率(OS)に差を認めなかった2)が,その後のB-04を含む6つの試験のメタアナリシスでは予防的ALND群において予後改善効果がみられている3)。NSABP B-04試験は乳癌全身病説を裏付ける斬新な結果であったが,under powerの可能性や乳房全切除時に偶然切除されたリンパ節の存在などの問題も指摘された。ALND以外にpN0を確認する方法がなかったため,後述するセンチネルリンパ節生検(sentinel node biopsy;SNB)が確立するまでALNDは施行されてきた。

内胸リンパ節に関して,腋窩リンパ節転移陽性患者で28~52%,腋窩リンパ節転移陽性患者でも乳房腫瘤の位置が内側にある患者では最大で20%と高率に転移があるにもかかわらず,内胸リンパ節郭清を加える拡大乳房全切除術は胸筋温存乳房全切除術に比較し再発・生存を改善しないことがわかり,手技の煩雑さや乳房温存手術の普及とともに現在では内胸リンパ節郭清をしていない4)。一方,内胸リンパ節領域照射を含む胸壁照射の有用性を検証したランダム化比較試験であるDBCG 82 b and c試験5)やEBCTCGメタアナリシス6)などからは局所制御のみならず,OSも改善することが示され,この領域への対処は内胸リンパ節郭清ではなく照射が主体と考えられる。

3)センチネルリンパ節生検

術前cN0患者の70~80%はpN0である。この場合のALNDは再発・生存に寄与せず,ALNDによる合併症として同側上肢のリンパ浮腫(外科BQ9参照),感覚異常や運動障害(外科BQ8参照)などが一定の割合で生じ,治療としての意義は全くないばかりか害となる。不要なALNDを避け,正確な転移診断の方法が待たれていた。1992年,Mortonらにより悪性黒色腫においてSNBの有用性が示された7)。センチネルリンパ節(sentinel lymph node;SLN)とは原発巣からのリンパ流を最初に受けるリンパ節と定義され,そこに転移がなければ理論上他のリンパ節にも転移はない。それら一連の手技をSNBと呼び,ALNDを省略しても病理学的領域リンパ節転移の有無をほぼ正確に決定できる。SNBの手技はトレーサーを腫瘍周囲もしくは乳輪下に注射し,目印のついたリンパ節を同定するが,使用するトレーサーとして色素法,ラジオアイソトープ法および両者の併用法が報告され(外科BQ6参照),最近ではインドシアニングリーンを用いた蛍光法も利用されている(外科FQ2参照)。

乳癌においてはcN0患者を対象としたSNBとALNDのランダム化比較試験がいくつか行われている8)9)。いずれの試験においても,両群間の無再発生存率(DFS)およびOSに有意差は認めず,SNB群では疼痛が少なく腕の運動性が良好であり,入院によるコストの削減がみられた。これらの結果より,cN0乳癌に対するSNBはALNDに代わる低侵襲の腋窩ステージング法であり,SNBを用いたALNDの省略は標準治療となっている(外科BQ5参照)。SLNが内胸リンパ節に描出されることもあり,リンパ節生検を行えばステージングの変更もあり得るが,同部位の再発は非常に少なく,恩恵のある患者割合が低いことから現時点ではリンパ節生検を推奨しない(外科FQ3参照)。また,術前診断が非浸潤癌の場合,切除検体に浸潤癌がみつかることもあるが,実際のSLN転移陽性は非常に少ない。このため原発腫瘍切除後に二期的SNBを施行するのが困難な症例にのみ,原発腫瘍切除と同時にSNBを行うことが望ましい(外科BQ7参照)。

SLN転移陽性の場合はALNDが標準治療であるが,実際にALNDを行っても郭清したリンパ節に転移を認める割合は約半数しかない10)。SLN転移陽性症例に対する腋窩非郭清の可能性を示した代表的なランダム化比較試験ACOSOG Z0011の長期予後が報告された11)。乳房温存手術症例でSLN転移個数が2個までの場合,SLNにマクロ転移を認めてもALNDを省略できる可能性があると考えられるが,その他の条件の場合,実臨床での適用には個々の症例に応じて慎重に検討しなければならない(外科CQ4b参照)。さらにSLN微小転移の場合,いくつかの臨床試験の結果,適切な条件下に乳房術式に関係なく腋窩温存が可能であることも示されている(外科CQ4a参照)。また,術前化学療法施行前後でcN0症例に対するSNBの同定率,偽陰性率は,術前化学療法なしの場合と同等であり,実施可能である。一方,当初cN+であった症例が術前化学療法によりcN0になった場合,SNBの偽陰性率は10%を超えて高く,予後も不明である。この場合,ALND省略を目的としたSNBは施行せず,ALNDを行うことが推奨される(外科CQ5参照)。

さらには,現在,超音波検査にてcN0と術前診断されたcT1症例に対してSNBと腋窩手術なしの無再発生存期間を比較する臨床試験(SOUND試験)が進行しており,将来,SNBすら必要としない腋窩手術を完全に省略できる対象群が同定できるかもしれない12)。

参考文献

1)Halsted WS. I. The results of operations for the cure of cancer of the breast performed at the Johns Hopkins Hospital from June, 1889, to January, 1894. Ann Surg. 1894;20(5):497―555. [PMID:17860107]

2)Fisher B, Redmond C, Fisher ER, Bauer M, Wolmark N, Wickerham DL, et al. Ten―year results of a randomized clinical trial comparing radical mastectomy and total mastectomy with or without radiation. N Engl J Med. 1985;312(11):674―81. [PMID:3883168]

3)Orr RK. The impact of prophylactic axillary node dissection on breast cancer survival――a Bayesian meta―analysis. Ann Surg Oncol. 1999;6(1):109―16. [PMID:10030423]

4)Chen RC, Lin NU, Golshan M, Harris JR, Bellon JR. Internal mammary nodes in breast cancer:diagnosis and implications for patient management―― a systematic review. J Clin Oncol. 2008;26(30):4981―9. [PMID:18711171]

5)Danish Breast Cancer Cooperative Group, Nielsen HM, Overgaard M, Grau C, Jensen AR, Overgaard J. Study of failure pattern among high―risk breast cancer patients with or without postmastectomy radiotherapy in addition to adjuvan systemic therapy:long―term results from the Danish Breast Cancer Cooperative Group DBCG 82 b and c randomized studies. J Clin Oncol. 2006;24(15):2268―75. [PMID:16618947]

6)EBCTCG(Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group), McGale P, Taylor C, Correa C, Cutter D, Duane F, et al. Effect of radiotherapy after mastectomy and axillary surgery on 10―year recurrence and 20―year breast cancer mortality:meta―analysis of individual patient data for 8135 women in 22 randomised trials. Lancet. 2014;383(9935):2127―35. [PMID:24656685]

7)Morton DL, Wen DR, Wong JH, Economou JS, Cagle LA, Storm FK, et al. Technical details of intraoperative lymphatic mapping for early stage melanoma. Arch Surg. 1992;127(4):392―9. [PMID:1558490]

8)Veronesi U, Paganelli G, Viale G, Luini A, Zurrida S, Galimberti V, et al. Sentinel―lymph―node biopsy as a staging procedure in breast cancer:update of a randomised controlled study. Lancet Oncol. 2006;7(12):983―90. [PMID:17138219]

9)Krag DN, Anderson SJ, Julian TB, Brown AM, Harlow SP, Costantino JP, et al. Sentinel―lymph―node resection compared with conventional axillary―lymph―node dissection in clinically node―negative patients with breast cancer:overall survival findings from the NSABP B―32 randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010;11(10):927―33. [PMID:20863759]

10)Kim T, Giuliano AE, Lyman GH. Lymphatic mapping and sentinel lymph node biopsy in early―stage breast carcinoma:a metaanalysis. Cancer. 2006;106(1):4―16. [PMID:16329134]

11)Giuliano AE, Ballman KV, McCall L, Beitsch PD, Brennan MB, Kelemen PR, et al. Effect of axillary dissection vs no axillary dissection on 10―year overall survival among women with invasive breast cancer and sentinel node metastasis:The ACOSOG Z0011(Alliance)Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;318(10):918―26. [PMID:28898379]

12)Gentilini O, Veronesi U. Abandoning sentinel lymph node biopsy in early breast cancer? A new trial in progress at the European Institute of Oncology of Milan(SOUND:Sentinel node vs Observation after axillary UltraSouND). Breast. 2012;21(5):678―81. [PMID:22835916]

乳癌診療ガイドライン

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.