2021年3月31日更新

FQ22.BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者に対してプラチナ製剤は推奨されるか?

3.その他(特殊病態、副作用対策など)

ステートメント
BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者に対して、プラチナ製剤の有効性は期待されるが、BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者を対象としたランダム化比較試験はなく、今後の課題である。

背景・目的

乳癌のうち5%程度の症例はBRCA1あるいはBRCA2遺伝子の生殖細胞系列病原性変異 (以下BRCA1/2遺伝子変異) を有する。BRCA1/2遺伝子変異陽性乳癌は、PARP 〔poly(ADPーribose)polymerase〕 阻害薬 (CQ31 参照) やプラチナ製剤に対する感受性が高いことが報告されている。

解説文

BRCA1/2遺伝子変異陽性進行再発乳癌において,プラチナ製剤の有効性が報告されている。シスプラチンを検討した第Ⅱ相試験では、20人のBRCA1遺伝子変異陽性乳癌患者を対象にシスプラチン75mg/m2を3週毎に6サイクルまで投与し、CR 45%、PR 35%、無増悪期間中央値は12か月であった1)。TNBCを対象とした単群第Ⅱ相試験であるTBCRC 009試験では、86例 (69例がファーストライン、17例がセカンドライン) が、シスプラチン (43例) あるいはカルボプラチン (43例) の投与を受けた2)。86例中77例でBRCA1/2遺伝子変異が検討され、9例でBRCA1遺伝子変異が、2例でBRCA2遺伝子変異が認められた。11例のORRは54.5%であったが、PFS中央値は3.3か月であった。

BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者のみを対象にしてプラチナ製剤 (HER2陰性乳癌に対しては適応外) の有効性を検討したランダム化比較試験はないが、BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者を含め検証が行われたランダム化第Ⅲ相試験としてTNT試験 (カルボプラチン単剤vs ドセタキセル単剤)3)、CBCSG006試験 (シスプラチン+ゲムシタビン vs パクリタキセル+ゲムシタビン)4)がある。TNT試験は転移・再発乳癌に対する初回治療例を対象に行われ、CBCSG006試験ではアンスラサイクリン系薬剤の治療歴のみ許容された。TNT試験全体ではPFS中央値はカルボプラチン群3.1か月 (95%CI 2.4-4.2か月)、ドセタキセル群4.4か月 (95%CI 4.1-5.1か月) であったが、事前に規定されたBRCA1/2遺伝子変異陽性患者におけるサブグループ解析 (しかし、BRCA1/2遺伝子変異の有無は層別化因子ではなかった) では、PFSはカルボプラチン群で良好な傾向がみられた (PFS中央値 6.8か月 vs 4.4か月、p = 0.002)。また、CBCSG006試験全体ではPFSはシスプラチン群で優れており (HR 0.692, 95% CI 0·523–0·915)、BRCA1/2遺伝子変異におけるサブグループ解析でもPFSはシスプラチン群で優れる傾向がみられた (PFS中央値 8.90か月 vs 3.20か月、p = 0.459)。しかし、これらの試験はBRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者のみを対象としていないこと、BRCA1/2遺伝子変異の有無は層別化因子でなかったこと、BRCA1/2遺伝子変異陽性例は両試験あわせても57例であることから統合解析は実施しなかった。

BRCA1/2遺伝子変異陽性例におけるOSについては、TNT試験のサブグループ解析が報告されているが、カルボプラチンによる有意な延長は見られなかった (germline BRCA1/2 mutation p = 0.97, tumor BRCA1/2 mutation p = 0.43)。

以上より、BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者に対して、プラチナ製剤の有効性は期待されるが、BRCA1/2遺伝子変異陽性進行・再発乳癌患者を対象としたランダム化比較試験はなく、今後の課題である

検索キーワード・参考にした二次資料

本CQに対して”BRCA1 mutation”、”BRCA2 mutation”、”PARP inhibitor”、“chemotherapy”、”platinum”のキーワードで文献検索を行った結果、PubMedから99編、Cochrane Libraryから252編、医中誌から77編が抽出され、それ以外にハンドサーチで1編の論文が追加された。一次スクリーニングで28編の論文が抽出され、二次スクリーニングで13編の論文が抽出された。

参考文献

1. Byrski T, Dent R, Blecharz P, Foszczynska―Kloda M, Gronwald J, Huzarski T, et al. Results of a phaseⅡ open―label, non―randomized trial of cisplatin chemotherapy in patients with BRCA1―positive metastatic breast cancer. Breast Cancer Res. 2012;14(4):R110. [PMID:22817698]

2. Isakoff SJ, Mayer EL, He L, Traina TA, Carey LA, Krag KJ, et al. TBCRC009: A Multicenter Phase II Clinical Trial of Platinum Monotherapy With Biomarker Assessment in Metastatic Triple-Negative Breast Cancer. J Clin Oncol. 2015;33(17):1902-9.

3. Tutt A, Tovey H, Cheang MCU, Kernaghan S, Kilburn L, Gazinska P, et al. Carboplatin in BRCA1/2-mutated and triple-negative breast cancer BRCAness subgroups: the TNT Trial. Nat Med. 2018 May; 24(5): 628-37. [PMID: 29713086]

4. Zhang J, Lin Y, Sun XJ, Wang BY, Wang ZH, Luo JF, et al. Biomarker assessment of the CBCSG006 trial: a randomized phase III trial of cisplatin plus gemcitabine compared with paclitaxel plus gemcitabine as first-line therapy for patients with metastatic triple-negative breast cancer. Ann Oncol. 2018 Aug 1;29(8):1741-1747. [PMID: 29905759]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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