2021年3月31日更新

CQ26.高齢者乳癌に対する術後薬物療法として何が勧められるか?

2.転移・再発乳癌

CQ26a 術後内分泌療法の場合

推 奨
・ホルモン受容体陽性の高齢者乳癌に対する術後内分泌療法として,アロマターゼ阻害薬もしくはタモキシフェンの投与を強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:弱,合意率:82%(9/11)〕

背景・目的

癌治療において高齢者は併存症,臓器機能の面から薬物治療の合併症により標準治療が不十分な場合が多い。本CQでは高齢者乳癌に対する術後薬物療法のうち,内分泌療法の有効性・安全性について検討する。

解 説

文献検索において,高齢者に限定したランダム化第Ⅲ相比較試験は存在しなかった。このため,EBCTCGメタアナリシス1)やBIG1-98/ATAC試験2)など大規模臨床試験のサブグループ解析をもとにレビューを行った。なお,本CQ 26aで採用した内分泌療法に対する試験では,主に70歳以上と70歳未満で比較していたため,本CQ 26aでは70歳以上を高齢者と定義した。

EBCTCGメタアナリシスのサブグループ解析(70歳以上)では,無治療に対してタモキシフェンを投与することにより,OSは有意ではない(p=0.09)ものの,HR 0.80と改善する傾向にあり,再発率に関しては有意に改善する結果であった(HR 0.52,95%CI 0.35-0.75)1)。有害事象の一つである,子宮内膜癌の発生率は55~69歳の群では増加する(RR 2.96,SE 0.44,p=0.0001)ものの,70歳以上では両群で差はなかった。

アロマターゼ阻害薬5年投与とタモキシフェン5年投与を比較したメタアナリシスのサブグループ解析(70歳以上)では,アロマターゼ阻害薬群で再発率は低い傾向にあったが,その差は大きいものではない(HR 0.81,95%CI 0.67-0.99)3)。また,OSに関しては,全体でもアロマターゼ阻害薬とタモキシフェンに有意差はなく(8年時累積死亡率18.0% vs 17.8%,p=0.3),高齢者に限定した解析はない。このため有効性の観点から,タモキシフェン,アロマターゼ阻害薬のいずれかに限定することはできない。

有害事象においては,骨折・骨粗鬆症は年齢に関係なくアロマターゼ阻害薬内服により増加する。また,75歳以上では虚血性心疾患がアロマターゼ阻害薬により増加する傾向であった。血栓症は両群で差を認めていない。

本CQの解析対象は,メタアナリシスのサブグループ解析であり,その絶対数も多くないことから,エビデンスの強さは「弱」とした。

高齢者であってもホルモン受容体陽性乳癌に対しては,内分泌療法により再発抑制効果を認めるため,再発リスクに応じて内分泌療法を施行すべきである。しかし,アロマターゼ阻害薬とタモキシフェンで,その有効性に大きな差があるとはいえない。それぞれの薬剤に特有の有害事象があるため,患者の希望にはばらつきがあると考えられた。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「ホルモン受容体陽性の高齢者乳癌に対する術後内分泌療法として,アロマターゼ阻害薬もしくはタモキシフェンの投与を強く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Aged”,“Antineoplastic Agents”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Neoadjuvant Therapy”,“Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols”,“Postoperative Care”,“Preoperative Care”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,877件がヒットした。一次スクリーニングで6編,二次スクリーニングで3編の論文が抽出された

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Davies C, Godwin J, Gray R, Clarke M, Cutter D, Darby S, et al. Early Breast Cancer Trialists’Collaborative Group(EBCTCG). Relevance of breast cancer hormone receptors and other factors to the efficacy of adjuvant tamoxifen:patient―level meta―analysis of randomised trials. Lancet. 2011;378(9793):771―84. [PMID:21802721]

2)Crivellari D, Sun Z, Coates AS, Price KN, Thürlimann B, Mouridsen H, et al. Letrozole compared with tamoxifen for elderly patients with endocrine―responsive early breast cancer:the BIG 1―98 trial. J Clin Oncol. 2008;26(12):1972―9. [PMID:18332471]

3)Dowsett M, Cuzick J, Ingle J, Coates A, Forbes J, Bliss J, et al. Meta―analysis of breast cancer outcomes in adjuvant trials of aromatase inhibitors versus tamoxifen. J Clin Oncol. 2010;28(3):509―18. [PMID:19949017]

CQ26b 術後化学療法の場合

推 奨
・高齢者乳癌に対する術後化学療法として,標準的化学療法を行うことが推奨される。
〔推奨の強さ:1~2,エビデンスの強さ:強,合意率:合意に至らず〕

背景・目的

癌治療において高齢者は併存症,臓器機能の面から薬物治療の合併症により標準治療が不十分な場合が多い。本CQでは高齢者乳癌に対する術後薬物療法のうち,化学療法の有効性・安全性について検討する。

解 説

文献検索において,高齢者に限定した2つの第Ⅲ相比較試験(CALGB 49907試験1)~3),ELDA試験4))が存在した。なお,本CQ 26bで採用した化学療法に関する試験では,主に65歳以上と65歳未満で比較していたため,本CQ 26bでは65歳以上を高齢者と定義した。

いずれの試験もCMFもしくはAC療法をコントロールとしてカペシタビンやドセタキセル毎週投与といった低毒性レジメンを試験治療にしたものであり,この2つの試験をもとにシステマティック・レビューを行った。
OS,DFSともCMF/AC療法が有意に優れていた(OS:HR 1.58,95%CI 1.10-2.27,DFS:HR 1.55,95%CI 1.17-2.05)。

血液毒性に関しては試験治療群(カペシタビン,ドセタキセル毎週投与)で軽微であった。非血液毒性やQOLに関しては,試験治療が異なるため一貫性はなく,それぞれの治療で異なる結果であった。ELDA試験ではカペシタビン群で非血液毒性は軽微な傾向であったが,CALGB 49907試験ではドセタキセル群は標準治療に比し,非血液毒性,QOLとも劣る結果であった。

高齢者に対する術後化学療法に対しては,年齢・臓器機能・依存症などの脆弱性と,再発リスクを勘案して,化学療法の適応を決める必要がある。化学療法のレジメンに関しては,脆弱性や患者希望を考慮した場合でも,経口化学療法薬などの低毒性レジメンは効果が不十分と考えられるため,標準的化学療法レジメンを考慮すべきであると考える。

益と害については,年齢・臓器機能・依存症などの脆弱性が個々の患者によって大きく異なるため,益が害に勝るとはいえない。また,個々の患者の希望にもばらつきは大きいと考えられる。

推奨決定会議では計3回の投票が行われた。1回目は,「行うことを強く推奨する」(以下①)が33%(4/12),「行うことを弱く推奨する」が(以下②)67%(8/12)と意見が分かれたため,再度の討議の後に2回目の投票を行った。しかし,2回目も,①33%(4/12),②67%(8/12)であり,3回目の投票を行ったが,①42%(5/12),②58%(7/12)であり,最終的に推奨の強さを決めることはできなかった。
以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「高齢者乳癌に対する術後化学療法として,標準的化学療法を行うことが推奨される」としたが,「強く」または「弱く」といった推奨の強さを決めることはできなかった。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Aged”,“Antineoplastic Agents”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Neoadjuvant Therapy”,“Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols”,“Postoperative Care”,“Preoperative Care”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,877件がヒットした。一次スクリーニングで18編,二次スクリーニングで4編の論文が抽出された。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Kornblith AB, Lan L, Archer L, Partridge A, Kimmick G, Hudis C, et al. Quality of life of older patients with early―stage breast cancer receiving adjuvant chemotherapy:a companion study to cancer and leukemia group B 49907. J Clin Oncol. 2011;29(8):1022―8. [PMID:21300923]

2)Muss HB, Berry DA, Cirrincione CT, Theodoulou M, Mauer AM, Kornblith AB, et al;CALGB Investigators. Adjuvant chemotherapy in older women with early―stage breast cancer. N Engl J Med. 2009;360(20):2055―65. [PMID:19439741]

3)Ruddy KJ, Pitcher BN, Archer LE, Cohen HJ, Winer EP, Hudis CA, et al. Persistence, adherence, and toxicity with oral CMF in older women with early―stage breast cancer(Adherence Companion Study 60104 for CALGB 49907). Ann Oncol. 2012;23(12):3075―81. [PMID:22767584]

4)Perrone F, Nuzzo F, Di Rella F, Gravina A, Iodice G, Labonia V, et al. Weekly docetaxel versus CMF as adjuvant chemotherapy for older women with early breast cancer:final results of the randomized phase Ⅲ ELDA trial. Ann Oncol. 2015;26(4):675―82. [PMID:25488686]

CQ26c 術後化学療法に抗HER2療法を併用する場合

推 奨
・HER2陽性の高齢者乳癌に対して術後化学療法を行うとき,抗HER2療法を併用することを強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:弱,合意率:91%(10/11)〕

背 景

癌治療において高齢者は併存症,臓器機能の面から薬物治療の合併症により標準治療が不十分な場合が多い。本CQ 26cでは高齢者乳癌に対する術後薬物療法のうち,抗HER2療法の有効性・安全性について検討する。

解 説

文献検索において,高齢者に限定した第Ⅲ相比較試験は存在しないため,術後抗HER2療法における2つのpivotal 試験(NSABP B-31/NCCTG N9831試験1)2)およびHERA試験3))のサブグループ解析を用いた。このためエビデンスの強さは「弱」とした。

また,本CQ 26cで採用した抗HER2療法に関する試験では,主に60歳以上と60歳未満で比較検討されていたため,本CQ 26cでは60歳以上を高齢者と定義した。
NSABP B-31/NCCTG N9831試験1)2)のサブグループ解析(60歳以上)ではトラスツブマブ追加により有意にOSを改善(HR 0.51,95%CI 0.37-0.69)した。また,NSABP B-31/NCCTG N9831試験1)2)および,HERA試験3)における60歳以上のDFSもOSにトラスツズマブ上乗せ効果を認めた(HR 0.64,95%CI 0.51-0.81)。トラスツズマブ追加による副作用として最も懸念される心毒性に関してNSABP B-31/NCCTG N9831試験1)2)で報告されており,60歳以上の患者では50歳未満の患者に比し,心血管イベントが高率(HR 3.2,95%CI 1.55-6.81)であった。

上述した結果から,OS,DFSについてはサブグループ解析ではあるものの,トラスツズマブによる上乗せ効果があるのは確からしいと考えられる。これに対して,トラスツズマブに関する毒性については,心血管イベントは増加する傾向にあるが,その他の副作用は高齢者にどの程度増加するかは不明である。以上より,益が害に勝ると考えた。また,患者の希望に関しても,個々の患者の年齢・臓器機能・依存症などの脆弱性によって変わり得るものであると考えて,ばらつきは大きいと判断した。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「HER2陽性の高齢者乳癌に対して術後化学療法を行うとき,抗HER2療法を併用することを強く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Aged”,“Antineoplastic Agents”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Neoadjuvant Therapy”,“Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols”,“Postoperative Care”,“Preoperative Care”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,877件がヒットした。一次スクリーニングで18編,二次スクリーニングで3編の論文が抽出された。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Perez EA, Romond EH, Suman VJ, Jeong JH, Sledge G, Geyer CE Jr, et al. Trastuzumab plus adjuvant chemotherapy for human epidermal growth factor receptor 2―positive breast cancer:planned joint analysis of overall survival from NSABP B―31 and NCCTG N9831. J Clin Oncol. 2014;32(33):3744―52. [PMID:25332249]

2)Perez EA, Suman VJ, Davidson NE, Sledge GW, Kaufman PA, Hudis CA, et al. Cardiac safety analysis of doxorubicin and cyclophosphamide followed by paclitaxel with or without trastuzumab in the North Central Cancer Treatment Group N9831 adjuvant breast cancer trial. J Clin Oncol. 2008;26(8):1231―8. [PMID:18250349]

3)Piccart―Gebhart MJ, Procter M, Leyland―Jones B, Goldhirsch A, Untch M, Smith I, et al;Herceptin Adjuvant(HERA)Trial Study Team. Trastuzumab after adjuvant chemotherapy in HER2―positive breast cancer. N Engl J Med. 2005;353(16):1659―72. [PMID:16236737]

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