2021年3月31日更新

CQ29.ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌に対して、多遺伝子アッセイの結果によって、術後化学療法を省略することは推奨されるか?

1.初期治療

推 奨
ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌で、リンパ節転移陰性であれば、OncotypeDXのRSが25以下の場合には術後化学療法を省略することは強く勧められる。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:強,合意率:100%(19/19)〕

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌で、MammaPrintのゲノム低リスクの場合には術後化学療法を省略することは弱く勧められる。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:95%(18/19)〕

背景・目的

術後化学療法により乳癌の予後は改善してきたが,化学療法が必要でない症例に対して過剰な治療が行われている可能性がある。本CQでは、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌に対して多遺伝子アッセイの結果により化学療法を省略することが勧められるかどうかを検討した。

(1)OncotypeDX

Oncotype DXは,ホルマリン固定標本を用いて16個の腫瘍関連遺伝子と5個の参照遺伝子から構成される21個の遺伝子をRT-PCRで解析し,0-100のRecurrence Score(RS)を算出する。

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌に対するOncotypeDXを用いた本CQに関する前向きランダム化比較試験として、2つの試験が報告されていた。1つはTAILORx試験であり、浸潤径1.1cmから5cmまたは0.6cmから1cmでhistological grade 2または3のリンパ節転移陰性のホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌10,273例を対象にOncotypeDXを施行し、RS≦10:1,629例は内分泌療法のみ、RS≧26:1,737例は化学療法+内分泌療法が実施され、RS11-25:6,907例がランダム化され内分泌療法のみまたは化学療法+内分泌療法に割り付けられた。主要評価はRS11-25で内分泌療法に割り付けられた群におけるInvasive Disease-Free Survival(iDFS)の非劣性を検証することであった。結果は、RS11-25の群において5年iDFSは内分泌療法群では92.8%±0.5%、化学療法+内分泌療法群では93.1%±0.5%でありHazard ratio (HR) 1.08(95%CI 0.94-1.24)で非劣性マージン1.332を下回っており非劣性が証明された。5年OSは内分泌療法群では98.0%±0.2%、化学療法+内分泌療法群では98.1%±0.2%であり HR 0.99 (95%CI 0.79-1.22)で非劣性マージン1.46を下回り、また5年無遠隔再発期間も内分泌療法群が98.0%±0.3%、化学療法+内分泌療法群が98.2%±0.2%でHR 1.10 (95%CI 0.85–1.41)で非劣性マージン1.61を下回りいずれも非劣性が証明された。ランダム化比較されていないが、RS≦10群では内分泌療法のみで5年iDFSは 94.0%±0.6%、5年Overall Survival (OS)は98.0%±0.4%で、RS≧26群では化学療法+内分泌療法で5年iDFSは 87.6%±1.0%、5年OSは95.9%±0.6%であることが示された1)

もう一つの試験はOPTIMA Prelim試験であり、40歳以上の臨床学的高リスク(浸潤径30mm以上またはリンパ節転移Ⅰ-9個)乳癌患者を1:1にランダム化し化学療法を行う群と多遺伝子アッセイを実施し化学療法の実施を判断する群に分けられた。この試験のなかでは、代表症例を用いたコストとQuality-Adjusted Life Year(QALY)の評価が行われ、OncotypeDXを使用することによって、QALYsは0.2(-1.07~1.4)上昇し、コストが削減することが報告された。しかし、ランダム化した全症例の検討ではないこと、医療費体制が異なる英国における試験であることから、本試験の結果の意義は限定的である2)

OncotypeDXに関して、化学療法の効果予測を検討した前向き試験はTAILORx試験一つであるが、本試験のランダム化比較部分は適切にデザインされた大規模試験であり、エビデンスの強さは「強」とした。益と害のバランスについては、RS≦25の場合に化学療法を省略した場合、iDFS、OSや無遠隔再発期間の低下は認めないため害はなく、化学療法を行わない場合には有害事象が軽減される益は明らかである。QOL向上やコストの削減の可能性は、前述の如く慎重な解釈が必要ではあるが英国からの報告で示唆されている。よってOncotypeDXでRS≦25の症例において化学療法を省略することは明らかに益が害を上回ると考えた。OncotypeDXの結果を利用した治療選択についての患者の希望は一致すると考えられた。

以上より,RS25以下であれば化学療法を省略してもiDFS、無遠隔再発やOSの低下を認めないことが示されており、エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌で、リンパ節転移陰性であれば、OncotypeDXのRSが25以下の場合術後化学療法を省略することは強く勧められる。」とした。ただし、TAILORx試験の探索的解析において、50歳以下かつRS16-25の女性は化学療法群で遠隔再発の低下が示されており、化学療法を実施することを検討してもよいと考える。またリンパ節転移陽性に関しては、現在リンパ節転移1~3個でRS≦25を対象としたRxPONDER試験が進行中でありその結果が待たれる。尚、多遺伝子アッセイは現在のところ自費診療のため、約40万円の費用の負担が生じるが、わが国で行われた検討でOncotype DXは費用対効果に優れることが示唆されている3)

(2)Mammaprint

MammaPrintは,細胞周期,増殖,浸潤,転移,血管新生,シグナル伝達に関連する70遺伝子を用いたマイクロアレイ解析を用い,予後不良群と予後良好群とに分類する。

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌に対するMammaprintを用いた本CQに関する前向きランダム化比較試験は、2つの試験が報告されていた。1つはMINDACT試験であり、T1―3、リンパ節転移が3個以内の6,693例(11.6%のホルモン受容体陰性を含む)が登録され、Adjuvant! Onlineに基づく臨床リスクとMammaPrintに基づくゲノムリスクを評価し、それらの相違があった症例がランダム化され、化学療法を実施する群としない群に割り付けられた。本試験の主要評価は、臨床高リスク・ゲノム低リスク群1,497例の化学療法を行わなかった群における、5年distant metastatic free survival(DMFS)の95%信頼区間の下限が92%を上回るかを検証することであった。主要評価の結果は、5年DMFSは,94.7%(95%CI 92.5-96.2)であり、95%信頼区間の下限は92%を上回っていることが証明された。

副次評価では、臨床高リスク・ゲノム低リスク群における化学療法を実施しない群と実施する群のITT集団の検討が行われ、DMFSはそれぞれ94.4%(95%CI 92.5-95.9)と95.9%(95%CI 94.0-97.2)でHR 0.78(95%CI 0.50–1.21 : p=0.27)、DFSはそれぞれ90.1%(95%CI 87.5-92.1)と92.9%(95%CI 90.5-94.7)でHR 0.71(95%CI 0.50–1.01:p=0.06)、OSはそれぞれ97.0%(95%CI 95.4-98.1)と98.4%(95%CI 97.0-99.1)でHR 0.69 (95%CI 0.35–1.35 : p=0.28)であり、いずれも有意な低下は認めなかった。しかし、DFSに関してはPer-protocol populationの感度分析ではHR 0.64 (95%CI 0.43-0.95 : p=0.03)と化学療法を実施することでDFSの改善が認められた。臨床低リスク・ゲノム高リスクの690例もランダム化され化学療法を実施する群としない群に割り付けられたが、DDFS・DFS・OSのいずれにも有意な差を認めず、ゲノム高リスク群における化学療法の効果は証明されていない。

もう一つの試験は前述のOPTIMA Prelim試験で、Mammaprintを使用することで、QALYsは0.18 QALY (-0.87 – 1.1)上昇し、コストが削減することが報告されたが、OncotypeDXと同様に本試験の結果の意義は限定的である6)
Mammaprintに関して、化学療法の効果予測を検討した前向き試験はMINDACT試験一つである。本試験はランダム化比較試験の部分が設定されているが、化学療法を実施する場合としない場合の差を検出するデザインにはなっておらず、エビデンスの強さは「中」とした。益と害のバランスについては、ゲノム低リスク・臨床高リスクの場合、化学療法を実施しない場合は、DFSが低下する可能性があるもののDMFSやOSの低下は認めないため害は小さいと判断した。一方、益としては化学療法を実施しない場合の有害事象の軽減は明らかである。QOL向上やコストの削減の可能性は、前述の如く慎重な解釈が必要ではあるが英国からの報告で示唆されている。よって益が害を上回ると考えた。Mammaprintの結果による治療選択についての患者の希望は一致すると考えられる。

以上より,臨床高リスクであってもゲノム低リスクであれば5年DMFSは,94.7%と良好であるが、化学療法を実施しないことの非劣性が証明されたわけではないため、エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌で、MammaPrintのゲノム低リスクの場合術後化学療法を省略することは弱く勧められる。」とした。ただし、MammaPrintの推奨の根拠となったMINDACT試験はAdjuvant Online!による臨床リスクが判明していることが前提となっており、Adjuvant Online!による臨床リスクが評価できない状況ではMammaPrintを行うかどうかについて、慎重に判断するべきである。また、現在のところMammaPrintは自費診療のため、約40万円の費用の負担が生じる。

(3)その他のアッセイ

PAM505)6)やCurebest95GC Breast7)8)などは,後向き研究でOncotype DXとの比較検討も交えて予後予測因子としての有用性が報告されているが、化学慮法の効果予測を検証する前向き比較試験を認めなかったためシステマティックレビューを行わなかった。

検索キーワード・参考にした二次資料

(1)PubMedで“Breast Neoplasms”,“gene expression profiling”,“gene expression signature”,“gene assay”,“21-gene signature”,“70-gene signature”,“95-gene classifier”,“PAM50”,“chemotherapy”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2020年3月までとし、748件がヒットした。ハンドサーチで本CQの主旨に合致する2編の論文を加え1次スクリーニングにて48編に絞りこみに2次スクリーニングにて10編に絞り込んだ。これらを用いて定性的システマティックレビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビュー

参考文献

1)Sparano JA, Gray RJ, Makower DF, Pritchard KI, Albain KS, et al. Adjuvant Chemotherapy Guided by a 21-Gene Expression Assay in Breast Cancer. N Engl J Med. 2018 ; 379 (2) : 111-121. [PMID: 29860917]

2) Hall PS, Smith A, Hulme C, Vargas-Palacios A, Makris A, et al. ; OPTIMA Trial Management Group. Value of Information Analysis of Multiparameter Tests for Chemotherapy in Early Breast Cancer: The OPTIMA Prelim Trial. Value Health. 2017 ; 20 (10) : 1311-1318. [PMID: 29241890]

3) Yamauchi H, Nakagawa C, Yamashige S, Takei H, Yagata H, Yoshida A, et al. Societal cost―effectiveness analysis of the 21―gene assay in estrogen―receptor―positive, lymph―node―negative early―stage breast cancer in Japan. BMC Health Serv Res. 2014;14:372. [PMID:25190451]

4) Cardoso F, van’t Veer LJ, Bogaerts J, Slaets L, Viale G, Delaloge S, et al;MINDACT Investigators. 70―gene signature as an aid to treatment decisions in early―stage breast cancer. N Engl J Med. 2016;375(8):717―29. [PMID:27557300]

5)Dowsett M, Sestak I, Lopez―Knowles E, Sidhu K, Dunbier AK, Cowens JW, et al. Comparison of PAM50 risk of recurrence score with oncotype DX and IHC4 for predicting risk of distant recurrence after endocrine therapy. J Clin Oncol. 2013;31(22):2783―90. [PMID:23816962]

6)Gnant M, Filipits M, Greil R, Stoeger H, Rudas M, Bago―Horvath Z, et al;Austrian Breast and Colorectal Cancer Study Group. Predicting distant recurrence in receptor―positive breast cancer patients with limited clinicopathological risk:using the PAM50 Risk of Recurrence score in 1478 postmenopausal patients of the ABCSG―8 trial treated with adjuvant endocrine therapy alone. Ann Oncol. 2014;25(2):339―45. [PMID:24347518]

7)Naoi Y, Kishi K, Tanei T, Tsunashima R, Tominaga N, Baba Y, et al. Development of 95―gene classifier as a powerful predictor of recurrences in node―negative and ER―positive breast cancer patients. Breast Cancer Res Treat. 2011;128(3):633―41. [PMID:20803240]

8)Naoi Y, Kishi K, Tsunashima R, Shimazu K, Shimomura A, Maruyama N, et al. Comparison of efficacy of 95―gene and 21―gene classifier(Oncotype DX)for prediction of recurrence in ER―positive and node―negative breast cancer patients. Breast Cancer Res Treat. 2013;140(2):299―306. [PMID:23884597]

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