2021年3月31日更新

FQ2.非浸潤性乳管癌におけるホルモン受容体やHER2の検索は勧められるか?

病理診断

ステートメント
・術後内分泌療法を検討する場合,ホルモン受容体の検索を行ってもよい。
・HER2検索は現時点で勧める根拠がない。

背 景

非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)は,局所治療のみでも良好な予後が期待できるが,浸潤癌として局所再発を起こした場合,乳癌死のリスクが増加する。浸潤癌において治療方針決定のために必要なホルモン受容体,HER2の検索がDCISにも有用か検討した。

解 説

1)ホルモン受容体

DCISの再発に関する研究は数多く存在するが,個々の研究は症例数が少ないものも多く,比較的新しいメタアナリシス(1,556人/3研究)では,エビデンスレベルは低いものの,乳房温存手術後の浸潤癌再発とER陽性〔HR 0.74(95%CI 0.36-1.12)〕,PgR陽性〔HR 0.89(95%CI 0.47-1.31)〕との間には有意な関連はないとしている1)。しかし,LariらのDCIS術後再発とバイオマーカーの関連を検討したシステマティック・レビューによると,対象の一部に乳房全切除術が含まれる研究を除外し,乳房温存手術後に限定した場合,ERは7件の研究のうち5件で局所再発と関連があると結論付けられている2)

DCISの乳房温存手術後にタモキシフェンを追加し,乳癌イベント発生率の低下が認められるかを検証したランダム化比較試験が2件報告されている3)4)。この2つの試験のCochrane Databaseによるシステマティック・レビューでの統合解析では,術後タモキシフェンによる再発抑制効果について,温存乳房内の非浸潤癌の再発は減少させるものの,浸潤癌の再発を減少させる有意な効果は認められなかった。対側乳房においては,非浸潤癌・浸潤癌ともに,その発症を減少させることが示された。しかし,乳癌死の減少は認められなかった。また,NSABP B―24試験の結果から,この効果は原発巣のホルモン受容体陽性の患者に限定される可能性が高い。

閉経後のホルモン受容体陽性DCIS患者に対する,タモキシフェンとアナストロゾールの効果を比較したNSABP B―35では,60歳未満のグループ,対側浸潤癌イベントの抑制においてタモキシフェンに対するアナストロゾールの優位性が認められた5)

2)HER2

前述のメタアナリシス(HER2:1,771人/4研究)では,HER2陽性〔HR 1.25(95%CI 0.70-1.81)〕と浸潤癌再発との間には有意な関連はないとしているが1),システマティック・レビューでは6件のうち4件で局所再発と関連があるとしている2)

DCIS 1,667例におけるHER2過剰発現(560例)と予後との関係を検討した研究では,HER2陽性群で有意に非浸潤癌再発が多かった〔HR 1.59(95%CI 1.06-2.39,p=0.01)〕が,浸潤癌再発では有意な差がなかった〔HR 0.94(95%CI 0.66-1.35,p=0.179)〕。サブグループ解析では,乳房温存手術後に放射線治療を受けた群や乳房全切除術を受けた群においてHER2の発現状況で再発に有意な差を認めず,また,閉経状況でみると,閉経前の患者群では有意な差がなかったことが示されている6)

HER2陽性DCIS患者に対し,術前にトラスツズマブ(8 mg/kg)を単回投与した研究では,臨床的・組織学的に意義のある変化は認めなかった7)。現在,乳房温存手術・放射線治療にトラスツズマブを追加した場合の効果をみるNSABP B―43が進行中である。

 

以上から,ホルモン受容体,HER2ともに温存乳房内の浸潤癌再発を予測する因子とはいえないが,温存乳房内の非浸潤癌再発や対側乳房のイベントを減らす目的で,術後に内分泌療法を考慮する場合,DCISにおいてもホルモン受容体の検索は意義がある(乳癌診療ガイドライン①治療編2018年版,薬物CQ5参照)。ただし,本来,予後良好であること,温存乳房の再発抑制においては放射線治療の代替にはならないことやコストを含めたデメリットについて留意する必要がある。

HER2の検索については,その結果が術後治療の選択に影響を与えることはないと考えられるため,現時点では勧める根拠がない。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Carcinoma,Intraductal,Noninfiltrating”,“Receptor,ErbB―2”,“Receptors,Estrogen”,“Receptors,Progesterone”,“Neoplasm Recurrence,Local”,“Neoplasm Invasiveness”,“Biomarkers,Tumor”のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,387件がヒットした。ハンドサーチによる検索も追加した。

参考文献

1)Zhang X, Dai H, Liu B, Song F, Chen K. Predictors for local invasive recurrence of ductal carcinoma in situ of the breast:a meta―analysis. Eur J Cancer Prev. 2016;25(1):19―28. [PMID:25714649]

2)Lari SA, Kuerer HM. Biological markers in DCIS and risk of breast recurrence:a systematic review. J Cancer. 2011;2:232―61. [PMID:21552384]

3)Allred DC, Anderson SJ, Paik S, Wickerham DL, Nagtegaal ID, Swain SM, et al. Adjuvant tamoxifen reduces subsequent breast cancer in women with estrogen receptor―positive ductal carcinoma in situ:a study based on NSABP protocol B―24. J Clin Oncol. 2012;30(12):1268―73. [PMID:22393101]

4)Cuzick J, Sestak I, Pinder SE, Ellis IO, Forsyth S, Bundred NJ, et al. Effect of tamoxifen and radiotherapy in women with locally excised ductal carcinoma in situ:long―term results from the UK/ANZ DCIS trial. Lancet Oncol. 2011;12(1):21―9. [PMID:21145284]

5)Margolese RG, Cecchini RS, Julian TB, Ganz PA, Costantino JP, Vallow LA, et al. Anastrozole versus tamoxifen in postmenopausal women with ductal carcinoma in situ undergoing lumpectomy plus radiotherapy(NSABP B―35):a randomised, double―blind, phase 3 clinical trial. Lancet. 2016;387(10021):849―56. [PMID:26686957]

6)Curigliano G, Disalvatore D, Esposito A, Pruneri G, Lazzeroni M, Guerrieri―Gonzaga A, et al. Risk of subsequent in situ and invasive breast cancer in human epidermal growth factor receptor 2―positive ductal carcinoma in situ. Ann Oncol. 2015;26(4):682―7. [PMID:25600567]

7)Kuerer HM, Buzdar AU, Mittendorf EA, Esteva FJ, Lucci A, Vence LM, et al. Biologic and immunologic effects of preoperative trastuzumab for ductal carcinoma in situ of the breast. Cancer. 2011;117(1):39―47. [PMID:20740500]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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