推 奨
・乳がん死亡率減少効果が証明されていないので高濃度乳房に対する対策型マンモグラフィ検診の補助的モダリティとしてAutomated whole-breast scanning sonography system (自動全乳房超音波検査システム) を行わないことを弱く推奨する。
〔エビデンスの強さ:弱,合意率:100%(12/12)〕
背景・目的
高濃度乳房を有する女性におけるマンモグラフィ(MG)の感度は低く、また乳がん発症率も高くなることが示されている。これを補完するためのモダリティの一つとしてAutomated whole-breast scanning sonography system (自動全乳房超音波検査システム) が考えられる。自動全乳房超音波検査システムは通常のUS(hand-held)と異なり、検査者の技術に左右されることなく全乳房スキャンを可能とした装置であり、この数年間で普及しつつある1)。今回、自動全乳房超音波検査システムは高濃度乳房に対する対策型乳がんマンモグラフィ検診の補助的モダリティとして推奨されるかをCQとして取り上げ、上記内容に関し、システマティックレビューを行った。
解 説
今回のシステマティック・レビューを行う上で,乳癌死亡率減少,感度,要精検率,費用をアウトカムとして設定した。下記に記載したキーワードを用い,高濃度乳房を有する女性に対する,MMG単独とMMG,自動全乳房超音波検査システム併用を比較している研究に関して検索を行った。死亡率減少,費用に関して該当する論文はなかった。感度,要精検率に関しては以下に紹介する4論文が該当した2-5)。
今回のシステマティックレビューに採用した4論文を簡単に紹介する。Kellyら2)は35歳以上無症候性の高濃度乳房を有する女性(一部にそれ以外が含まれている)4,419名(検査数6,425件)を対象とし、MG, 自動全乳房超音波検査システム併用の検診例について前向きに多施設研究(個体内比較)を行った。自動全乳房超音波検査システムはSonoCineを使用、1年間の経過観察を行い、中間期癌を確認している。がん発見率7.2/1000(MGのみ:3.6/10000)(自動全乳房超音波検査システムでの追加発見3.6/1,000; 95% CI = 2.3–5.4)、感度81%(MGのみ:40%)、特異度98.7%(MGのみ:95.15%)、要精検率9.6%(MGのみ4.2%)の結果であった。Giulianoら3)は,無症候性の高濃度乳房を有する女性、コントロール群(MGのみ)4,076例、試験群(MG, 自動全乳房超音波検査システム併用)3418例を対象とした単施設での後ろ向き研究(並行群間比較)を行った。自動全乳房超音波検査システムは、Somo-V(U-system)を使用、1年間の経過観察を行い,中間期癌を確認している。がん発見率12.3/1000(コントロール群:4.6/1000)、感度97.67%(コントロール群:76.00%)、特異度99.70%(コントロール群:98.2%)、PPV 80.77%(コントロール群:20.43%)であった。この研究では費用対効果分析に関しても検討している。Brem4)らは、SomoInshight studyとして知られている多施設の前向き研究(個体内比較)を報告している。無症候性の高濃度乳房を有する女性15,318名を対象として、MG, 自動全乳房超音波検査システム併用での検診が行われた。自動全乳房超音波検査システムはSomo-V(U-system)を使用、1年間の経過観察を行い、中間期癌を確認している。がん発見率7.3/1000(MGのみ:5.4/1000)、感度100%(MGのみ:73.2%)、特異度72.0%(MGのみ:85.4%)、要精検率284.9/1000(MGのみ:150.2/1000)であった。Wilczekら5)は40歳以上、無症候性の高濃度乳房を有する女性1,668名を対象とした、MG, 自動全乳房超音波検査システム併用併用での検診例について単施設の後ろ向き研究(個体内比較)を行っている。自動全乳房超音波検査システムはSomo-V(U-system)を使用、2年間の経過観察を行い、中間期癌を確認している。がん発見率6.6/1000(MGのみ:4.2/1000)、感度68.8%(MGのみ:43.8%)、特異度98.4%(MGのみ:99.0%)、要精検率22.8/1000(MGのみ:13.8/1000)の結果であった。
これら4研究をメタアナリシスした結果、感度に関して1つの研究5)のみ症例数が少なく、統計学的な有意差は示せていないものの、異質性が低く、統合された効果量はMGに自動全乳房超音波検査システムを加えた方が、有意に高いことが示された(図1-a)、(risk difference:0.28[95% CI = 0.22-0.35])。また、要精検率に関しては異質性が高く、統合された統計量に、臨床的な意義は少ない(図1-b)。要精査とする基準が各研究によって違っている可能性が考えられる。
以上より、自動全乳房超音波検査システムを加えることにより、一貫して感度は上昇しており、また自動全乳房超音波検査システムのみで発見されたがんの大多数が浸潤癌であったことから2-5)、予後の改善が期待される。また研究間で一貫しないが要精査率も上昇が想定される。
ただし、本CQにおいては、がん検診の有効性を示す最も重要な指標である死亡率減少を重要度が最も高いアウトカムとして設定したが、これを示す研究は認められなかった。このことより、対策型検診において、自動全乳房超音波検査システムは高濃度乳房に対する乳がんマンモグラフィ検診の補助的なモダリティとして、行わないことを弱く推奨する。
ただし、任意型乳がん検診においては、自動全乳房超音波検査システムを追加しても乳がん死亡率減少効果が証明されていないことと、追加することで、もたらされる可能性のある利益と不利益を説明して、受診者が十分に理解した場合、行うことは容認されるが、ただし適切な精度管理がされていることを前提とする。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMed、The Cochrane Library、医中誌Webにて、以下のキーワードを用いて検索した。検索期間は2016年9月末までとした。
PubMed
(((((“breast density”[MeSH Terms] OR dense OR density OR densities)) AND “ultrasonography, mammary”[MeSH Terms]) AND (“automated breast” OR “automated whole breast” OR ABUS OR ABVS OR AWBUS OR “supplemental screening” OR “subsequent screening”))) AND ((0001/01/01[DP] : 2016/11/30[DP]) AND (English[LA] OR Japanese[LA]))
The Cochrane Library
(ultrasound or ultrasonic or ultrasonogr*:ti,ab,kw) and (“dense breast” or “breast density”:ti,ab,kw) and (automated or supplemental or subsequent or combined:ti,ab,kw)
医中誌Web
(((((マンモグラフィー/TH or mammography/AL)) or (マンモグラフ/AL)) and ((dense/AL or (密度/TH or density/AL)) or (高濃度/AL) or ((乳腺密度/TH or 乳腺密度/AL))) and (((ABUS/AL or ABVS/AL or AWBUS/AL) or (automated/AL) or (自動/AL)) and (((超音波診断/TH or ultrasonography/AL) or ultrasound/AL or (超音波学/TH or ultrasonic/AL)) or ((超音波/TH or 超音波/AL)))))) and (PT=会議録除く)
エビデンス総体・システマティックレビュー資料・メタアナリシス
参考文献
1)Shin HJ, Kim HH, Cha JH. Current status of automated breast ultrasonography. Version 2. Ultrasonography. 2015;34(3):165―72. [PMID:25971900]
2)Kelly KM, Dean J, Comulada WS, Lee SJ. Breast cancer detection using automate whole breast ultrasound and mammography in radiographically dense breasts. Eur Radiol. 2010;20(3):734―42. [PMID:19727744]
3)Giuliano V, Giuliano C. Improved breast cancer detection in asymptomatic women using 3D―automated breast ultrasound in mammographically dense breasts. Clin Imaging. 2013;37(3):480―6. [PMID:23116728]
4)Brem RF, Tabar L, Duffy SW, Inciardi MF, Guingrich JA, Hashimoto BE, et al. Assessing improvement in detection of breast cancer with three―dimensional automated breast US in women with dense breast tissue:the SomoInsight Study. Radiology. 2015;274(3):663―73. [PMID:25329763]
5)Wilczek B, Wilczek HE, Rasouliyan L, Leifland K. Adding 3D automated breast ultrasound to mammography screening in women with heterogeneously and extremely dense breasts:Report from a hospital―based, high―volume, single―center breast cancer screening program. Eur J Radiol. 2016;85(9):1554―63. [PMID:27501888]