2021年3月31日更新

CQ28 転移・再発トリプルネガティブ乳癌に対してプラチナ製剤は勧められるか?

2.転移・再発乳癌

推 奨
プラチナ製剤を使用することを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:弱、合意率 79%[15/19]〕

背景・目的

転移・再発トリプルネガティブ乳癌は予後不良の病態であるが、その一方で抗癌薬に対する感受性が高いとされている。DNA傷害性抗癌薬がトリプルネガティブ乳癌に有効で、プラチナ製剤の効果も報告されており1)、コクランレビューでもプラチナ製剤の有効性が示唆された2)。この項では転移・再発トリプルネガティブ乳癌に対するプラチナ製剤を含んだ治療と含まない治療を比較した臨床試験を検索して検討した。

解 説

一次治療としてドセタキセル+シスプラチンとドセタキセル+カペシタビンを比較した単施設でのランダム化第II相試験(N=53)では、主要評価項目であるORRがドセタキセル+シスプラチンで有意に高く、PFSやOSも有意に勝っていた3)

一次治療でのシスプラチン+ゲムシタビンの、パクリタキセル+ゲムシタビンに対するPFSの非劣性と優越性を検証したランダム化第III相試験(CBCSG006試験)が240例を対象に行われた4)。PFSでのシスプラチン+ゲムシタビンの優越性が示され、ORRも有意差を認めたが、OSに差はなかった。

トリプルネガティブ乳癌ないしgermline BRCA1/2遺伝子変異陽性乳癌を対象に、ドセタキセルに対するカルボプラチンのORRの優越性を検証するTNT試験が376例を対象に行われた5)。43例(11%)のBRCA1/2遺伝子変異陽性例を含めたIntent to treat解析では、主要評価項目であるORRに差がなく、PFSやOSにも差を認めなかった。

一次治療としてパクリタキセル(アルブミン懸濁型)(nab-P)、カルボプラチン(C)、ゲムシタビン(G)の3剤のうち2剤どうしの併用療法を比較したランダム化第II相試験(tnAcity試験、N=191)では、主要評価項目であるPFSがnab-P/C併用でnab-P/G併用よりも有意に延長した6)。OSもnab-P/Cで長い傾向にあり、ORRもnab-P/C で高かった。

4つの試験のうちTNT試験では他試験と異なる統計解析手法が採用されているため、OSとPFSのメタアナリシスは残りの3試験で、ORRと毒性に関しては4試験すべてで行った(図1)。その結果、OSとORRがボーダーラインであるがプラチナ製剤の有効性が示され、PFSはプラチナ製剤で有意に改善した。TNT試験ではカルボプラチンとドセタキセルでOSに差がないとの結果であったことから、予後不良な転移・再発トリプルネガティブ乳癌治療で最も重要なOSに関する優越性のエビデンスは弱いが、他抗癌薬に劣ることを示す報告はない。

有害事象のメタアナリシスでは他抗癌薬と比較してプラチナ製剤でGrade 3以上の毒性が有意に多かったものはなく、益が害に優ると考えられた。

他サブタイプと比較して治療選択肢の少ないトリプルネガティブ乳癌に対する治療薬が多いことは、患者の希望に沿うと考えられる。またプラチナ製剤は医療コスト的に他抗癌薬と比較して劣ることはない。

わが国で行われたHER2陰性乳癌を対象とした術前化学療法のランダム化第II相試験において、CEF療法に先行するパクリタキセル毎週投与にカルボプラチン(AUC 5)を4サイクル併用することにより、全体のpCR率が有意に上昇し、とくにトリプルネガティブ乳癌で高いpCR率を示したことからも、トリプルネガティブ乳癌でのプラチナ薬の有効性が示唆されている7)

以上により、エビデンスの強さ、益と害のバランスなどを勘案し、転移・再発トリプルネガティブ乳癌の治療選択肢としてプラチナ製剤を弱く推奨する。ただしシスプラチンがわが国で乳癌に対して保険適用となっていないこと、カルボプラチンはHER2陽性乳癌のみの適用となっていることに注意が必要である。

今回検討した臨床試験で用いられた併用化学療法レジメンは、いずれもわが国で一般的に使用されているものではない。表1に海外での乳癌の臨床試験とわが国で他癌腫の治療で使用されているカルボプラチンを含む併用化学療法の投与量を示す(治療サイクルはいずれも3週間)。

表1

癌腫 カルボプラチン 併用薬 コメント(わが国の臨床試験での投与量など)
乳癌 AUC 2, Day 1・8 GEM, 1000mg/m2, Day 1・8 海外でのiniparibの臨床試験
非小細胞肺癌 AUC 5, Day 1 GEM, 1000mg/m2, Day 1・8
AUC 6, Day 1 PAC, 200mg/m2, Day 1
卵巣癌 AUC 5〜7.5, Day 1 PAC, 180mg/m2, Day 1 JGOG 3016試験ではカルボプラチンのAUC 6
AUC 6, Day 1 PAC, 80mg/m2, Day 1・8・15 Dose dense TC(JGOG 3016試験)
AUC 5, Day 1 DOC, 70〜75mg/m2, Day 1 WJGOG 021/061試験ではドセタキセル 70mg/m2

GEM:ゲムシタビン、PAC:パクリタキセル、DOC:ドセタキセル

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“breast neoplasms”,“drug therapy”,“antineoplastic agents”,“neoplasm metastasis”,“metastasis”, “advanced”,“recurrent”,“neoplasm recurrence”,“local”,“carboplatin”,“platinum”,“triple negative”,“BRCA”のキーワードで検索した。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Isakoff SJ, Mayer EL, He L, Traina TA, Carey LA, Krag KJ, et al. TBCRC009: A multicenter phase II clinical trial of platinum monotherapy with biomarker assessment in metastatic triple-negative breast cancer. J Clin Oncol. 2015;33(17):1902-9. [PMID: 25847936]

2)Egger SJ, Willson ML, Morgan J, Walker HS, Carrick S, Ghersi D, et al. Platinum-containing regimens for metastatic breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2017;6:CD003374. [PMID: 28643430]

3)Fan Y, Xu BH, Yuan P, Ma F, Wang JY, Ding XY, et al. Docetaxel-cisplatin might be superior to docetaxel-capecitabine in the first-line treatment of metastatic triple-negative breast cancer. Ann Oncol. 2013;24(5):1219-25. [PMID:23223332]

4)Hu XC, Zhang J, Xu BH, Cai L, Ragaz J, Wang ZH, et al. Cisplatin plus gemcitabine versus paclitaxel plus gemcitabine as first-line therapy for metastatic triple-negative breast cancer (CBCSG006): a randomised, open-label, multicentre, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2015;16(4):436-46. [PMID: 25795409]

5)Tutt A, Tovey H, Cheang MCU, Kernaghan S, Kilburn L, Gazinska P, et al. Carboplatin in BRCA1/2-mutated and triple-negative breast cancer BRCAness subgroups: the TNT Trial. Nat Med. 2018;24(5):628-37. [PMID: 29713086]

6)Yardley DA, Coleman R, Conte P, Cortes J, Brufsky A, Shtivelband M, et al; tenacity investigators. nab-Paclitaxel plus carboplatin or gemcitabine versus gemcitabine plus carboplatin as first-line treatment of patients with triple-negative metastatic breast cancer: results from the tnAcity trial. Ann Oncol. 2018;29(8):1763-70. [PMID: 29878040]

7)Ando M, Yamauchi H, Aogi K, Shimizu S, Iwata H, Masuda N, et al. Randomized phase II study of weekly paclitaxel with and without carboplatin followed by cyclophosphamide/epirubicin/5-fluorouracil as neoadjuvant chemotherapy for stage II/IIIA breast cancer without HER2 overexpression. Breast Cancer Res Treat. 2014;145(2):401-9. [PMID: 24728578]

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