2021年3月31日更新

CQ5.術前化学療法後に,腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検は推奨されるか?

2.乳癌初期治療における腋窩手術

CQ5a 術前化学療法前後で臨床的リンパ節転移陰性乳癌に対して腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検は推奨されるか?

推 奨
・腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:83%(10/12)〕

CQ5b臨床的リンパ節転移陽性乳癌が術前化学療法施行後,臨床的リンパ節転移陰性が確認された場合,腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検は推奨されるか?

推 奨
・腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検を行わないこと(腋窩リンパ節郭清を行うこと)を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:弱,合意率:92%(11/12)〕

背景・目的

センチネルリンパ節生検(SNB)は術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)を行わない臨床的リンパ節転移陰性乳癌では,正確な腋窩ステージングが可能であり,センチネルリンパ節転移陰性の場合は郭清省略しても予後に影響しないことが明らかとなった(外科療法BQ5参照)。一方,NACは局所進行乳癌に対して,ダウンステージングにより手術不能乳癌を手術可能にし,乳房温存率を向上させるなどすでに標準的治療となっており,さらにその適応は早期乳癌にも及んでいる。また,NACは腋窩リンパ節に対しても有意な治療効果が確認されており,臨床的腋窩リンパ節転移陽性乳癌がNAC後,臨床的リンパ節転移陰性となることも経験する。SNBがNAC施行患者に対して安全に適応可能かどうか,NAC前の臨床的リンパ節転移の状態別に検討した。

解 説

SNBにおける最も直接的な「害」のアウトカムは同定率の低下と偽陰性率の上昇であり,この算出にはSNB後にバックアップ郭清が必要となる。一方,腋窩再発や生存率などの予後は,腋窩温存した症例で検討するため論文は異なる。

CQ5aに対して一次~二次スクリーニングの結果,ほとんどが症例数の限られた症例集積研究であった。その中で対象と目的が同じSNBの同定率,偽陰性率等を検討した後ろ向き症例集積16論文を網羅し,定性的システマティック・レビューとメタアナリシスを行った2016年の論文1編1)を採用した。さらに,予後を検討した1編2)を追加した。症例集積研究の量的統合のためエビデンスの強さは「弱」とした。同様に,CQ5bに対して一次~二次スクリーニングの結果,SNBの同定率,偽陰性率等を検討した19論文を網羅し,定量的システマティック・レビューとメタアナリシスを行った2016年の論文1編3)を採用し,予後を検討した2編2)4)を追加した。量的統合はランダム化比較試験を含む論文も一部含まれるが,症例集積研究が多いためエビデンスの強さは「弱」とした。

CQ5aを扱ったレビューでは,統合された同定率は96%(95%CI 95%-97%)I2=45.6%,偽陰性率は6%(95%CI 3%-8%),I2=27.5%であった1)。術前薬物療法や,用いたトレーサーの内容にばらつきあるため非直接性はやや劣るが,16編の論文としての異質性はあるものの小さく,同定率,偽陰性率はNACを行わないSNBに劣らないと考えられた。また,予後を検討したのはわずか1編2)で評価困難であるが,5年全生存率90.7%(95%CI 87.7―93.7),5年無病生存率80.6%(95%CI 75.4―85.8),腋窩再発率0.4%(1/249)であった。

CQ5bを扱ったレビューでは,統合された同定率は90.9%(95%CI 87.6%-93.4%),I2=88%,偽陰性率は13.0%(95%CI 10.8%-15.6%),I2=71%であった3)。術前薬物療法や,用いたトレーサーの内容にばらつきあるため非直接性はやや劣り,19編の論文としての異質性はいずれも大きいと考えられ,同定率,偽陰性率はNACを行わないSNBと比べやや劣ると考えられた。また,予後を検討したのは2編2)~4)で,合わせた腋窩再発率は1.7%(3/175)であり,評価は難しい。

総括すると,CQ5aに関しては,同定率,偽陰性率などもNACなしの症例と遜色なく,腋窩リンパ節郭清を省略した場合の害である予後のデータに乏しいものの,腋窩郭清に対して腋窩温存における患側上肢の合併症・後遺症軽減といった「益」は明らかであり,「術前化学療法前後で臨床的リンパ節転移陰性乳癌に対して腋窩郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検を行うことを弱く推奨する」とした。

さらにCQ5bに関しては,臨床的リンパ節転移陰性症例CQ5aと比較すると,同定率が低く,偽陰性率13%と10%を超える値であり,手技の精度が低下する。NACのないSNBよりも,NAC後の偽陰性率が高いことは問題がある。それは転移リンパ節に対するNAC効果が完全ではなかったことと,術後に追加の化学療法を施行しないことが多いため,温存腋窩リンパ節癌遺残に対する治療が不十分となる可能性があるからである。また,予後を観察した長期成績がないため,現時点では偽陰性率が代替指標となる。よって,長期予後がCQ5aと比較して遜色ない結果が出るまでは,慎重に対応すべきと考えられた。

患者の希望に関しては,リンパ浮腫や体への負担が少ない手術を期待する一方で,再発を避けたい希望もあり,再発の可能性によって価値観のばらつきはあると考えられた。

以上より,「臨床的リンパ節転移陽性乳癌が術前化学療法施行後,臨床的リンパ節転移陰性が確認された場合であっても,腋窩郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検を行わないこと(腋窩リンパ節郭清を行うこと)を弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoadjuvant Therapy”,“Drug Therapy”,“Sentinel Lymph Node Biopsy”,“Lymph Node Excision”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,522件がヒットした。それ以外に2017年5月30日までにハンドサーチで1編の論文が追加された。一次~二次スクリーニングで抽出された論文で対象となったのはほぼ浸潤性乳癌であり,サブグループに分けた解析はしていない。

エビデンス総体(5a/5b)・システマティックレビュー(5a/5b

参考文献

1)Geng C, Chen X, Pan X, Li J. The feasibility and accuracy of sentinel lymph node biopsy in initially clinically node―negative breast cancer after neoadjuvant chemotherapy:a systematic review and meta―analysis. PLoS One. 2016;11(9):e0162605. [PMID:27606623]

2)Galimberti V, Ribeiro Fontana SK, Maisonneuve P, Steccanella F, Vento AR, Intra M, et al. Sentinel node biopsy after neoadjuvant treatment in breast cancer:Five―year follow―up of patients with clinically node―negative or node―positive disease before treatment. Eur J Surg Oncol. 2016;42(3):361―8. [PMID:26746091]

3)El Hage Chehade H, Headon H, El Tokhy O, Heeney J, Kasem A, Mokbel K. Is sentinel lymph node biopsy a viable alternative to complete axillary dissection following neoadjuvant chemotherapy in women with node―positive breast cancer at diagnosis? An updated meta―analysis involving 3,398 patients. Am J Surg. 2016;212(5):969―81. [PMID:27671032]

4)Park S, Lee JE, Paik HJ, Ryu JM, Bae SY, Lee SK, et al. Feasibility and prognostic effect of sentinel lymph node biopsy after neoadjuvant chemotherapy in cytology―proven, node―positive breast cancer. Clin Breast Cancer. 2017;17(1):e19―e29. [PMID:27495997]

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