ステートメント
・全身状態のよい10個以下の脳転移症例において,腫瘍径3 cm未満,脳転移の全腫瘍体積が15 mL以下,髄液播種所見がないなどの条件を満たす場合には,定位手術的照射(SRS)を行い経過観察することで全脳照射を回避できる可能性がある。
背 景
脳転移個数が10個までの乳癌脳転移に対して,初期治療としてSRSによる局所治療を行うのか,全脳照射を行うのか,意見が分かれている。本FQについては,乳癌患者に絞ったランダム化比較試験は存在せず,さまざまな固形癌からの脳転移例を対象にした1つの臨床研究を評価した。
解 説
乳癌脳転移患者の予後は,他の固形癌の脳転移の生存期間より長い1)。個々の患者の予後を的確に予測し,治療に伴う有害事象と利益を考慮して,治療の方法を選択する必要がある。全身状態がよく,全腫瘍体積が15 mL以下の5~10個の脳転移症例を対象に,定位手術的照射を行い,2~4個の症例と全生存率に有意差はないというわが国からの報告がなされた2)。同報告では1,194例中の10%が乳癌症例であり,全生存期間中央値は,1個,2~4個,5個以上の脳転移別にそれぞれ27.2カ月,13.7カ月,10.5カ月であった。また,同臨床試験の追加報告において,高次脳機能・認知機能が保たれることが示された3)。定位手術的照射単独治療後は全脳照射後に比べて頭蓋内再発が多いため,MRIにて適切に経過観察する必要がある。MRIにて注意深く経過観察し,適応がある限り救済定位放射線照射を繰り返すことにより,定位放射線照射の適応を超える増悪を認めるまで全脳照射を待機することが可能であると思われる。ランダム化比較試験や多数例の報告によって確認される必要がある。肺癌など他の癌腫においては,脳転移に対する薬物療法の開発も進んでいるが,乳癌では肺癌ほど有効性が確立された薬剤はなく今後の開発に期待される。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMedで,“Brain Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Radiotherapy”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,4,071件がヒットした。また,ハンドサーチにより,「乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版」の参考文献に加え,他のガイドラインや二次資料などから重要と思われる文献を採用した。
参考文献
1)Sperduto PW, Kased N, Roberge D, Xu Z, Shanley R, Luo X, et al. Summary report on the graded prognostic assessment:an accurate and facile diagnosis―specific tool to estimate survival for patients with brain metastases. J Clin Oncol. 2012;30(4):419―25. [PMID:22203767]
2)Yamamoto M, Serizawa T, Shuto T, Akabane A, Higuchi Y, Kawagishi J, et al. Stereotactic radiosurgery for patients with multiple brain metastases(JLGK0901):a multi―institutional prospective observational study. Lancet Oncol. 2014;15(4):387―95. [PMID:24621620]
3)Yamamoto M, Serizawa T, Higuchi Y, Sato Y, Kawagishi J, Yamanaka K, et al. A multi―institutional prospective observational study of stereotactic radiosurgery for patients with multiple brain metastases(JLGK0901 Study Update):irradiation―related complications and long―term maintenance of mini―mental state examination scores. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017;99(1):31―40. [PMID:28816158]