2021年3月31日更新

CQ4.センチネルリンパ節に転移を認める患者に対して腋窩リンパ節郭清省略は勧められるか?

2.乳癌初期治療における腋窩手術

CQ4a 微小転移の場合

推 奨
腋窩リンパ節郭清省略を強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

CQ4b マクロ転移の場合

CQ4b―1 乳房温存療法の場合
CQ4b―2 乳房全切除術の場合(放射線療法なし)
CQ4b―3 乳房全切除術の場合(放射線療法あり)

推 奨
CQ4b―1:[乳房温存療法の場合]腋窩リンパ節郭清省略を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

CQ4b―2:[乳房全切除術の場合,放射線療法なし]腋窩リンパ節郭清を省略しないことを強く推奨する(腋窩郭清を行うことを強く勧める)。
〔推奨の強さ:4,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:83%(10/12)(2回目の投票で決定した)〕

CQ4b―3:[乳房全切除術の場合,放射線療法あり]腋窩リンパ節郭清省略を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:82%(9/11)(3回目の投票で決定した)〕

背景・目的

腋窩リンパ節郭清術(ALND)の臨床的意義は,局所の制御に加え,転移の個数を知ることにより術後薬物療法および照射の適応を決めることである。センチネルリンパ節(SLN)転移陽性ならばALNDが勧められているが,ACOSOG Z0011試験1)の結果が報告されて以来,SLNに転移を認めた場合でもALNDの必要性が議論の対象となり,ASCOガイドライン(2017年)では,SLN陽性でも照射を伴う乳房温存手術を予定している場合にはALNDを行うべきでないとした2)。そこで本CQでは,SLN転移陽性の場合にALND省略は勧められるかについて検討した。

解 説

SLN陽性症例を対象にしたALND群とALND省略群のランダム化比較試験は,ACOSOG Z0011試験(n=891)1)3)4),EORTC 10981―22023 AMAROS試験(n=1,425)5)6),OTOASOR試験(n=474)7)である。また,SLN微小転移のみを対象としたALND群とALND省略群のランダム化比較試験は,IBCSG 23―01試験(n=465)8),AATRM 048/13/2000試験(n=247)9)がある。本CQに対する推奨の作成にあたっては,ALND省略による全生存率,腋窩再発率の低下がなく,ALNDを行った場合のリンパ浮腫の出現,手術合併症の増加を重視した。

推奨を決定するにあたり,まず微小転移(0.2 mmから2 mmまで)と,マクロ転移(2 mmを超える)に分けた(それぞれCQ4a,4b)。そして,マクロ転移は,推奨の強さの決定に影響する要因として,術式〔乳房部分切除術と乳房全切除術(乳房再建も含む)〕と放射線療法(なし,あり)によって推奨度が異なる可能性が高いため,それら3つ(CQ4b―1,2,3)に分けた。

1)エビデンスの強さ

CQ4aについて,5つのランダム化比較試験1)3)~9)の定量的システマティック・レビューを行った。全生存率(図1),腋窩再発率(図2)は,いずれも一致してALND省略群でも劣らない。また,ALNDに伴うリンパ浮腫(図3),手術合併症(図4)は,いずれも一致してALND群で劣っていた。ランダム化比較試験は,ALND群とALND省略群の比較であり,本CQに関するエビデンスとして直接性は高いものの,それぞれのプライマリー・エンドポイントが全生存率(1報1)3)4)),腋窩再発率(2報5)~7)),無病生存率(2報8)9))と異なること,微小転移のみを対象としていないこと,病期と術式の非一貫性があること,それぞれが非劣性を証明する統計学的なイベント数を満たさないこと,合併症に関しては一部のみでしか記載がなく検出バイアスがあることから,全体のエビデンスの強さは「中」とした。

CQ4bについて,3つのランダム化比較試験1)3)~6)の定量的システマティック・レビューを行った。全生存率(図5),腋窩再発率(図6)の結果は,いずれも一致してALND省略群でも劣らなかった。また,ALNDに伴うリンパ浮腫(図7)の結果はALND群で劣っていた。CQ4aと同様の理由により,全体のエビデンスの強さは「中」とした。ただし,乳房全切除術症例はACOSOG Z0011試験(n=891)1)3)4)に含まれず,EORTC 10981―22023 AMAROS試験(n=1,425)5)6)の18%,OTOASOR試験(n=474)7)の16%のみであることから,CQ4b―3(乳房全切除術,放射線療法あり)のエビデンスの強さは「弱」,さらに全例に腋窩リンパ節領域照射が行われていることから,CQ4b―2(乳房全切除術,放射線療法なし)のエビデンスの強さは「とても弱い」とした。

2)推奨の強さ

4a;微小転移の場合,腋窩局所治療に対しては,IBCSG 23―01試験8),AATRM 048/13/2000試験9)とも約90%は乳房温存手術が行われ標準的乳房照射が行われているが,high tangentなど腋窩を照射野に含む方法はとられていない。結果は両群間で無病生存率,全生存率とも有意差を認めていない。また,ALNDの場合,リンパ浮腫の出現頻度,手術合併症の増加は確実である。ただし,両試験にて全例に適切な術後薬物療法が行われていることは留意する必要がある。

以上より,SLNに微小転移を認める患者に対し,全生存率,腋窩再発率,郭清した場合のリンパ浮腫,合併症の発症率をそれぞれ考慮すると,ALND省略を強く推奨する。

4b―1;乳房部分切除術(乳房温存療法)の場合,症例がT1/T2,cN0であること,SLN転移数は2個まで,適切な術後放射線療法(☞放射線FQ2参照),薬物療法を行うことが前提であり,これらを条件とする必要がある。一方,ALNDの場合,リンパ浮腫の出現頻度,手術合併症の増加は確実である。

 

以上より,SLNにマクロ転移を認める患者に対し,全生存率,腋窩再発率,郭清した場合のリンパ浮腫,合併症をそれぞれ考慮すると,ALND省略を弱く推奨するにとどめる。

4b―2;乳房全切除術,放射線療法なしの症例はいずれのランダム化比較試験にも含まれないため,ALND省略の根拠に乏しく,エビデンスの強さは「とても弱い」といわざると得ない。

したがって,SLNにマクロ転移を認める患者に対してALNDを省略しないことを強く推奨する(腋窩リンパ節郭清を行うことを強く勧める)。

合意率:1回目55%(6/11),2回目83%(10/12)(2回目の投票で決定した。)

1回目の投票では,「ALNDを省略しないことを弱く推奨する」を55%(6/11)が選択した。2回目の投票で「ALNDを省略しないことを強く推奨する」と決定した。合意の分かれた理由は,該当する患者のエビデンスがないものの,浮腫,合併症の「害」が明らかであり,ALNDを行うことを強く勧めるか弱く勧めるかで意見が分かれたためであった。

4b―3;乳房全切除術,放射線療法ありの症例は,EORTC 10981―22023 AMAROS試験(n=1,425)5)6)の18%,OTOASOR試験(n=474)7)の16%のみであるため,ALND省略に関するエビデンスの強さは「弱」である。また,乳房全切除術であってもT1/T2であること,適切な術後薬物療法を行うことが前提である。一方,ALNDの場合,リンパ浮腫の出現頻度,手術合併症の増加は確実である。
したがって,SLNにマクロ転移を認める患者に対してALND省略を弱く推奨する。

合意率:1回目64%(7/11),2回目64%(11/7),3回目82%(9/11)(3回目の投票で決定した。)

1回目では,「ALND省略を弱く推奨する」を64%(7/11)が選択した。一方,「ALNDを省略しないことを弱く推奨する」を36%(4/11)が選択した。2回目の投票でも同一であった。3回目の投票で「ALND省略を弱く推奨する」と決定した。合意の分かれた理由は,該当する患者のエビデンスの強さが弱いため,ALNDによる浮腫,合併症の害が明らかであるものの,放射線療法を前提とすれば術式は問わないとしてよいか意見が分かれたためであり,最終的には乳房全切除術症例であっても乳房部分切除術症例と同様の腋窩治療ができるような方向に投票が変化した。

益と害のバランスに関しては,「益」はリンパ浮腫の減少,手術合併症の減少であり,いずれの条件であっても差はなく,「害」は全生存率や腋窩再発率の低下であり,CQ4a,4b―1,2,3それぞれのエビデンスの強さで変わってくると考えられた。患者の希望は,リンパ浮腫や体への負担が少ない手術を期待する一方で,再発を避けたい希望もあり,価値観のばらつきはあると考えられた。

以上より,エビデンスの強さ,益と害のバランス,患者の希望を勘案し,それぞれ上記の推奨とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Lymph Node Excision”,“Neoplasm Micrometastasis”,“Lymphatic Metastasis”,“micrometastsis”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,801件がヒットした。それ以外に2編の論文が追加された。一次スクリーニングで43本の論文が抽出され,二次スクリーニングで10本の論文が抽出された。そのうちCQ4aの主旨に関するランダム化比較試験として5編,CQ4bに関する試験として3編の定量的および定性的システマティック・レビューを行った。SLNに微小転移を有する患者のみを対象としたランダム化比較試験は2編,微小転移およびマクロ転移を含む患者を対象としたランダム化比較試験は3編であった。

エビデンス総体(4a/4b)・システマティックレビュー(4a/4b)・メタアナリシス(4a/4b

参考文献

1)Giuliano AE, Hunt KK, Ballman KV, Beitsch PD, Whitworth PW, Blumencranz PW, et al. Axillary dissection vs no axillary dissection in women with invasive breast cancer and sentinel node metastasis:a randomized clinical trial. JAMA. 2011;305(6):569―75. [PMID:21304082]

2)Lyman GH, Somerfield MR, Bosserman LD, Perkins CL, Weaver DL, Giuliano AE. Sentinel lymph node biopsy for patients with early―stage breast cancer:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2017;35(5):561―4. [PMID:27937089]

3)Giuliano AE, McCall L, Beitsch P, Whitworth PW, Blumencranz P, Leitch AM, et al. Locoregional recurrence after sentinel lymph node dissection with or without axillary dissection in patients with sentinel lymph node metastases:the American College of Surgeons Oncology Group Z0011 randomized trial. Ann Surg. 2010;252(3):426―32;discussion 432―3. [PMID:20739842]

4)Giuliano AE, Ballman KV, McCall L, Beitsch PD, Brennan MB, Kelemen PR, et al. Effect of axillary dissection vs no axillary dissection on 10―year overall survival among women with invasive breast cancer and sentinel node metastasis:The ACOSOG Z0011(Alliance)Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;318(10):918―26. [PMID:28898379]

5)Straver ME, Meijnen P, van Tienhoven G, van de Velde CJ, Mansel RE, Bogaerts J, et al. Sentinel node identification rate and nodal involvement in the EORTC 10981―22023 AMAROS trial. Ann Surg Oncol. 2010;17(7):1854―61. [PMID:20300966]

6)Donker M, van Tienhoven G, Straver ME, Meijnen P, van de Velde CJ, Mansel RE, et al. Radiotherapy or surgery of the axilla after a positive sentinel node in breast cancer(EORTC 10981―22023 AMAROS):a randomised, multicentre, open―label, phase 3 non―inferiority trial. Lancet Oncol. 2014;15(12):1303―10. [PMID:25439688]

7)Sávolt Á, Péley G, Polgár C, Udvarhelyi N, Rubovszky G, Kovács E, et al. Eight―year follow up result of the OTOASOR trial:The Optimal Treatment Of the Axilla― Surgery Or Radiotherapy after positive sentinel lymph node biopsy in early―stage breast cancer:A randomized, single centre, phase Ⅲ, non―inferiority trial. Eur J Surg Oncol. 2017;43(4):672―9. [PMID:28139362]

8)Galimberti V, Cole BF, Zurrida S, Viale G, Luini A, Veronesi P, et al;International Breast Cancer Study Group Trial 23―01 investigators. Axillary dissection versus no axillary dissection in patients with sentinel―node micrometastases(IBCSG 23―01):a phase 3 randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2013;14(4):297―305. [PMID:23491275]

9)Sola M, Alberro JA, Fraile M, Santesteban P, Ramos M, Fabregas R, et al. Complete axillary lymph node dissection versus clinical follow―up in breast cancer patients with sentinel node micrometastasis:final results from the multicenter clinical trial AATRM 048/13/2000. Ann Surg Oncol. 2013;20(1):120―7. [PMID:22956062]

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