2021年3月31日更新

FQ18 妊娠期乳癌に対して薬物療法は勧められるか?

3.その他(特殊病態、副作用対策など)

ステートメント
・妊娠前期(0〜14週未満)の化学療法は行うべきではない。
・妊娠中期(14〜28週未満)・後期(28週以降)での化学療法は、長期の安全性は確立されていないが、必要と判断される場合は考慮してもよい。
・妊娠中の内分泌療法、抗HER2療法は行うべきではない。

背 景

妊娠期乳癌は比較的まれであるが、出産年齢の高齢化と乳癌罹患率の上昇で増加傾向にある。妊娠期乳癌は母体と胎児、両者の健康を考慮に入れて治療を行わなければならず、多職種が関わったマネジメントが必要である。妊娠期乳癌に対する薬物療法の前向き試験はほとんど存在せず、本項では限られた報告から妊娠期乳癌に対する薬物療法の安全性について検討した。

解 説

1)化学療法
化学療法を器官形成期にあたる妊娠前期(first trimester, 0-14週未満)に行うことで先天性奇形、染色体異常、死産、流産のリスクが高まり、胎児奇形は出生児の15-20%に認められると報告されている1)。よってこの時期に化学療法を行うべきではない。妊娠中期(second trimester, 14-28週未満)および妊娠後期(third trimester, 28週以降)に化学療法を行っても、先天性奇形の頻度は1-4%と一般的な妊娠・出産の頻度と変わらないことが複数の後方視的研究で報告されている2,3)。しかし,妊娠中期以降の化学療法により,胎児発育不良や早産の割合が増加し,出産後の器官未成熟による合併症の増加も報告されている4)。妊娠中期以降で化学療法を行った81例の前向き観察研究では、先天異常は3%と一般コホートと変わりない結果であった5)。447例の前向き観察研究では、化学療法施行例で低出生体重児、産科的合併症が多い傾向にあったが、臨床的に有意な差は認められなかった6)。以上から、長期の安全性は確立しておらず、化学療法は娩出後に行うのが原則であるが、妊娠中期・後期で化学療法が必要と判断される際には考慮してもよい。

妊娠期乳癌で最も安全性と有効性が示されているレジメンは、AC療法(ドキソルビシン+シクロフォスファミド)とFAC療法(フルオロウラシル+ドキソルビシン+シクロフォスファミド)である2,4-6)。しかし、アンスラサイクリン系薬剤の暴露による胎児の心疾患や不妊への影響に関する長期のデータは不足している。Dose-dense AC療法やエピルビシンに関する安全性のデータはより少ない。

タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル)投与に関するレビューは2件あり、いずれも妊婦・胎児への安全性や忍容性は保たれているとの報告であった7,8)。ただし、あくまで少数例で報告された後方視的研究のレビューであり出版バイアスの関与は否定できない。ドキソルビシンと比較して妊娠期乳癌での使用例が少ないため、現時点ではアンスラサイクリン投与ができない場合(既に限界量まで投与、不応例など)を除いてタキサンの使用は勧められない。

ビノレルビン、シスプラチン、カルボプラチン、メトトレキサートなど他の化学療法薬の投与は勧められない。

2)内分泌療法
妊娠期乳癌に対する内分泌療法は、妊娠前期では催奇形性、妊娠中期以降では胎児の機能的発育への影響から使用は避けるべきである。また、エストロゲンは子宮筋を弛緩させ妊娠を維持する方向に作用しており、内分泌療法によるエストロゲン作用の抑制は妊娠継続に影響を与える可能性がある。妊娠期乳癌に対してタモキシフェンを使用した報告のレビューでは、出生した138人中16人(11.6%)で先天性奇形を認めた9)。また、AstraZeneca Safety Databaseの139胎児の検討では、妊娠中絶(23胎児)や自然流産(12胎児)や死産(3胎児)があり、57胎児の経過は不明であった。最終的に44胎児が出生し、このうち11人(25%)に先天性奇形を認めた10)。一般的な妊娠、出産に比べ先天性奇形や流産の頻度が高く、妊娠期のタモキシフェンの使用は勧められない。LH-RHアゴニストやアロマターゼ阻害薬は安全性に関するデータは不足しており、その使用は勧められない。

3)抗HER2療法
妊娠期乳癌に対する抗HER2療法の安全性は確立されていない。妊娠期乳癌にトラスツズマブを使用した17件の症例報告(18妊婦、19新生児)をまとめたレビューでは、妊娠中に最も多く認められた異常は羊水過少症で、妊娠中期以降に投与を受けた73.3%(11/15例)で認められた。妊娠前期の投与では認められなかった(0/3例)。出生時に異常を認めなかった新生児10人はその後の発育も健常であったが(観察期間中央値9ヶ月)、出生時に異常を認めた新生児9人中4人がその後死亡した11)。HERA試験登録症例でトラスツズマブ投与中もしくは投与終了から3ヶ月以内に妊娠した16例の報告では、5例で妊娠継続・出産となり、妊娠出産の合併症や先天性奇形は認められなかった12)。NeoALTTO/ALLTO試験登録症例で試験薬投与中に妊娠した12例の報告では、5例で妊娠継続・出産となり、妊娠出産の合併症や先天性奇形は認められなかった13)。これらの症例は妊娠前期に抗HER2療法(トラスツズマブおよびラパチニブ)は終了していた。T-DM1、ペルツズマブに関しては報告がない。

妊娠前期に抗HER2療法を受け出産した報告は散見されるが、いずれの報告も少数例であり長期の安全性のデータは無く、妊娠期乳癌に対して抗HER2療法は勧められない。現在進行している抗HER2療法を行った妊娠期乳癌の前向き観察研究であるMotHER試験(NCT00833963)の結果は今後注視する必要がある。

4)骨吸収抑制薬(ビスホスホネート、デノスマブ)
妊娠期乳癌に対するビスホスホネートやデノスマブ投与の安全性データは不足しており、投与は勧められない。

5)支持療法
化学療法を施行する際に制吐剤として5-HT3受容体拮抗型制吐剤やデキザメタゾンを併用しても、胎児への重篤な影響は報告されていない14,15)。NK1受容体阻害薬については安全性を検討するだけのデータは十分ではない15)。また、G-CSF製剤は少ないデータの中であるが胎児への影響は大きくないとされている14,15)。いずれも妊娠中期以降の投与に大きな問題はないとされているが、長期の安全性は確認されていないため、使用する際には適応を慎重に判断する必要がある。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“breast cancer”,“pregnancy”,“safety”,“treatment”,“chemotherapy”,“endocrine therapy”,“trastuzumab”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2018年12月までとし,423件がヒットした。また,適宜ハンドサーチを追加した。また,二次資料として,日本がん・生殖医療学会編「乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療の手引き 2017年版」(金原出版)を用いた。

参考文献

1)    Ebert U, Löffler H, Kirch W. Cytotoxic therapy and pregnancy. Pharmacol Ther. 1997;74(2):207-20.[PMID: 9336023]

2)    Hahn KM, Johnson PH, Gordon N, Kuerer H, Middleton L, Ramirez M, et al. Treatment of pregnant breast cancer patients and outcomes of children exposed to chemotherapy in utero. Cancer. 2006; 107(6): 1219-26. [PMID: 16894524]

3)    Ring AE, Smith IE, Jones A, Shannon C, Galani E, Ellis PA. Chemotherapy for breast cancer during pregnancy: an 18-year experience from five London teaching hospitals. J Clin Oncol. 2005;23(18):4192-7. [PMID: 15961766]

4)    Cardonick E, Iacobucci A. Use of chemotherapy during human pregnancy. Lancet Oncol. 2004; 5(5): 283-91. [PMID: 15120665]

5)    Murthy RK, Theriault RL, Barnett CM, Hodge S, Ramirez MM, Milbourne A, et al. Outcomes of children exposed in utero to chemotherapy for breast cancer. Breast Cancer Res. 2014; 16(6): 500. [PMID: 25547133]

6)    Loibl S, Han SN, von Minckwitz G, Bontenbal M, Ring A, Giermek J, et al. Treatment of breast cancer during pregnancy: an observational study. Lancet Oncol. 2012 ; 13(9): 887-96. [PMID: 22902483]

7)    Mir O, Berveiller P, Goffinet F, Treluyer JM, Serreau R, Goldwasser F, et al. Taxanes for breast cancer during pregnancy: a systematic review. Ann Oncol. 2010;21(2):425-6. [PMID: 19887464]

8)    Zagouri F, Sergentanis TN, Chrysikos D, Dimitrakakis C, Tsigginou A, Zografos CG, et al. Taxanes for breast cancer during pregnancy: a systematic review. Clin Breast Cancer. 2013;13(1):16-23. [PMID: 23122538]

9)    Barthelmes L, Gateley CA. Tamoxifen and pregnancy. Breast. 2004;13(6):446-51. [PMID: 15563850]

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11)  Zagouri F, Sergentanis TN, Chrysikos D, Papadimitriou CA, Dimopoulos MA, Bartsch R. Trastuzumab administration during pregnancy: a systematic review and meta-analysis. Breast Cancer Res Treat. 2013;137(2):349-57. [PMID: 23242615]

12)  Azim HA Jr, Metzger-Filho O, de Azambuja E, Loibl S, Focant F, Gresko E, et al. Pregnancy occurring during or following adjuvant trastuzumab in patients enrolled in the HERA trial (BIG 01-01). Breast Cancer Res Treat. 2012;133(1):387-91. [PMID: 22367645]

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14)  Amant F, Loibl S, Neven P, Van Calsteren K. Breast cancer in pregnancy. Lancet. 2012 ;379(9815):570-9. [PMID: 22325662]

15)  Shachar SS, Gallagher K, McGuire K, Zagar TM, Faso A, Muss HB, et al. Multidisciplinary management of breast cancer during pregnancy. Oncologist. 2017 ;22(3):324-34. [PMID:28232597]

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