2021年3月31日更新

FQ5.HER2陽性乳癌の周術期治療にペルツズマブを併用することは推奨されるか?

1.初期治療

ステートメント
・再発リスクの高い症例でのペルツズマブ併用療法の有用性が示された。ただし,全生存期間(OS)の延長効果については今のところ明らかではない。

背 景

ペルツズマブは,HER2陽性の転移・再発乳癌に対する一次治療としてトラスツズマブ+ドセタキセルに併用することで有意に予後を改善する。HER2陽性乳癌の術前・術後化学療法においても,化学療法+トラスツズマブにペルツズマブを併用することで,pCR率や予後の改善が得られるかについて検証試験が行われている。

解 説

1)術前治療

術前治療において化学療法+トラスツズマブに対するペルツズマブ併用の有効性や安全性を検証した第Ⅱ相比較試験が報告されている。NeoSphere試験(n=417)は,原発巣が2 cm以上でHER2陽性の乳癌T2-3,N0-1,M0,局所進行のT2-3,N2-3,M0 or T4a-c,anyN,M0,および炎症性のT4d,anyN,M0を対象に,トラスツズマブ+ドセタキセル(TH)群を標準治療としてドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)群,トラスツズマブ+ペルツズマブ(HP)群およびドセタキセル+ペルツズマブ(TP)群のpCR率(原発巣での浸潤癌の消失と定義)を主要評価項目として検討している。各群でトラスツズマブは術前・術後を通じて計1年投与されている。ITT解析の結果,pCR率はTHP群で45.8%(95%CI 36.1-55.7),TH群で29%(95%CI 20.6-38.5)と標準治療にペルツズマブを併用することで有意(p=0.0141)にpCR率が改善した。また,化学療法を併用しないHP群でも16.8%のpCR率が得られている。ホルモン受容体の発現別のサブセット解析では,いずれの治療群においてもホルモン受容体陰性の群で高いpCR率が得られている。ペルツズマブを併用することで,有害事象の明らかな増加は認められない1)。予後については,5年PFSが,検出力が不足しており有意差はないが,TH群で81%,THP群で86%とペルツズマブ併用でやや改善傾向にある2)

TRYPHAENA試験(n=225)は,原発巣が2 cm以上でHER2陽性の乳癌T2-3,N0-1,M0,局所進行のT2-3,N2-,M0 or T4a-c,anyN,M0,および炎症性のT4d,anyN,M0を対象に,主要評価項目を心機能の安全性としてFEC+ペルツズマブ+トラスツズマブ→ドセタキセル+ペルツズマブ+トラスツズマブ(n=72),FEC→ドセタキセル+ペルツズマブ+トラスツズマブ(n=75)とドセタキセル+カルボプラチン+ペルツズマブ+トラスツズマブ(n=76)の3群で比較検証している。各群でトラスツズマブは術前・術後を通じて計1年投与が計画されている。術前治療中の症状を伴う心機能低下およびLVFEが治療開始時より10%以上低下し50%以下となった割合は各群でいずれも低く,心機能に対する忍容性に問題はなかった。副次評価項目のpCR率(原発巣での浸潤癌の消失と定義)はFEC+ペルツズマブ+トラスツズマブ→ドセタキセル+ペルツズマブ+トラスツズマブ群で61.6%,FEC→ドセタキセル+ペルツズマブ+トラスツズマブで57.5%,ドセタキセル+カルボプラチン+ペルツズマブ+トラスツズマブ群で66.2%と,術前治療にペルツズマブを併用することでいずれも高いpCR率が得られている3)

これらの2試験から術前治療として化学療法+トラスツズマブにペルツズマブを併用することでpCR率の改善が期待でき,忍容性についても問題ないと考えられる。

2)術後治療

HER2陽性乳癌の術後化学療法にトラスツズマブを1年併用することでDFSとOSが有意に改善する。化学療法+トラスツズマブを標準治療として,ペルツズマブ1年併用の有効性についてIDFS(浸潤癌の無病生存期間)を主要評価項目に,DFS,OS,安全性,QOLなどを副次評価項目としたランダム化第Ⅲ相比較試験(APHINITY)の結果4)が報告された(n=4,805)。観察期間の中央値45.4カ月の時点で,3年IDFSはペルツズマブ併用群で94.1%,標準治療群で93.2%(HR 0.81,95%CI 0.66―1.00,p=0.045)とペルツズマブ追加により,有意にIDFSが改善している。サブセット解析では,リンパ節転移陰性では差を認めないが,リンパ節転移陽性ではペルツズマブ併用群で92.0%,標準治療群で90.2%(HR 0.77,95%CI 0.62-0.96,p=0.02)とペルツズマブ併用によりIDFSが有意に改善していた。心毒性の発現について差は認めなかった。Grade 3以上の下痢の頻度は,ペルツズマブ併用により有意に上昇していた。APHINITYの結果から術後化学療法にペルツズマブを併用することで3年IDFSは統計学的には有意に改善しているが,今のところその差はわずかである。全生存期間を含め,今後フォローアップデータを引き続き注視していく必要がある。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoadjuvant Therapy”,“Receptor, ErbB―2”,“Antibodies, Monoclonal”,“Trastuzumab”,“her2 positive”,“pertuzumab”のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,93件がヒットした。

参考文献

1)Gianni L, Pienkowski T, Im YH, Roman L, Tseng LM, Liu MC, et al. Efficacy and safety of neoadjuvant pertuzumab and trastuzumab in women with locally advanced, inflammatory, or early HER2―positive breast cancer(NeoSphere):a randomised multicentre, open―label, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2012;13(1):25―32. [PMID:22153890]

2)Gianni L, Pienkowski T, Im YH, Tseng LM, Liu MC, Lluch A, et al;. 5―year analysis of neoadjuvant pertuzumab and trastuzumab in patients with locally advanced, inflammatory, or early―stage HER2―positive breast cancer(NeoSphere):a multicentre, open―label, phase 2 randomised trial. Lancet Oncol. 2016;17(6):791―800. [PMID:27179402]

3)Schneeweiss A, Chia S, Hickish T, Harvey V, Eniu A, Hegg R, et al. Pertuzumab plus trastuzumab in combination with standard neoadjuvant anthracycline―containing and anthracycline―free chemotherapy regimens in patients with HER2―positive early breast cancer:a randomized phaseⅡ cardiac safety study(TRYPHAENA). Ann Oncol. 2013;24(9):2278―84. [PMID:23704196]

4)Minckwits G, Procter M, Azambuja E, Zardvas D, Benyunes M, Viale G, et al. Adjuvant pertuzumb and trastuzumab in early HER2―positeve breast cancer. N Engl J Med. 2017;377(7):702. [PMID:28700263]

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