2021年3月31日更新

CQ27.転移・再発高齢者乳癌に対する薬物療法として何が推奨されるか?

2.転移・再発乳癌

推 奨
・ホルモン受容体陽性の転移・再発高齢者乳癌に対して,内分泌療法を行うことを強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:100%(12/12)〕

・転移・再発高齢者乳癌に対して,化学療法を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:92%(11/12)〕

・転移・再発高齢者乳癌に対して,分子標的治療を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:92%(11/12)〕

背景・目的

癌治療において何歳以上を高齢者とするのか明確な定義はないが,世界保健機関(WHO)やわが国の厚生労働省では65歳以上を高齢者と規定している。高齢者の転移・再発乳癌において,薬物療法が無治療と比較して全生存期間(OS)を改善するかを検証した。

解 説

1)内分泌療法

抽出された4件の文献の内訳は,ランダム化比較試験(RCT)2件,RCTのサブグループ解析とメタアナリシスが各1件であった。RCTでは,内分泌療法と無治療の比較はなく,内分泌療法同士または内分泌療法と化学療法との比較であった。これらの文献は研究デザインや介入・対照が異なり,メタアナリシスは困難であったため,定性的システマティック・レビューを行った。最終的に,エビデンスの強さは「とても弱い」と判断した。

1件のRCTはタモキシフェン(TAM)単独とTAM+他の内分泌療法の3群比較1),他はTAM単独と化学療法(CMF)の比較であった2)。OSについては,1件のRCTでのTAM単独のOSは22カ月であった1)。CMFとの比較では,TAM単独がOSで優れる傾向であった2)。PFSについては,TAM単独とTAM+他の内分泌療法の比較において,TAM単独のPFSは9.2カ月であった。レトロゾールとTAMのRCTのサブグループ解析によると,レトロゾールのTTPは,70歳以上が12.2カ月,70歳未満が8.8カ月であった3)。1件のメタアナリシス(フルベストラントvs他のアロマターゼ阻害薬)では,フルベストラントは65歳以上においてもほかのアロマターゼ阻害薬よりTTP/PFSで優れていた4)

毒性については,1件のRCTにおいてTAM単独群ではめまい,ほてり,体重増加等を認めたが発症頻度は2~4%と低く,治療関連死,副作用による中止例はなかった1)

これらの結果より,若年者と同程度の効果が期待できる内分泌療法については,益と害のバランスからは益が上回る可能性が高いと判断した。患者の希望に関しては,毒性が少ない内分泌療法の実施については一致すると考えられる。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「ホルモン受容体陽性の転移・再発高齢者乳癌に対して,内分泌療法を行うことを強く推奨する」とした。

2)化学療法

抽出された12件の文献の内訳は,RCTが2件,第Ⅱ相試験が7件,サブグループ解析が3件であった。RCTでは,化学療法と無治療の比較はなく,化学療法同士の比較であった。抽出された文献は,研究デザインや介入・対照が異なり,メタアナリシスは困難であったため,定性的システマティック・レビューを行った。最終的に,エビデンスの強さは「とても弱い」と判断した。

2件のRCTは,60歳以上の397例を対象としたエピルビシンとゲムシタビンの比較5),他は65歳以上の78例を対象としたドキソルビシン塩酸塩 リポソーム注射剤とカペシタビンの比較であった6)。第Ⅱ相試験(患者数は10~70例)については,パクリタキセル毎週投与,ドセタキセル毎週投与,ビノレルビン,カペシタビンなど毒性が少ないとされる薬剤を採用した研究が多かった7)~15)。OSに関しては,2つのRCTからエピルビシンが19.1カ月,ゲムシタビンが11.8カ月,ドキソルビシン塩酸塩 リポソーム注射剤が13.8カ月,カペシタビンが16.8カ月と若年者と遜色ない結果であった5)6)。PFSは,エピルビシンが6.1カ月,ゲムシタビンが3.4カ月,ドキソルビシン塩酸塩 リポソーム注射剤が5.6カ月,カペシタビンが7.7カ月であった5)6)。第Ⅱ相試験のレジメンはさまざまであるが,PFSは4.7~8.8カ月であった7)~15)

毒性については,高齢者では毒性がより強く認められる傾向であった。エピルビシンとゲムシタビンのRCTでは,70歳以上ではエピルビシン群で粘膜障害,ゲムシタビン群で肺障害の頻度が高かった5)。ドキソルビシン塩酸塩 リポソーム注射剤とカペシタビンのRCTでは,80歳以上で毒性による治療中止割合が高かった6)。第Ⅱ相試験では,UFT+ロイコボリンの検討において,より高齢になると下痢等の毒性が強く認められた11)。70歳以上(28例)を対象としたパクリタキセル毎週投与とドセタキセル毎週投与のランダム化第Ⅱ相試験では,ドセタキセル群で2例の治療関連死を認めた15)。高齢者限定の研究ではないが,エリブリンのpost―hoc解析では,70歳以上では末梢神経障害,好中球減少が強く認められた16)

これらの結果から,OS,PFSについては若年者と同程度の効果が得られる可能性があるが,治療関連死を含む強い毒性が認められる場合があり,高齢者への化学療法実施は害が益を上回る可能性があると判断した。患者の希望に関しては,治療関連死を含む強い毒性リスクのある化学療法の実施については一致しないと考えられる。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「転移・再発高齢者乳癌に対して,化学療法を行うことを弱く推奨する」とした。

3)分子標的治療薬

抽出された6件の文献の内訳は,RCTのサブグループ解析が4件,観察研究のサブグループ解析が1件,後ろ向き研究が1件であった。RCTがなく,研究デザインも異なり,さまざまな種類の分子標的薬を含むこれらの文献では,メタアナリシスは困難であり,定性的システマティック・レビューを行った。最終的に,エビデンスの強さは「とても弱い」と判断した。

(1)抗HER2療法

OSについては,トラスツズマブ併用に関する前向き観察研究(901例中,65歳以上は209例)では,トラスツズマブ併用のOSは31.2カ月,併用なしでは28.5カ月であった17)。PFSもトラスツズマブ併用群が優れていた(11.7カ月vs 4.8カ月)。SEERデータベースを用いた後ろ向きの検討(65歳以上610例)では,トラスツズマブ併用により死亡率が低下した(HR 0.54,95%CI 0.37―0.74,p<0.001)18)。ドセタキセル+ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法に関するRCTのサブグループ解析では,PFSは21.6カ月と若年者と同程度であった19)

毒性については,トラスツズマブの観察研究では75歳以上のトラスツズマブ併用群で心毒性が増加した。ドセタキセル+ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法では,65歳以上で下痢,倦怠感,食欲不振,嘔吐,味覚障害が増加した。

(2)エベロリムス

エベロリムス+エキセメスタン併用とエキセメスタン単独療法を比較した1件のRCTのサブグループ解析では,OSの情報はなかった20)。PFSについては,エベロリムス併用群で良好であった(6.83カ月vs 4.01カ月)。毒性については,70歳以上でGrade 3以上の口内炎,非感染性肺臓炎,高血糖が増加した。治療関連死は70歳未満が3人(1.3%)に対し,70歳以上は4人(7.7%)であった20)

(3)ベバシズマブ

ベバシズマブ+タキサン併用とタキサン単独療法の2件のRCTのサブグループ解析では,OSに関する情報はなかった21)22)。PFSについては,ベバシズマブ併用群で優れる傾向であった(9~10.3カ月,7.7カ月)。毒性については,65歳以上でベバシズマブ特有の高血圧,蛋白尿,血栓症などの毒性が増加した21)22)

これらの結果からは,高齢者に対する分子標的治療薬については,益であるOSに関する情報が乏しい一方,治療関連死を含む強い毒性が認められる場合があり,害が益を上回る可能性があると判断した。患者の希望に関しては,治療関連死を含む強い毒性リスクのある分子標的薬の実施については一致しないと考えられる。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「転移・再発高齢者乳癌に対して,分子標的治療を行うことを弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Aged”,“Neoplasm Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Antineoplastic Agents”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,1,841件がヒットした。ハンドサーチで10件の文献が抽出された。これらの文献には,高齢者(65歳以上)を対象として薬物療法と無治療を比較した検討はなかった。

① 高齢者を対象として内分泌療法の介入があり,益と害を評価できる文献を一次,二次スクリーニングを経て4件抽出した。これらの文献は,研究デザインや介入・対照が異なりメタアナリシスは困難であったため,定性的システマティック・レビューを行った。

② 高齢者を対象として化学療法の介入があり,益と害を評価できる文献を一次,二次スクリーニングを経て12件抽出した。これらの文献は,研究デザインや介入・対照が異なりメタアナリシスは困難であったため,定性的システマティック・レビューを行った。

③ 高齢者を対象として分子標的薬の介入があり,益と害を評価できる文献を一次,二次スクリーニングを経て6件抽出した。これらの文献は,研究デザインや介入・対照が異なりメタアナリシスは困難であったため,定性的システマティック・レビューを行った。

システマティックレビュー

参考文献

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2)Taylor SG 4th, Gelman RS, Falkson G, Cummings FJ. Combination chemotherapy compared to tamoxifen as initial therapy for stage Ⅳ breast cancer in elderly women. Ann Intern Med. 1986;104(4):455―61. [PMID:3513684]

3)Mouridsen H, Chaudri―Ross HA. Efficacy of first―line letrozole versus tamoxifen as a function of age in postmenopausal women with advanced breast cancer. Oncologist. 2004;9(5):497―506. [PMID:15477634]

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16)Muss H, Cortes J, Vahdat LT, Cardoso F, Twelves C, Wanders J, et al. Eribulin monotherapy in patients aged 70 years and older with metastatic breast cancer. Oncologist. 2014;19(4):318―27. [PMID:24682463]

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