2021年3月31日更新

CQ3.照射法として加速乳房部分照射(APBI)は勧められるか?

1.乳房手術後放射線療法

推 奨
・長期のエビデンスがまだ十分ではなく,行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:92%(11/12)〕

背景・目的

乳房温存手術後の放射線療法として,経験的に全乳房に対して総線量45~50.4 Gy/1回線量1.8~2.0 Gy/4.5~5.5週が用いられてきたが,欧米を中心に一部の症例に対し,放射線療法の回数を少なくし,全乳房照射の替わりに腫瘍床のみに部分乳房照射を行う加速乳房部分照射(APBI)の試みもなされている。APBIの適応,有用性について検討した。

解 説

乳房温存療法における放射線療法の有用性を示した臨床試験の結果より,乳房温存療法後の温存乳房内再発の約70%はもとの腫瘍床の周辺から生じること,およびそれ以外の部位からの再発は対側乳癌の発生と時期および頻度が類似することが明らかになり1)2),全乳房ではなく腫瘍床のみを対象とした放射線療法の可能性が検討された。照射野を縮小することにより,大線量少分割で短期間に照射を終えることも可能になり,APBIとして欧米で臨床試験が開始された。具体的な方法としては小線源治療,術中照射,外照射(三次元外照射,強度変調放射線治療)などが用いられている(放射線:総説1参照)。

期待されるAPBIの利点としては,照射期間の短縮による患者および医療関係者の負担軽減,照射野縮小による有害事象の低減,乳房温存療法選択率の上昇,などがある。一方で,考え得る欠点としては,局所再発率の上昇,晩期有害事象の増加,より侵襲的な手技が用いられる可能性,すべての施設でその手技の専門家ならびに設備が整っているわけではないこと,などが考えられる3)

ランダム化比較試験を含む初期の報告では,対象に大きい腫瘍(4 cmより大)や切除断端陽性例,非浸潤性乳管癌(DCIS)や広範な乳管内進展(EIC)陽性乳癌を含んでいたため,一般的な全乳房照射の成績に比べて明らかに不良であったが4)5),適格条件を厳しくした研究では用いる方法にかかわらず概ね良好な温存乳房内制御と整容性が得られている。

その後いくつかのランダム化比較試験が施行され,APBIの治療成績と有害事象が報告されている3)6)。2016年に発表されたコクランのシステマティック・レビューでは,全生存,乳癌死,遠隔再発の割合は有意差を認めなかったが,局所再発率はややAPBIが不良であるとしている。しかしながら,局所再発の多い傾向があった術中照射の報告が症例数の7割を占めており,小線源治療,外照射のみで解析すると有意差を認めなかったため,局所再発率の解釈には注意が必要である。また,コクランのシステマティック・レビューに新たな論文を加えてメタアナリシスを行った結果,整容性においてはリスク比0.99(95%CI 0.55-1.78,p=0.97),晩期皮膚障害においてはリスク比0.60(95%CI 0.34-1.07,p=0.08)であり,統計学的に有意差を認めなかった。2019年には4216名を対象とした全乳房照射と小線源治療もしくは三次元外照射を使用したAPBIのランダム化比較試験の長期成績が発表された。10年患側乳房内再発率は全乳房照射群で3.9%(95% CI 3.1–5.0)、APBI群で4.6%(95% CI 3·7–5·7)であり、同等であるとはされなかったが、その絶対差は0.7%と小さかった7)。同じく2019年に発表された2135名を対象とした全乳房照射と三次元外照射を使用したAPBIのランダム化比較試験の治療成績も発表され、8年患側乳房内再発率は全乳房照射群で2.8%(95% CI 1·8–3·9)、APBI群で3.0%(95% CI 1·9–4·0)と、APBIの非劣性が示された。しかしながら、この試験で、整容性に関してはAPBI群で不良となる比率が高かった 8)各治療法によって結果はさまざまであり,いずれも観察期間が十分とはいえず,現段階ではAPBIの適応の是非を結論付けることはできない3)6)

米国放射線腫瘍学会(ASTRO)のコンセンサスで,2009年版では,APBIに適している規準として,60歳以上,pT1N0の単発病変で切除断端2 mm以上などであったが,2017年版では50歳以上,pTis―1N0の単発病変で切除断端2 mm以上(DCISに関してはRTOG 9804試験と同様,検診発見の径2.5 cm以下の低/中グレードで断端距離3 mm以上)へ変更された910

2017年のザンクトガレンコンセンサス会議においては,ASTRO/ESTROガイドラインにて低リスクとされた症例に対しては,APBIは治療選択の一つとなると認知されているが,中/高リスク症例に対しては全乳房照射が推奨されるというコンセンサスが発表された11)

しかしながら,各臨床試験の長期成績の報告については未発表であり,前述のメタアナリシスに関しても複数の照射法が混在したものである。また,日本からのAPBIの報告はいまだ少数である。

以上より、現段階では標準治療としては全乳房照射が勧められ,APBIを行う際には、適応症例選択の検討、治療精度の検証などを十分に行い、施設の経験度や地域の放射線治療施設へのアクセスの状況を考慮し、慎重に導入を進めていくべきである。また,わが国にAPBIを導入するにあたっては,欧米の患者との体格や乳房サイズの差による技術的な問題についてのさらなる検討も必要である。

なお,粒子線によるAPBIに関してはいまだ治験レベルの域を出ず,その実臨床への応用は時期尚早と思われる。

小線源治療,術中照射,外照射によるAPBIの費用は,すべて保険診療の範囲内で治療可能である。通常分割の全乳房照射と比して,小線源治療によるAPBIはやや高額であるが,術中照射,外照射によるAPBIは低額である。また,APBIは通常分割の全乳房照射より,通院期間も短いため,治療にかかる時間ならびに費用が低減できるというメリットがある。患者の好みとしては,早期に仕事に復帰する必要がある,育児中,遠方に居住など,治療を短期で終了する希望がある場合に,選択されることが多い傾向にある。

以上より,APBIの利点としては,治療期間短縮による患者および医療関係者の負担軽減ならびに照射野縮小による正常組織に対する有害事象の低減であるが,欠点としては長期の局所制御率,有害事象に関する長期の成績が不明である点である。

また,今回行ったメタアナリシスのすべての解析はランダム化比較試験を使用しているが,いずれも観察期間が短く,長期の治療成績が益,害ともに不明であり,各試験によってDCISの有無,年齢制限等,いくつかの条件が異なっていたため,エビデンスの強さは「中」とした。

本ガイドラインの推奨決定会議では,APBIの日本の施設では一般化していないこと,長期での治療成績,有害事象に関して,全乳房照射と比して本当に非劣性なのか不明確などの理由から,「行わないことを弱く推奨」となった。ガイドライン委員によるvotingでは「行わないことを強く推奨する」という意見も1/12(8%)あった。

よって,乳房温存手術後の照射法として,APBIは長期のエビデンスがまだ十分ではなく,行わないことを弱く推奨する。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Mastectomy,Segmental”のキーワードと,“accelerated partial breast irradiation”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,205件がヒットした。一次スクリーニングで48編,二次スクリーニングで19編の論文が抽出され,ハンドサーチで1編の論文を追加した。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Fisher ER, Anderson S, Tan―Chiu E, Fisher B, Eaton L, Wolmark N. Fifteen―year prognostic discriminants for invasive breast carcinoma:National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project Protocol―06. Cancer. 2001;91(8 Suppl):1679―87. [PMID:11309768]

2)Veronesi U, Marubini E, Mariani L, Galimberti V, Luini A, Veronesi P, et al. Radiotherapy after breast―conserving surgery in small breast carcinoma:long―term results of a randomized trial. Ann Oncol. 2001;12(7):997―1003. [PMID:11521809]

3)Hickey BE, Lehman M, Francis DP, See AM. Partial breast irradiation for early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2016;7:CD007077. [PMID:27425375]

4)Magee B, Swindell R, Harris M, Banerjee SS. Prognostic factors for breast recurrence after conservative breast surgery and radiotherapy:results from a randomised trial. Radiother Oncol. 1996;39(3):223―7. [PMID:8783398]

5)Sanders ME, Scroggins T, Ampil FL, Li BD. Accelerated partial breast irradiation in early―stage breast cancer. J Clin Oncol. 2007;25(8):996―1002. Review. Erratum in:J Clin Oncol. 2007;25(23):3561. [PMID:17350949]

6)Polgár C, Ott OJ, Hildebrandt G, Kauer―Dorner D, Knauerhase H, Major T, et al;Groupe Européen de Curiethérapie of European Society for Radiotherapy and Oncology(GEC―ESTRO). Late side―effects and cosmetic results of accelerated partial breast irradiation with interstitial brachytherapy versus whole―breast irradiation after breast―conserving surgery for low―risk invasive and in―situ carcinoma of the female breast:5―year results of a randomised, controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2017;18(2):259―68. [PMID:28094198]

7) Vicini FA, Cecchini RS, White JR, Arthur DW, Julian TB, Rabinovitch RA, et al. Long-term primary results of accelerated partial breast irradiation after breast-conserving surgery for early-stage breast cancer: a randomised, phase 3, equivalence trial. Lancet.2019; 394: 2155–64. [PMID: 31813636]

8) Whelan TJ, Julian JA, Berrang TS, Kim DH, Germain I, Nichol AM, et al. External beam accelerated partial breast irradiation versus whole breast irradiation after breast conserving surgery in women with ductal carcinoma in situ and node-negative breast cancer (RAPID): a randomised controlled trial. Lancet 2019; 394: 2165-2172. [PMID: 31813635]

9)Smith BD, Arthur DW, Buchholz TA, Haffty BG, Hahn CA, Hardenbergh PH, et al. Accelerated partial breast irradiation consensus statement from the American Society for Radiation Oncology(ASTRO). Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;74(4):987―1001. [PMID:19545784]

10)Correa C, Harris EE, Leonardi MC, Smith BD, Taghian AG, Thompson AM, et al. Accelerated partial breast irradiation:executive summary for the update of an ASTRO evidence―based consensus statement. Pract Radiat Oncol. 2017;7(2):73―9. [PMID:27866865]

11)Curigliano G, Burstein HJ, P Winer E, Gnant M, Dubsky P, Loibl S, et al. De―escalating and escalating treatments for early―stage breast cancer:the St. Gallen international expert consensus conference on the primary therapy of early breast cancer 2017. Ann Oncol. 2017;28(8):1700―12. [PMID:28838210]

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