2021年3月31日更新

CQ4.乳房温存手術後に腋窩リンパ節転移1~3個の患者では,領域リンパ節(鎖骨上)を照射野に含めることが勧められるか?

1.乳房手術後放射線療法

推 奨
・乳房温存手術後領域リンパ節(鎖骨上)に対する放射線療法は一様には推奨しないが,リスクの高い患者*において実施を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:100%(12/12)〕

背景・目的

乳房全切除術後では,転移陽性リンパ節が1~3個の症例においても,領域リンパ節(鎖骨上)を含む乳房全切除術後放射線療法(PMRT)が再発や乳癌による死亡を減少させるとのメタアナリシスがある(放射線CQ5参照)。一方,乳房温存手術後では,温存乳房への照射を行うことに加えて,領域リンパ節(鎖骨上)照射を行うことの意義を検討したランダム化比較試験は少ない。本CQでは,乳房温存手術に加えて腋窩郭清がなされた患者において,腋窩リンパ節転移1~3個であった場合を想定して,領域リンパ節(鎖骨上)照射の有効性と安全性について検討を行った。

解 説

乳房全切除術後の場合と異なり,乳房温存手術例においては,もともと術後乳房照射の適応があるため,領域リンパ節への照射を加えるかどうかで通院や治療にかかるコストは大きく変わることはない。このため,領域リンパ節照射の適否の大部分は益と害のバランスをもとに患者の好みによって分かれると考えられる。

乳癌手術後に領域リンパ節(鎖骨上)照射を含む術後照射の有用性を検討したランダム化比較試験のうち,対象に乳房温存手術後の症例を含むものは2編ある。そのうちの1つはMA.20試験で,対象となった1,832例のうち全例が乳房温存手術を受け,転移陽性リンパ節数が1~3個の割合は85%であった1)。この試験では,リンパ節転移陽性あるいはリンパ節転移陰性高リスク症例が,術後に全乳房照射のみを受ける群と全乳房および領域リンパ節(鎖骨上および内胸)照射を受ける群とにランダムに分けられた。観察期間9.5年において,領域リンパ節照射を加えない群と加えた群とで10年無遠隔転移生存率が75.0%および78.0%(HR 0.86,p=0.02)と有意に改善したが,10年全生存率は82.8%および81.8%と有意な差は認められなかった。また,リンパ浮腫はそれぞれ4.5%および8.4%と有意に増加した(p=0.001)。

一方,もう1つの研究であるEORTC 22922/10925試験では,対象となった4,004人のうち76%に乳房温存手術が行われ,転移陽性リンパ節数が1~3個の割合は43%であった2)。この試験でも,リンパ節転移陽性あるいは原発巣が内側あるいは中心区域に位置するStageⅠ-Ⅲ症例が,領域リンパ節(鎖骨上および内胸)照射を受けない群と受ける群とにランダムに分けられた。観察期間中央値10.9年で,領域リンパ節照射を受けない群と受ける群とで10年無遠隔転移生存率が82.4%および86.3%(HR 0.76,p=0.03)と有意に改善したが,10年全生存率は有意な差は認めなかった。また,リンパ浮腫を含む毒性には大きな差は認められなかった。

上記2研究を統合して,益のアウトカムとして,領域リンパ節再発率の低下,遠隔再発率の低下,全生存期間の延長について統合的にリスク比(RR)を算出した結果,遠隔再発率は有意に低下させる(RR 0.81,95%CI 0.72-0.90,p=0.0002)が,領域リンパ節再発率の低下や全生存期間の延長は統計学的には示されなかった。

害のアウトカムについては,リンパ浮腫,二次発がん,心毒性について評価した。リンパ浮腫については,上記2研究の他に6編の観察研究(1編のコホート研究,5編の症例対照研究)3)~8)を加えて統合的にリスク比を算出した結果,リンパ浮腫は有意に増加していた(RR 2.6,95%CI 1.64-4.10,p<0.0001)。二次発がんについては,上記2研究のほかに1編の症例対照研究9)を追加して統合的に解析した結果,有意な二次発癌の増加は示されなかった。心毒性については追加すべき研究が検索されなかったため上記2研究よりリスク比を算出したが,有意な心毒性の増加は示されなかった。

また、2020年にEORTC(22922/10925)試験の観察期間中央値15.7年における追加報告が出された10)。その結果、領域リンパ節照射を受けない群と比較して、領域リンパ節照射を受ける群で15年乳癌死亡率の低下は維持されたものの(16.0% vs. 19.8%、ハザード比:0.81、p=0.0055)、15年無遠隔転移生存率の差は認めず(70.0% vs. 68.2%、 ハザード比:0.93、p=0.18)、15年全生存率も有意な差を認めなかった(73.1% vs. 70.9%、ハザード比:0.95、p=0.36)。 また、心毒性も両群で差は認められておらず、この試験の長期成績は2018年に行った統合解析の結果を大きく変えないと考えられる。

ランダム化比較を行った2研究は,転移陽性リンパ節数が1~3個でない患者を含み,EORTC 22922/10925試験では乳房全切除術例も含まれることから,エビデンスの強さを下げた。害のアウトカムは観察研究も含まれるため,さらにエビデンスの強さは下がり,全体として本CQのエビデンスの強さを下げた。

以上をまとめると,乳房温存手術に加えて腋窩郭清がなされた患者において,腋窩リンパ節転移1~3個の場合は領域リンパ節照射により遠隔再発率は有意に低下しているものの,全生存期間の延長は有意ではなく,リンパ浮腫が有意に増加した。10年の観察による結果であることから,毒性も含めより長期の観察データが必要であり,現時点では一様には推奨しない。全生存率の延長は明確でないことを理解したうえで,リンパ浮腫の増加よりも遠隔再発の抑制を希望する場合や,リスクの高い患者*などの状況によって患者の意向は分かれると思われるため,実施を弱く推奨することとした。

なお,評価した研究が開始された時期はトラスツズマブ,タキサンやアロマターゼ阻害薬などの新規薬剤が普及する前であることから,より新しい全身療法の各再発率への寄与が高まることが想定される中で,放射線治療の相対的な意義が低下する可能性にも留意する必要がある。また,今回評価を行った研究は主に腋窩郭清例を対象としており,今後増加すると思われる,腋窩郭清が省略された(または限定的である)場合の領域リンパ節照射の意義は異なる可能性があることに注意を要する(放射線FQ2参照)。さらに,今回の検討の対象となった2研究ではいずれも領域リンパ節照射として内胸リンパ節を含んでいるが,領域リンパ節照射の適切な照射範囲設定はいまだに不明である(放射線CQ6参照)。

*リスクの高い患者:後ろ向き研究でエビデンスレベルは高くないが,領域リンパ節(鎖骨上)照射を受けていないリンパ節転移1~3個陽性患者を対象としたいくつかの研究11)~14から,脈管侵襲陽性,節外進展あり,リンパ節の転移個数が多い(1個より2個,2個より3個),高核グレード,ホルモン受容体陰性,より腫瘍径が大きいなどの患者で,領域リンパ節再発のリスクが高いとの報告がある。また,これらのリスク因子が複数重なると領域リンパ節(鎖骨上)照射の意義が高まる。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Radiotherapy”,“Mastectomy,Segmental”のキーワードと,axilla,lymph nodeの同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,262件がヒットした。一次スクリーニングで29編,二次スクリーニングで12編の論文が抽出され,ハンドサーチで10編の論文が追加された。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Whelan TJ, Olivotto IA, Parulekar WR, Ackerman I, Chua BH, Nabid A, et al;MA.20 Study Investigators. Regional nodal irradiation in early―stage breast cancer. N Engl J Med. 2015;373(4):307―16. [PMID:26200977]

2)Poortmans PM, Collette S, Kirkove C, Van Limbergen E, Budach V, Struikmans H, et al;EORTC Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Internal mammary and medial supraclavicular irradiation in breast cancer. N Engl J Med. 2015;373(4):317―27. [PMID:26200978]

3)Johansen J, Overgaard J, Blichert―Toft M, Overgaard M. Treatment of morbidity associated with the management of the axilla in breast―conserving therapy. Acta Oncol. 2000;39(3):349―54. [PMID:10987232]

4)Coen JJ, Taghian AG, Kachnic LA, Assaad SI, Powell SN. Risk of lymphedema after regional nodal irradiation with breast conservation therapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;55(5):1209―15. [PMID:12654429]

5)Hayes SB, Freedman GM, Li T, Anderson PR, Ross E. Does axillary boost increase lymphedema compared with supraclavicular radiation alone after breast conservation? Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2008;72(5):1449―55. [PMID:19028274]

6)Lundstedt D, Gustafsson M, Steineck G, Alsadius D, Sundberg A, Wilderang U, et al. Long―term symptoms after radiotherapy of supraclavicular lymph nodes in breast cancer patients. Radiother Oncol. 2012;103(2):155―60. [PMID:22321202]

7)Kim M, Kim SW, Lee SU, Lee NK, Jung SY, Kim TH, et al. A model to estimate the risk of breast cancer―related lymphedema:combinations of treatment―related factors of the number of dissected axillary nodes, adjuvant chemotherapy, and radiation therapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;86(3):498―503. [PMID:23541809]

8)Warren LE, Miller CL, Horick N, Skolny MN, Jammallo LS, Sadek BT, et al. The impact of radiation therapy on the risk of lymphedema after treatment for breast cancer:a prospective cohort study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(3):565―71. [PMID:24411624]

9)Hamilton SN, Tyldesley S, Li D, Olson R, McBride M. Second malignancies after adjuvant radiation therapy for early stage breast cancer:is there increased risk with addition of regional radiation to local radiation? Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;91(5):977―85. [PMID:25832690]

10)Poortmans PM, Weltens C, Fortpied C, Kirkove C, Peignaux-Casasnovas K, Budach V, et al. Internal mammary and medial supraclavicular lymph node chain irradiation in stage I-III breast cancer (EORTC 22922/10925): 15-year results of a randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol 2020. [PMID: 33152277]

11)Yu JI, Park W, Huh SJ, Choi DH, Lim YH, Ahn JS, et al. Determining which patients require irradiation of the supraclavicular nodal area after surgery for N1 breast cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2010;78(4):1135―41. [PMID:20231065]

12)Yu JI, Park W, Choi DH, Huh SJ, Nam SJ, Kim SW, et al. Prognostic modeling in pathologic N1 breast cancer without elective nodal irradiation after current standard systemic management. Clin Breast Cancer. 2015;15(4):e197―204. [PMID:25957739]

13)Viani GA, Godoi da Silva LB, Viana BS. Patients with N1 breast cancer:who could benefit from supraclavicular fossa radiotherapy? Breast. 2014;23(6):749―53. [PMID:25231194]

14)Hirata K, Yoshimura M, Inoue M, Yamauchi C, Ogura M, Toi M, et al. Regional recurrence in breast cancer patients with one to three positive axillary lymph nodes treated with breast―conserving surgery and whole breast irradiation. J Radiat Res. 2017;58(1):79―85. [PMID:27422931]

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