2021年3月31日更新

CQ19.周術期化学療法においてアンスラサイクリンまたはタキサン系薬剤が未使用のとき,HER2陰性転移・再発乳癌に対する二次以降の化学療法として何が推奨されるか?

2.転移・再発乳癌

推 奨
・一次化学療法として使用されなかったアンスラサイクリン,タキサン,S―1に加え,カペシタビン,エリブリンのいずれかの投与を強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:中,合意率:100%(12/12)〕

・ゲムシタビン,ビノレルビンの投与を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:100%(12/12)〕

背景・目的

転移・再発乳癌は一次化学療法に耐性となった後も,他の化学療法に対しての効果が期待できる。二次以降の化学療法としてどのような治療が推奨されるか検証した(薬物:2.転移・再発乳癌 総説2)3)5)参照)。

解 説

1)アンスラサイクリン,タキサン,S―1,カペシタビン,エリブリン

一次化学療法に耐性となった転移・再発乳癌を対象とした無治療との比較試験は存在しないが,過去の多数のランダム化比較試験から二次以降の化学療法で十分な効果が期待できる症例は多く,一般的に二次以降の化学療法施行は強く勧められる1)。アンスラサイクリン,タキサンに関しては多くが一次治療での比較試験であり,二次以降の治療でのデータは限られている。一次化学療法としてアンスラサイクリンまたはタキサンを使用し,増悪後にもう一方を使用しても,最終的にOSに差がなかったことが報告されている2)。二次以降の治療としてS―1を他の薬剤と比較した試験は,唯一,S―1とカペシタビンの比較試験が挙げられる。ここではOS,PFSは両薬剤で同等であった。また,毒性プロファイルは異なるが,Grade 3以上の有害事象の頻度に大きな差は認められなかった3)。エリブリンは,アンスラサイクリン・タキサン既治療例を対象として,医師選択治療(TPC)と比較したEMBRACE(305)試験と,カペシタビンと比較した301試験の結果が報告されている4)5)。2試験の定量的解析の結果,エリブリンで有意にOSが延長された(HR 0.86,95%CI 0.77-0.96,p=0.008)。PFS,ORR,毒性(有害事象による治療中止)に差は認められなかった。301試験ではQOL評価を行っており,エリブリンとカペシタビンでQOLに差は認められなかった5)

以上の各薬剤のエビデンスの強さに関して,バイアスリスクや試験数が少ないことを考慮して,すべての薬剤において,エビデンスの強さは「中」とした。益と害のバランスについて,一次治療で推奨されたアンスラサイクリン,タキサン,S―1に関しては,二次以降の治療でのエビデンスが少ないものの,その有用性は一次治療で示されており,未使用の場合は「益」が確実に上回ると考えられた。また,カペシタビンはS―1との同等性,エリブリンはカペシタビンなどとの同等性が証明されており,これらも二次以降の治療としてアンスラサイクリン,タキサン,S―1と同様に「益」が上回ると考えられた。

患者の希望は,生存期間の延長や脱毛への考え方など個々の価値観によって,また一次治療時に経験した有害事象によって多様性があると考えられた。

2)ゲムシタビン,ビノレルビン

ゲムシタビン単剤を二次以降の治療で検証したランダム化比較試験はない。タキサンやビノレルビンに対してゲムシタビンの上乗せ効果を検証した4試験のメタアナリシスを行った結果,ゲムシタビンを併用することによってPFSを延長する傾向にあるもののOS,ORRに差は認められなかった。ビノレルビン単剤を二次以降の治療でカペシタビンと比較した試験では,カペシタビンがOS,TTPで上回っていた6)。ビノレルビンを含むレジメンと含まないレジメンを比較した4試験のメタアナリシスを行った結果,OS,PFS,ORR,毒性で両群に差は認められなかった。

ゲムシタビン,ビノレルビンのエビデンスの強さに関して,バイアスリスクや試験数が少ないことを考慮して「中」とした。ビノレルビンは脱毛が少ないが,ゲムシタビン,ビノレルビンいずれも治療効果を示したデータが乏しく,益と害のバランスの確実性はアンスラサイクリン,タキサン,S―1,カペシタビン,エリブリンと比較して減じられるため,「益」が勝るとはいえないと判断した。推奨決定会議では全会一致で「弱く推奨」となった。患者の希望は,脱毛への考え方など個々の価値観によって,また一次治療時に経験した有害事象によって多様性があると考えられた。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨文は「一次化学療法として使用されなかったアンスラサイクリン,タキサン,S―1に加え,カペシタビン,エリブリンのいずれかの投与を強く推奨する」「ゲムシタビン,ビノレルビンの投与を弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Capecitabine”,“Deoxycytidine”,“Fluorouracil”,“eribulin”,“gemcitabine”,“vinorelbine”,“irinotecan”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,860件がヒットした。これらに対して一次スクリーニング,二次スクリーニングを行い,薬剤ごとにシステマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Gianni L, Munzone E, Capri G, Villani F, Spreafico C, Tarenzi E, et al. Paclitaxel in metastatic breast cancer:a trial of two doses by a 3―hour infusion in patients with disease recurrence after prior therapy with anthracyclines. J Natl Cancer Inst. 1995;87(15):1169―75. [PMID:7674322]

2)Paridaens R, Biganzoli L, Bruning P, Klijn JG, Gamucci T, Houston S, et al. Paclitaxel versus doxorubicin as first―line single―agent chemotherapy for metastatic breast cancer:a European Organization for Research and Treatment of Cancer Randomized Study with cross―over. J Clin Oncol. 2000;18(4):724―33. [PMID:10673513]

3)Yamamoto D, Iwase S, Tsubota Y, Ariyoshi K, Kawaguchi T, Miyaji T, et al. Randomized study of orally administered fluorinated pyrimidines(capecitabine versus S―1)in women with metastatic or recurrent breast cancer:Japan Breast Cancer Research Network 05 Trial. Cancer Chemother Pharmacol. 2015;75(6):1183―9. [PMID:25862350]

4)Cortes J, O’Shaughnessy J, Loesch D, Blum JL, Vahdat LT, Petrakova K, et al;EMBRACE(Eisai Metastatic Breast Cancer Study Assessing Physician’s Choice Versus E7389)investigators. Eribulin monotherapy versus treatment of physician’s choice in patients with metastatic breast cancer(EMBRACE):a phase 3 open―label randomised study. Lancet. 2011;377(9769):914―23. [PMID:21376385]

5)Kaufman PA, Awada A, Twelves C, Yelle L, Perez EA, Velikova G, et al. Phase Ⅲ open―label randomized study of eribulin mesylate versus capecitabine in patients with locally advanced or metastatic breast cancer previously treated with an anthracycline and a taxane. J Clin Oncol. 2015;33(6):594―601. [PMID:25605862]

6)Verma S, Wong NS, Trudeau M, Joy A, Mackey J, Dranitsaris G, et al. Survival differences observed in metastatic breast cancer patients treated with capecitabine when compared with vinorelbine after pretreatment with anthracycline and taxane. Am J Clin Oncol. 2007;30(3):297―302. [PMID:17551309]

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