2021年3月31日更新

FQ1.不妊治療における排卵誘発は乳癌発症リスクを増加させるか?

4.乳癌発症リスク―③合併疾患・治療薬

ステートメント
・海外の検討では排卵誘発は乳癌発症リスクを増加させてはいないが,今後,日本人での検討が望まれる。

背 景

現代社会,特に先進国においては女性の晩婚化とともに少産少子化が進んでいる状況を背景として,挙児希望に対する治療件数が加速度的に増加傾向にある。不妊治療においては排卵を促すためのホルモン剤を中心とした排卵誘発剤が用いられるが,排卵誘発はエストロゲンレベルを上昇させるため,乳癌発症リスクの増加が危惧される。

解 説

クロミフェンは選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)であり,視床下部のエストロゲン受容体を阻害し,性腺刺激ホルモンのネガティブ・フィードバックを遮断して,卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を増加させることにより排卵を促す。経口薬であり,排卵誘発に最もよく用いられている薬剤の一つである。クロミフェン投与と乳癌発症リスクに関しては,2010年に発表された,12報告のメタアナリシスでは相対リスク(RR)1.08(95%CI 0.98-1.19)と有意な増加を認めていなかった1)。また,その後に3つのコホート研究2)~4)が検索されるが,すべて有意差はなく,この3報告のメタアナリシスを行った結果でもRR 1.10(95%CI 0.98-1.22)と増加を認めなかった(図1)

ホルモン剤による調節卵巣刺激法全体としては,2015年に20報告のメタアナリシスが発表されているが,RR 1.05(95%CI 0.96-1.14)と有意な増加は認めていなかった(図2)5)。また,本報告では,体外受精—胚移植(IVF—ET)に限った検討でもRR 0.96(95%CI 0.80-1.14)と増加を認めていないが,クロミフェン・ベースの古いプロトコールによる長期施行ではリスク増加が否定できないという結果であった5)

2016年に発表されたアメリカ生殖医学会(ASRM)のガイドラインでは,「不妊治療に用いられる薬剤は乳癌リスク増加に関連していないという適正なエビデンスがある」とされている(二次資料①)。

以上のことから,不妊治療における排卵誘発は乳癌発症リスクを増加させないと考えられる。しかしながら,日本における報告は検索されず,また,排卵誘発のプロトコールは進歩していることから,今後,日本人での検討が望まれる。

検索キーワード

検索はPubMedにて,“Breast Neoplasms”,“Ovulation induction”,“Reproductive Techniques,Assisted”,“Fertilization in Vitro”,“Fertility Agents”,“Infertility”のキーワードを,また,医中誌にて,乳房腫瘍,生殖補助技術,排卵誘発,体外受精,妊娠促進剤,不妊症,“不妊治療,生殖医療,排卵誘発”のキーワードを用いて検索した。検索期間は2012年1月~2017年4月とした。該当文献としてPubMed 179件,医中誌240件の計419件およびその参考文献から論文をリストアップした。原文査読により一次資料として5件,二次資料として1件,合計6件の文献を選択し,引用した。

参考にした二次資料

① Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Fertility drugs and cancer:a guideline. Fertil Steril. 2016;106(7):1617—26. [PMID:27573989]

参考文献

1)Zreik TG, Mazloom A, Chen Y, Vannucci M, Pinnix CC, Fulton S, et al. Fertility drugs and the risk of breast cancer:a meta—analysis and review. Breast Cancer Res Treat. 2010;124(1):13—26. [PMID:20809361]

2)Lerner—Geva L, Rabinovici J, Olmer L, Blumstein T, Mashiach S, Lunenfeld B. Are infertility treatments a potential risk factor for cancer development? Perspective of 30 years of follow—up. Gynecol Endocrinol. 2012;28(10):809—14. [PMID:22475084]

3)Brinton LA, Scoccia B, Moghissi KS, Westhoff CL, Niwa S, Ruggieri D, et al. Long—term relationship of ovulation—stimulating drugs to breast cancer risk. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2014;23(4):584—93. [PMID:25939017]

4)Reigstad MM, Storeng R, Myklebust TA, Oldereid NB, Omland AK, Robsahm TE, et al;Cancer Risk in Women Treated with Fertility Drugs According to Parity Status—A Registry—based Cohort Study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2017;26(6):953—62. [PMID:28108444]

5)Gennari A, Costa M, Puntoni M, Paleari L, De Censi A, Sormani MP, et al. Breast cancer incidence after hormonal treatments for infertility:systematic review and meta—analysis of population—based studies. Breast Cancer Res Treat. 2015;150(2):405—13. [PMID:25744295]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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