2021年3月31日更新

FQ4.マンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変にマンモグラフィガイド下生検は必須か?

2.乳癌の精密検査(治療前)

ステートメント
・マンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変に対して,マンモグラフィガイド下生検を必須とする根拠はない。

背 景

検診では利益と不利益のバランスを考慮すべきである。マンモグラフィ検診の最大の利益は死亡率低減効果であり,不利益としては偽陽性,偽陰性,過剰診断,被曝,検査による疼痛,精神的影響等があるが,近年,過剰診断が問題視されている。過剰診断とは,寿命に影響を及ぼさない癌を発見・診断することで,欧米のデータからは検診発見乳癌の10~30%程度に相当するともいわれている1)~4)。早期乳癌の中でも低悪性度の非浸潤癌は過剰診断につながる可能性が高く,その取り扱いが議論の的となっている。

マンモグラフィ検診で検出される石灰化のうち,淡い集簇石灰化病変(amorphous grouped calcifications)はマンモグラフィガイドライン第3版(J-RADS)5)ではカテゴリー3「良性,しかし悪性を否定できず」と定義されている。実際,カテゴリー3の石灰化は良性病変や悪性度の低い乳癌の割合が多いことから,amorphous grouped calcificationsに対する現在の推奨カテゴリーは偽陽性や過剰診断を招いている可能性があるとする議論がある。

解 説

1)淡い集簇石灰化のカテゴリー分類における日米の違いと陽性適中度(PPV)

米国のBI-RADSアトラス第5版6)では,a group of amorphous calcificationsはカテゴリー4〔異常疑い(2~95%の悪性の可能性)〕の中の4b〔中間の疑い(10~50%の悪性の可能性)〕とされている。分類に際し,amorphous calcificationsのPPVは約20%と記載されている7)が,この値は石灰化の形態のみを評価して出された値であり,分布は考慮されていない点で日本のJ-RADS分類とは異なり,特異性が低い。追試で行われた石灰化の形態と分布を考慮した研究8)9)でamorphous grouped calcificationsのPPVをKimら8)は7.6%(7/92),Torres―Tabaneraら9)は9.8%(14/143)と報告しており,BI-RADSカテゴリー4a(PPV 2~10%)相当と指摘がある。日本乳がん検診精度管理中央機構のマンモグラフィ講習会ではカテゴリー3のPPVは5~10%が望ましいとされ,石灰化の形態と分布を考慮した上記報告8)9)の値と乖離がない。

2)マネジメント

BI-RADSカテゴリー4のマネジメントは生検が推奨されている。J-RADSカテゴリー3は圧迫スポットや拡大撮影や超音波などの追加検査が必要とされている。J-RADSカテゴリー3では経過観察するべきか精密検査をするべきかの明確なマネジメントの指針が存在しない点が過剰な精密検査,治療を招く要因となっている。

3)マンモグラフィ(MMG)ガイド下生検と造影MRI

近年,超音波で異常を指摘できないJ―RADSカテゴリー3以上の微細石灰化病変を確実に採取して診断するためにMMGガイド下生検が施行されている。MMGガイド下生検は侵襲を伴う検査であるため,適応を正しく制定し,利益と不利益のバランスを考慮しなければならない。

不利益である不必要な侵襲を回避するために,MMGガイド下生検を行うか否かの適応決定に造影MRIを利用する方法が研究されている。これまで報告された20の研究のメタアナリシス10)ではMRI造影所見は高感度に悪性の診断に関連しており,BI-RADSカテゴリー別にみたMRIの感度,特異度はBI-RADSカテゴリー3の石灰化病変に対して感度57%,特異32%,BI-RADSカテゴリー4の石灰化病変に対して感度92%,特異度82%,BI-RADSカテゴリー5の石灰化病変に対して感度95%,特異度66%であった。特にBI-RADSカテゴリー4の石灰化では,造影MRIを加えることによる診断能向上が著しく,悪性の除外に有用としている。造影MRIは現時点で生検の代用にはなり得ないが,BI-RADSカテゴリー4の石灰化病変に対する有用性は示されており,amorphous grouped calcifications(BI-RADSカテゴリー4/J-RADSカテゴリー3)に対するMMGガイド下生検の適応決定の一助となり,不必要な生検回避につながる可能性がある。

4)対 策

過剰診断に対しては,過剰な精密検査・過剰治療の回避のために経過観察群の設定による対処も考えられている。しかし一方で,経過観察中の当事者・家族の精神的不安や画像による経過観察に伴う検査費用の累積も医療経済的に無視できない。不利益としての過剰診断を含めて,情報提供体制の整備が必要である4)

過剰診断が問題視されているが,最大の不利益はその後の過剰治療にある。これに対して英国では低悪性度非浸潤性乳癌に対する手術の必要性を検討する前向きランダム化比較試験(The low risk DCIS trial;LORIS)11),日本ではエストロゲン受容体陽性・低リスク非浸潤性乳管癌に対する非切除+内分泌療法の有用性に関する単群検証的試験(JCOG1505,LORETTA trial)12)が進行中で,結果が待たれるところである。

現時点では,マンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変に対して,マンモグラフィガイド下生検を必須とする根拠はない。しかしながら淡い集簇石灰化病変の中には頻度は低いが悪性病変が含まれ,その中には低悪性度の乳癌の割合が多いという情報を提供したうえで,年齢や家族歴等の背景を考慮して,生検を行うか否かは患者と医療者がよく相談して,患者自身の価値観で判断することが重要である。生検を施行しない場合は綿密な画像による経過観察が必須である。

今後は過剰診断となり得る乳癌の臨床病理学的研究,日本における過剰診断のデータ蓄積が求められており,マンモグラフィ検診カテゴリー分類とマネジメントの基準改定も必要となる可能性がある。

検索キーワード

PubMedで“Biopsy,Needle”,“Breast Neoplasms”,“Calcinosis”,“Mammography”,“Risk”,“calcification”のキーワードで検索した。検索期間は2014年1月から2016年11月までとし,77件がヒットした。ハンドサーチは2017年8月末までとした。

参考文献

1)Bleyer A, Welch HG. Effect of three decades of screening mammography on breast―cancer incidence. N Engl J Med. 2012;367(21):1998―2005. [PMID:23171096]

2)Zackrisson S, Andersson I, Janzon L, Manjer J, Garne JP. Rate of over―diagnosis of breast cancer 15 years after end of Malmö mammographic screening trial:follow―up study. BMJ. 2006;332(7543):689―92. [PMID:16517548]

3)Miller AB, Wall C, Baines CJ, Sun P, To T, Narod SA. Twenty five year follow―up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study:randomised screening trial. BMJ. 2014;348:g366. [PMID:24519768]

4)Independent UK Panel on Breast Cancer Screening. The benefits and harms of breast cancer screening:an independent review. Lancet. 2012;380(9855):1778―86. [PMID: 23117178]

5)日本医学放射線学会/日本放射線技術学会編.マンモグラフィガイドライン.第3版.増補版,東京,医学書院,2014.

6)Breast imaging reporting and data system(BI―RADS)atlas. 5th ed. Reston, VA, American College of Radiology, 2013. pp153―4.

7)Breast imaging reporting and data system(BI―RADS)atlas. 5th ed. Reston, VA, American College of Radiology, 2013. p62.

8)Kim SY, Kim HY, Kim EK, Kim MJ, Moon HJ, Yoon JH. Evaluation of malignancy risk stratification of microcalcifications detected on mammography:a study based on the 5th edition of BI―RADS. Ann Surg Oncol. 2015;22(9):2895―901. [PMID:25608770]

9)Torres―Tabanera M, Cardenas―Rebollo JM, Villar―Castano P, Sanchez―Gomez SM, Cobo―Soler J, Montoro―Martos EE, et al. Analysis of the positive predictive value of the subcategories of BI―RADS® 4 lesions:preliminary results in 880 lesions. Radiologia. 2012;54(6):520―31. [PMID:21924441]

10)Bennani―Baiti B, Baltzer PA. MR imaging for diagnosis of malignancy in mammographic microcalcifications:a systematic review and meta―analysis. radiology. 2017;283(3):692―701. [PMID:27788035]

11)Francis A, Thomas J, Fallowfield L, Wallis M, Bartlett JM, Brookes C, et al. Addressing overtreatment of screen detected DCIS;the LORIS trial. Eur J Cancer. 2015;51(16):2296―303. [PMID:26296293]

12)Kanbayashi C, Iwata H. Current approach and future perspective for ductal carcinoma in situ of the breast. Jpn J Clin Oncol. 2017;47(8):671―7. [PMID:28486668]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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