2021年3月31日更新

CQ10.予後良好群で全脳転移病巣の最大径が3 cm未満であり,脳転移個数が1~4個までの乳癌脳転移に対して,初期治療として定位手術的照射(SRS)を行い,全脳照射を省略することは勧められるか?

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2.転移・再発乳癌

推 奨
・初期治療として定位手術的照射(SRS)を行い,SRSの適応を超える増悪を認めるまで全脳照射を省略することが弱く推奨される。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

背景・目的

予後良好群で全脳転移病巣の最大径が3 cm未満であり,脳転移個数が1~4個までの乳癌脳転移に対して,初期治療としてSRSによる局所治療のみを行うのか,全脳照射のみを行うか,局所治療に全脳照射を加えるべきかを明らかにする必要がある1)

全脳照射±SRSのランダム化比較試験が2つ,SRS±全脳照射のランダム化比較試験が3つ存在する一方で,全脳照射のみとSRSのみを比較する試験は存在しない。脳転移が1つで,予後良好な患者に対する全脳照射のみと全脳照射+SRSでは,全脳照射+SRSのほうが,有意に全生存期間が延長されることが知られており,予後良好な少数個の転移に対して全脳照射のみを行うことは勧められない。そこで今回は,少数個の転移に対するSRS±全脳照射を検討した3つのランダム化比較試験をもとに,1~4個の脳転移に対する初期治療としてSRSに全脳照射を加えるべきかを検討した。

本CQについては,乳癌患者に絞ったランダム化比較試験は存在せず,さまざまな固形癌からの脳転移例を対象にした臨床研究を評価した結果である。

解 説

今回のシステマティック・レビューでは,①全生存率,②頭蓋内制御率,③高次機能障害(認知機能で代替)の3つのアウトカムを指標として,定位放射線照射単独治療の有効性,安全性を評価した。今回のシステマティック・レビューでは,SRSに全脳照射を加える群と加えない群を比較したランダム化比較試験の3文献を採用した2)~4)

1)全生存率

乳癌脳転移に絞ったランダム化比較試験は存在しない。乳癌に絞った場合は観察研究のみであった。5個以上の脳転移に対するSRS単独の検討もランダム化比較試験は存在しない。SRSのみで生存が有意に低下する報告はないがSRS±全脳照射の3つのランダム化比較試験を再検討した結果,50歳以下では有意にSRS単独のほうが,全生存率が改善する報告があるものの,対象患者数が68/364と少なく,うち乳癌患者は20人であった。メタアナリシスを行うと,全生存率はSRS群で86%(178/208例)であり,対,SRS+全脳照射群85%(165/195例)で,リスク比1.01(95%CI 0.93-1.10)で,p=0.94との結果となり,全生存率に有意な差は認めなかった5)SRS後に全脳照射を加えることにより,全生存率の向上は認めない。

2)頭蓋内増悪率

SRS±全脳照射の比較試験では,SRS単独群で頭蓋内増悪率が高かった。メタアナリシスを行うと,頭蓋内増悪率はSRS群で57%(114/200例)であり,対,SRS+全脳照射群で24%(45/184例),リスク比2.35(95%CI 1.78-3.11),p<0,00001との結果となり,SRS後に全脳照射を加えることにより,頭蓋内増悪率は有意に減少する。

3)高次神経機能障害割合

2つのランダム化比較試験にて,いずれも高次機能評価にHopkins Verbal Learning Test-Revised(HVLT―R)を用いて評価され,バイアスは見当たらない。今回は予後が比較的よいとされる少数個の脳転移への治療について検討したため,全脳照射の高次機能への影響を特に検討した。メタアナリシスを行うと,高次神経機能障害割合はSRS群で53%(44/83例)であり,対,SRS+全脳照射群86%(51/59例)で,リスク比0.63(95%CI 0.51-0.78),p=0.11との結果となり,SRS+全脳照射と比較してSRSは高次神経機能障害割合が少ない傾向があるが,有意な差は認めなかった。

以上より,SRSの適応を超える増悪を認めるまで全脳照射を行わないことが可能である。生存期間を損なわずに脱毛や高次脳機能障害を回避する利益があるが,SRSを繰り返すことや頻回にMRIなどの画像診断にて経過観察を要することなどによる(新規薬剤ほどではないが)経済的不利益がある。これらの益と害に関して,患者の意向は分かれると思われる。エビデンスの強さについては,乳癌脳転移のみを対象としたランダム化比較試験ではないことから「中」とした。わが国では,定位放射線照射装置やMRIが普及しており,標準治療として定位放射線治療を実施可能であることも踏まえ,(予後良好な患者の)1~4個の脳転移については定位放射線治療のみ行い,増悪を認めるまでは全脳照射を行わないことが勧められる。定位放射線照射は全脳照射のおよそ3倍の経済的負担となる。

検索キーワード・参考にした二次資料

「乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版」の参考文献に加え,PubMedで,“Brain Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Radiotherapy”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,4,071件がヒットした。一次スクリーニングで31編の論文が抽出され,二次スクリーニングで4編の論文が抽出され,定性的および定量的システマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Tsao MN, Rades D, Wirth A, Lo SS, Danielson BL, Gaspar LE, et al. Radiotherapeutic and surgical management for newly diagnosed brain metastasis(es):An American Society for Radiation Oncology evidence―based guideline. Pract Radiat Oncol. 2012;2(3):210―25. [PMID:25925626]

2)Aoyama H, Shirato H, Tago M, Nakagawa K, Toyoda T, Hatano K, et al. Stereotactic radiosurgery plus whole―brain radiation therapy vs stereotactic radiosurgery alone for treatment of brain metastases:a randomized controlled trial. JAMA. 2006;295(21):2483―91. [PMID:16757720]

3)Brown PD, Jaeckle K, Ballman KV, Farace E, Cerhan JH, Anderson SK, et al. Effect of radiosurgery alone vs radiosurgery with whole brain radiation therapy on cognitive function in patients with 1 to 3 brain metastases:a randomized clinical trial. JAMA. 2016;316(4):401―9. [PMID:27458945]

4)Chang EL, Wefel JS, Hess KR, Allen PK, Lang FF, Kornguth DG, et al. Neurocognition in patients with brain metastases treated with radiosurgery or radiosurgery plus whole―brain irradiation:a randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2009;10(11):1037―44. [PMID:19801201]

5) Sahgal A, Aoyama H, Kocher M, Neupane B, Collette S, Tago M, et al. Phase 3 Trials of Stereotactic Radiosurgery With or Without Whole-Brain Radiation Therapy for 1 to 4 Brain Metastases: Individual Patient Data Meta-Analysis. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015; 91(4):710-7.

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