2021年3月31日更新

総説6 乳腺診療における乳房画像診断精度の評価

米国では,ブレストセンターの施設認定の際に乳房画像診断精度の評価が実施されており1),National Accreditation Program for Breast Centers(NAPBC)がこの施設認定を行っている2)。施設認定に必須のクリニカルサービスとして「Breast center data collection on quality indicators for subspecialties involved in breast cancer diagnosis and treatment」が掲げられ,Breast Cancer Teamの要員として放射線診断医が必須とされている。さらに各施設の乳房画像診断精度の保証も審査項目となっている。一方,欧州のブレストユニットの施設認定はEuropean Society of Breast Cancer Specialists(Eusoma)が行っており3),ここでも放射線診断医が必須とされ,やはり各施設の乳房画像診断精度の保証も審査項目となっている。このように,乳癌治療の方針を決定する指針となる乳房画像診断精度の評価は,乳腺専門施設の認定項目として必須であり,施設認定を決定する際の重要な要素であると世界的に認知されている。わが国においても乳腺専門施設における乳房画像診断精度の評価は必要不可欠と考えられる。

1)乳房画像診断精度の評価指標(PPV)
米国ではMammography Quality Standards Act and Program(MQSA)4)という連邦法で,乳房画像診断精度の評価指標としてマンモグラフィ診断のPPV3(biopsy performed)と定めて,3年毎の施設のPPV3をFDA(Food and Drug Administration)に提出することを義務付けている。PPVはpositive predictive value(陽性適中度)で,PPV3は診断マンモグラフィで生検を推奨されたBI-RADS5)カテゴリー4,5判定(☞検診・画像診断:総説4参照)の症例で,実際に生検が行われたBI-RADSカテゴリー4,5のマンモグラフィ診断症例数に基づいた陽性適中度である。つまり,BI-RADSでは,カテゴリー4,5のマネジメントとして生検が基本的に必須であるが,患者の拒否などで,必ずしもカテゴリー4,5のケースが100%生検されるわけでもないので,実際に生検が行われたBI-RADSカテゴリー4,5のマンモグラフィ診断症例数に基づいた陽性適中度であるPPV3が重要となる。そのためPPV3は乳腺専門施設や精検施設で行われる乳房画像検査の質を評価するための重要な指標になる。また,PPV3は陽性生検率(positive biopsy rate;PBR)として知られ,PPV3=乳癌数/生検数とも計算される。ただし,BI-RADSではカテゴリー4,5は検診マンモグラムの読影のみで判定されない。精密検査のスポット圧迫撮影などのマンモグラフィ撮影の追加や超音波検査などの診断を総合的に判定し,乳房画像検査最終判定カテゴリー(診断カテゴリー)として決定される。
乳房画像診断精度の評価指標としてPPV2(biopsy recommended)もあるが,これもBI-RADSカテゴリー4,5判定の診断マンモグラフィ数に基づいた陽性的中率である。実際の医療現場では,BI-RADSカテゴリー4,5と診断された症例に対して,さまざまな理由により必ずしも生検が施行されるわけではないため,PPV2では実際の乳房画像診断精度が過小評価されるおそれがある。この理由から,米国ではPPV2ではなくPPV3を乳房画像診断精度の評価指標として採用している。また,診断マンモグラフィのPPV3算出にかかる経費や労力が低く抑えられることもPPV3が採用される理由である。
PPV3の指標値に関しては,検診受診者を対象とした場合33.8%,有症状で受診した患者を対象とした場合39.5%という報告がある6)が,これらの数値はいずれも米国のデータであり,乳癌の罹患数により数値が異なってくるため,単に参考値とするべきである。今後,わが国においても乳房画像診断精度の評価指標として各施設でPPV3を集計することにより,それぞれの乳房画像診断の質が明らかになるとともに,米国をはじめとする諸外国との乳房画像診断精度の国際的比較が可能となるであろう。
(注1)PPV3:乳癌数を,乳房画像検査最終判定カテゴリー(診断カテゴリー)4,5の症例で組織生検(細胞診)が施行された症例数で除した値(PPV3=乳癌数/生検数)。
(注2)乳房画像検査最終判定カテゴリー(診断カテゴリー)4,5:精密検査後の総合診断による判定カテゴリーでBI-RADSのカテゴリー4,5に相当する(☞検診・画像診断:総説4参照)。

2)わが国の現状と展望
わが国では検診,精査施設が別々であることが多く,さらに検診の精度管理システムが存在しないことや放射線診断医の不足などもあり,乳房画像診断の質を欧米と同等に比較することは現状困難である。また,わが国には精査機関において乳房画像診断を施行しても,米国のように総合的に判定し,乳房画像検査最終判定カテゴリー(診断カテゴリー)として記録され,その判定に基づいた推奨マネジメントを施行するという規則や習慣がこれまでにはない。これらの実施には慣れるまで時間を要し,PPV3のデータ収集方法や計算法の周知にも時間が必要となるであろう。
一方で,患者・家族の意向を尊重しつつ,エビデンスに基づいた乳癌の診断と治療を提供するという日本乳癌学会の使命を遂行するためには,乳房画像診断の質を評価できる何らかの指標の設定は必須であると考えられる。これからはわが国においても乳腺専門施設の乳房画像診断の質を目に見える形で評価し,必要な改善策を行っていくことが求められる。PPV3は客観的な乳房画像診断の質を評価するための指標として欧米で広く使われてきたという実績があり,わが国においても乳房画像診断精度の評価指標に適していると考えられる。今後,PPV3を用いて各施設の乳房画像診断の質について検証を行い,その問題点や改善点を明らかにすることが望まれる。

参考文献

1) 川端英孝,大野真司.あらたな研究・診療体制 乳癌診療体制 施設認定の観点からみた欧米の現状とわが国の動向.医のあゆみ.2017; 261(5): 560-4.

2) American College of Surgeons. Quality Programs. National Accreditation Program for Breast Centers.
https://www.facs.org/quality-programs/napbc

3) European Society of Breast Cancer Specialists. Improving Breast Cancer Care in Europe.
https://www.eusoma.org/

4) FDA. U.S. Department of Health and Human Services. Radiation-Emitting Products. Mammography Quality Standards Act and Program.
https://www.fda.gov/radiation-emitting-products/mammography-quality-standards-act-and-program

5) ACR BI-RADS® 翻訳中央委員会.ACR BI-RADS® アトラス.日本放射線科専門医会・医会,2016.

6) Feig SA. Auditing and benchmarks in screening and diagnostic mammography. Radiol Clin North Am. 2007; 45(5): 791-800. [PMID:17888769]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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