2021年3月31日更新

CQ15.閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法として,何が推奨されるか?

2.転移・再発乳癌

推 奨
・アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用を行うことを強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:強,合意率:85%(17/20)〕

・フルベストラント500 mg単剤の投与を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:90%(18/20)〕

・アロマターゼ阻害薬単剤の投与を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:95%(19/20)〕

背景・目的

閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳癌に対しては,生命を脅かす病変がない場合1),病状コントロールと延命効果に期待した薬物療法としては,化学療法と比較して副作用がより少ない内分泌療法が推奨される2)。薬物療法BQ2で説明しているように,転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法は,術後内分泌療法の実施の有無とその最終投与から再発までの期間に基づいて,術後内分泌療法で使用した内分泌療法薬の再投与についての判断を行うことが多い。一次内分泌療法として,最適な選択肢を検討することを目的として,本CQについて検討した。一次内分泌療法の定義については,「薬物療法2.転移・再発乳癌 総説4)」を参照のこと。

なお、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬の周術期内分泌療法中、もしくは終了後12カ月以内に再発した患者に関しては、過去の多くの試験において二次内分泌療法の患者とともに治療効果を評価されている。このため原則としてCQ16の推奨に準ずることとする。

一方で、タモキシフェンに関しては、アロマターゼ阻害薬やCDK4/6阻害薬併用のランダム化比較試験において、周術期内分泌療法中、終了後の再発時期によらず、基本的には一次内分泌療法として組み入れられていた。これにより、原則としてCQ15に準ずることとする。ただし、試験ごとに組み入れ基準が微妙に異なっており,注意が必要である。例えば,周術期治療のタモキシフェン内服中もしくは12カ月以内に再発した閉経後患者は、パルボシクリブに関してはアロマターゼ阻害薬を併用するPALOMA-2試験に組み込まれたが,アベマシクリブに関してはフルベストラントを併用するMONARCH-2試験に組み込まれている。各薬剤の使用の際は,これら臨床試験の結果を十分に理解しておく必要がある。「薬物療法2.転移・再発乳癌 総説4)」を参照のこと。

解 説

1)アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用療法について

今回,PALOMA-1試験3),PALOMA-2試験4)5),MONALEESA-2試験6)7),MONARCH-3試験8)9)を対象にメタアナリシスを実施し,アロマターゼ阻害薬(AI)単剤と, AIとサイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害薬の併用療法について比較検討した。この結果,progression free survival(PFS)はリスク比0.68(95%CI 0.62-0.74)(図2a),overall response rate(ORR)はrisk difference(RD)0.11 (95%CI 0.07- 0.16)(図2b),clinical benefit rate(CBR)はRD 0.11(95%CI 0.05-0.17)(図2c)と,いずれもAI+CDK4/6阻害薬併用療法群で良好であった。上記の4試験はいずれも臨床試験の質が高く,エビデンスの強さは「強」とした。なお,PALOMA―2試験においては,術後内分泌療法中および終了後12か月以内の再発症例(エキセメスタンとタモキシフェン治療症例)も2割程度存在していた。これら症例でも同様に併用療法でPFSが良好な結果,ハザード比0.50(95%CI 0.33―0.76)であった。

上記メタアナリシスにおいて,Grade 3以上の有害事象に関しては,有意にAI+CDK4/6阻害薬併用療法群で高く,AI単独に比較して点推定値として47%(RD 0.47,95%CI 0.38―0.56)のGrade 3以上の有害事象の出現頻度増加を認めた。益と害のバランスとしては,これら有害事象の点を鑑みても,ORR,CBR,PFS延長の効果から,十分,利益が不利益を上回ると判断した。

患者の希望については,患者の嗜好に関した分析はないものの,有効性以外の有害事象,費用負担や投与経路に価値を置いた場合,患者の希望はばらつきがあると判断した。

AIとCDK4/6阻害薬併用療法について,日本の患者負担分を想定した費用対効果分析はなされていない。ただし、CDK4/6阻害薬の使用患者においては、高額療養費制度の適用となる薬剤費と想定される。以上より,費用負担が患者の希望に影響する可能性がある。一方で,PALOMA-2試験の解析によると,QOLは併用により悪化することはなく、疼痛緩和は併用の方が良い結果であった10)

乳癌診療ガイドライン2018年版では、AIとCDK4/6阻害薬併用療法のPFS、ORR、CBRは良好であるが、有害事象や費用の増加を元に、AI単剤療法等と比較して推奨を上げることはしなかった。しかし、大規模ランダム化比較試験の追加や長期成績報告により、有効性の一貫性は明確化されたこと、安全性に関しても併用療法でグレード3以上の有害事象は増加するものの、既に実臨床でマネジメントが可能となっている実情から、益と害のバランスを考慮し、AIとCDK4/6阻害薬併用療法の推奨はAI単剤療法等と比較して、より高いものと考えた。

推奨決定会議の投票では,「行うことを強く推奨する」が85%,「行うことを弱く推奨する」が15%であった。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者希望などを勘案し,推奨は「アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用を行うことを強く推奨する」とした。なお、アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用を一次内分泌療法で使用した場合の二次内分泌療法については、FQ20を参照のこと。

2)フルベストラント500 mg単剤投与について

閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法としてフルベストラント500 mg単剤投与と第三世代AIであるアナストロゾール1 mgとの比較試験が実施されている。今回,ランダム化第Ⅱ相比較試験であるFIRST試験11)12)と二重盲検ランダム化第Ⅲ相比較試験FALCON試験13)の結果を統合解析した。この結果,フルベストラント500 mgでPFSおよびTTPがリスク比0.84(95%CI 0.72-0.98)(図3)と,良好な結果であった。ORRとCBRについてはそれぞれRD 0.01(95%CI -0.06―0.09)とRD 0.05(95%CI -0.02―0.11)であり,両群で差を認めていない。FIRST試験の結果では,overall survival(OS)中央値はフルベストラント群が54カ月に対してアナストロゾール1 mg群は48.4カ月であり,フルベストラント群がハザード比0.70(95%CI 0.50-0.98)であったことが示されている。

以上,2つのランダム化比較試験をもとにした結果であり,エビデンスの強さは「強」とした。

FALCON試験において,有害事象の頻度は両群で差を認めなかったものの,関節痛(フルベストラント群17%,アナストロゾール群10%)や筋肉痛(フルベストラント群7%,アナストロゾール群3%)がフルベストラント群で多い報告であった。これら有害事象の点を鑑みても,PFS延長の効果から,十分,利益が不利益を上回ると判断した。

患者の希望については,患者の嗜好に関した分析はないものの,PFSや投与経路に価値を置いた場合,患者の希望はばらつきがあると判断した。

一方で、AI単剤と比較したランダム化第III相比較試験はFALCON試験1つである。また、FALCON試験はほぼ全例が内分泌療法未治療のStage Ⅳ症例を対象としていたことなどから直接性に問題があり、本CQの対象集団全体でAI単剤よりフルベストラントが有効性の面で優越すると結論付けることは難しい。

また、現在AIとCDK4/6阻害薬併用療法とフルベストラント単剤とを比較するデータは存在しないが、推奨の優劣を決めるに際しては、エビデンスを形成する試験数、PFSの絶対値とその一貫性を重視した。

推奨決定会議の投票では,「行うことを弱く推奨する」が90%,「行うことを強く推奨する」が10%であった。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者希望などを勘案し,推奨は「フルベストラント500 mg単剤の投与を弱く推奨する」とした。なお、フルベストラント500 mg単剤を一次内分泌療法で使用した場合の二次内分泌療法については、FQ20を参照のこと。

3)アロマターゼ阻害薬単剤について

前述のように、閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法として,AI単剤は、複数のランダム化比較試験における対照群として、CDK4/6阻害薬の併用療法やFUL単剤に対するランダム化比較試験が実施されている。一方で、これらの試験以前に、AI単剤と,タモキシフェンおよびその他の内分泌療法を対照群としたランダム化比較試験が多数実施されている。既存のメタアナリシスでは,AI単剤がタモキシフェンおよびその他の内分泌療法に対して, OSを有意に延長したという報告が複数ある14)15)。一方で、AI単剤とタモキシフェン単剤同士に限った比較では、OSについては有意差を認めなかったが、ORRやCBRはAI単剤で良好であったという報告がある16)。以上より,閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法におけるAI単剤のエビデンスの強さは「強」とした。

他の内分泌療法単剤と比較して,特に注意すべき有害事象が増えるわけではないため,利益が有害事象と比較しても上回ると判断した。

患者の希望のばらつきとしては,患者の嗜好に関した分析は実施されていないものの,ORR,CBR,PFSや投与経路に価値を置いた場合,AIとCDK4/6阻害薬の併用またはフルベストラント500 mg単剤などとの間で,患者の希望はばらつきがあると判断した。

しかし、既存のメタアナリシスでAI単剤と比較されたタモキシフェンやその他内分泌療法は、現在の閉経後1次治療の標準治療とはいいがたく、また、1)で述べたAIとCDK4/6阻害薬併用療法のAI単剤に対する優越性を検討したうえで、現時点においてはAI単剤をAIとCDK4/6阻害薬併用療法と同列の推奨とはしがたいと判断した。

推奨決定会議の投票では,「行うことを弱く推奨する」が95%,「行うことを強く推奨する」が5%であった。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者希望などを勘案し,推奨は「アロマターゼ阻害薬単剤の投与を弱く推奨する」とした。なお、アロマターゼ阻害薬単剤を一次内分泌療法で使用した場合の二次内分泌療法については、CQ16を参照のこと。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Estrogen Antagonists”,“Gonadotropin―Releasing Hormone”,“Aromatase Inhibitors”,“Receptor, ErbB―2”,“Cyclin―Dependent Kinases”,“Protein Kinase Inhibitors”,“positive”のキーワードと,“Postmenopause”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,991件がヒットした。

二次スクリーニングにより内容が適切ではないと判断した論文を除外し,フルベストラント500㎎単剤についての検討で,前回ガイドライン作成に使用したランダム化比較試験4編の論文に加え、今回の新たな検索で見つかったランダム化比較試験3論文をもとに、定性的・定量的システマティック・レビューを行った。

CDK4/6阻害薬の治療と関連した論文に限定して、前回ガイドライン作成以降の文献検索を行った。PubMed で“Breast Neoplasms”の同義語,”Neoplasm Metastasis”, “endocrine therapy”の同義語,“Estrogen Antagonists”の同義語,”Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols” , “Aromatase Inhibitors”の同義語, “Cyclin―Dependent Kinases”の同義語,“P13K Inhibitors”の同義語,“AKT Inhibitors”の同義語,“RCT”のキーワードと,“Postmenopause”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年12月から2020年3月28日までとし,708件がヒットした。

二次スクリーニングにより内容が適切ではないと判断した論文を除外し,アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用についての検討で,前回ガイドライン作成に使用したランダム化比較試験4編の論文に加え、今回の新たな検索で見つかったランダム化比較試験3編とPALOMA-2のHR-QOL研究の1編を加えた合計8論文をもとに、定性的・定量的システマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Cardoso F, Costa A, Senkus E, Aapro M, Andre F, Barrios CH, et al. 3rd ESO―ESMO international consensus guidelines for advanced breast cancer(ABC 3).
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3)Finn RS, Crown JP, Lang I, Boer K, Bondarenko IM, Kulyk SO, et al. The cyclin―dependent kinase 4/6 inhibitor palbociclib in combination with letrozole versus letrozole alone as first―line treatment of oestrogen receptor―positive, HER2―negative, advanced breast cancer(PALOMA―1/TRIO―18):a randomised phase 2 study.
Lancet Oncol. 2015;16(1):25―35. [PMID:25524798]

4)Finn RS, Martin M, Rugo HS, Jones S, Im SA, Gelmon K, et al. Palbociclib and letrozole in advanced breast cancer.
N Engl J Med. 2016;375(20):1925―36. [PMID:27959613]

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Breast Cancer Res Treat. 2019 Apr;174(3):719-729. [PMID:30632023]

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N Engl J Med. 2016;375(18):1738―48. [PMID:27717303]

7) Hortobagyi GN, Stemmer SM, Burris HA, Yap YS, Sonke GS, Paluch-Shimon S, et al. Updated results from MONALEESA-2, a phase III trial of first-line ribociclib plus letrozole versus placebo plus letrozole in hormone receptor-positive, HER2-negative advanced breast cancer.
Ann Oncol. 2018 Jul 1;29(7):1541-1547. [PMID:29718092]

8)Goetz MP, Toi M, Campone M, Sohn J, Paluch―Shimon S, Huober J, et al. MONARCH 3:Abemaciclib as initial therapy for advanced breast cancer.
J Clin Oncol. 2017;35(32):3638―46. [PMID:28968163]

9) Johnston S, Martin M, Di Leo A, Im SA, Awada A, Forrester T, et al. MONARCH 3 final PFS: a randomized study of abemaciclib as initial therapy for advanced breast cancer.
NPJ Breast Cancer. 2019 Jan 17;5:5. [PMID:30675515]

10) Rugo HS, Diéras V, Gelmon KA, Finn RS, Slamon DJ, Martin M, et al. Impact of palbociclib plus letrozole on patient-reported health-related quality of life: results from the PALOMA-2 trial.
Ann Oncol. 2018 Apr 1;29(4):888-894.  [PMID:29360932]

11)Ellis MJ, Llombart―Cussac A, Feltl D, Dewar JA, Jasiowka M, Hewson N, et al. Fulvestrant 500 mg versus anastrozole 1 mg for the first―line treatment of advanced breast cancer:overall survival analysis from the phaseⅡ FIRST study.
J Clin Oncol. 2015;33(32):3781―7. [PMID:26371134]

12)Robertson JF, Lindemann JP, Llombart―Cussac A, Rolski J, Feltl D, Dewar J, et al. Fulvestrant 500 mg versus anastrozole 1 mg for the first―line treatment of advanced breast cancer:follow―up analysis from the randomized‘FIRST’study.
Breast Cancer Res Treat. 2012;136(2):503―11. [PMID:23065000]

13)Robertson JFR, Bondarenko IM, Trishkina E, Dvorkin M, Panasci L, Manikhas A, et al. Fulvestrant 500 mg versus anastrozole 1 mg for hormone receptor―positive advanced breast cancer(FALCON):an international, randomised, double―blind, phase 3 trial.
Lancet. 2016;388(10063):2997―3005. [PMID:27908454]

14)Mauri D, Pavlidis N, Polyzos NP, Ioannidis JP. Survival with aromatase inhibitors and inactivators versus standard hormonal therapy in advanced breast cancer:meta―analysis.
J Natl Cancer Inst. 2006;98(18):1285―91. [PMID:16985247]

15)Gibson L, Lawrence D, Dawson C, Bliss J. Aromatase inhibitors for treatment of advanced breast cancer in postmenopausal women.
Cochrane Database Syst Rev. 2009;(4):CD003370. [PMID:19821307]

16)Xu HB, Liu YJ, Li L. Aromatase inhibitor versus tamoxifen in postmenopausal woman with advanced breast cancer:a literature―based meta―analysis.
Clin Breast Cancer. 2011;11(4):246―51. [PMID:21737354]

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