ステートメント
・食事によるイソフラボンの摂取は乳癌患者の予後を改善する可能性がある。
〔エビデンスグレード:Limited―suggestive(可能性あり)〕
背景・目的
アジアでよく食されている大豆食品に含まれる大豆イソフラボンは植物エストロゲンの一種であり,その抗エストロゲン作用からアジアと欧米の乳癌発症率の差を説明する要因として研究されてきた。いくつかのコホート研究で乳癌罹患率の減少が観察されており,発症リスクを減少させる可能性がある。乳癌患者にもその抗エストロゲン作用から,再発リスクを減少させる可能性があると考えられる半面,弱いエストロゲン作用から再発リスクを高める可能性もあるとして欧米では摂取を控えるよう勧めるガイドラインもある。ここでは欧米とアジアの乳癌患者に対する研究結果について解説する。
解 説
イソフラボンは一般健康への影響も関連することから,乳癌患者のイソフラボン摂取と予後の評価のアウトカムとして,乳癌再発(重要度9点),乳癌死亡(重要度8点),全死亡(重要度7点)を採用した。
乳癌再発をアウトカムとした研究は3件であったが,閉経前乳癌と閉経後乳癌を別々に解析した結果がないものは別研究として扱った1)~3)。3件の内訳は,多民族を対象とした米国での研究が2件,中国での研究が1件である。診断前後の食事の区別はできていない。個々の研究で,イソフラボン摂取に対し,統計的に有意なリスクの減少がみられたものは中国での閉経後乳癌患者を対象とした1件であり〔HR 0.67(95%CI 0.54-0.83)〕2),他は有意な関連はみられなかった。メタアナリシスの結果,効果に異質性は認められず,全体として統計的に有意なリスク減少が認められた〔HR 0.74(95%CI 0.63―0.88)〕(図1)。
乳癌死亡をアウトカムとした研究は5件であった4)~8)。5件の内訳は,多民族を対象とした米国での研究が2件,中国での研究が3件である。診断前後の食事の区別はできていない。個々の研究で,イソフラボン摂取に対し,統計的に有意なリスクの減少がみられたものは中国人に対する2件の研究であり〔HR 0.77(95%CI 0.60-0.74),HR 0.62(95%CI 0.52-0.74)〕6)7),他は有意な関連はみられなかった。メタアナリシスの結果,効果に異質性が認められ,変量効果モデルによる解析では,全体としては有意でないもののリスク減少の傾向がみられた〔HR 0.82(95%CI 0.65-1.04)〕(図2)。
全死亡をアウトカムとした研究は5件であったが,閉経前乳癌と閉経後乳癌を別々に解析した結果がないものは別研究として扱った2)3)5)6)8)。5件の内訳は,多民族を対象とした米国での研究が3件,中国での研究が2件である。診断前後の食事の区別はできていない。個々の研究で,イソフラボン摂取に対し,統計的に有意なリスクの減少がみられたものは米国の乳癌患者を対象とした1件であり〔HR 0.52(95%CI 0.33-0.82)〕5),他は有意な関連はみられなかった。メタアナリシスの結果,効果にやや異質性が認められ,変量効果モデルによる解析では,全体としては有意でないもののリスク減少の傾向がみられた〔HR 0.83(95%CI 0.67-1.02)〕(図3)。
これらの研究のうち,少なくとも4つの研究で有害事象がなかったことが確認されている。
WCRFとAICRが共同で行っているFood,Nutrition,Physical Activity and the Prevention of Cancer:a Global Perspectiveでは,Continuous Update Reportとして,2014年にDiet,nutrition,physical activity and Breast Cancer Survivorsが発表された(二次資料①)。この中では,これまでに報告された,大豆摂取と乳癌予後の関連についてのレビューが行われ,診断後12カ月以降の大豆および大豆蛋白質摂取とその後の全死亡との関連について,Limited-suggestive(可能性あり)と結論付けている。
より大規模かつ精度の高い研究を日本人も含め,多くの集団で行う必要があるものの,これまでの研究でイソフラボン摂取で有害事象が増えたという報告はなく,再発リスク減少の可能性があるといえる。
以上より,イソフラボンの摂取は乳癌再発,乳癌死亡,全死亡のリスクを減少させる可能性があるため,乳癌患者が大豆摂取することを推奨してもよい。
検索キーワード
PubMedで“Soy Foods”,“Isoflavones”,“Prognosis”,“Neoplasm Recurrence,Local”,“Survival Analysis”,“Mortality”のキーワードと同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとした。文献検索の結果,PubMed 199編,医中誌145編が抽出された。一次スクリーニングで15編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切でない論文がないことを確認し,最終的に15編の論文を対象に定性的および定量的システマティック・レビューを実施した。このうち乳癌再発をアウトカムとした研究が3件,乳癌死亡は5件,全死亡は5件であった。
参考にした二次資料
① World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Continuous Update Project. Diet, nutrition, physical activity and Breast Cancer Survivors. 2014.
参考文献
1)Guha N, Kwan ML, Quesenberry CP Jr, Weltzien EK, Castillo AL, Caan BJ. Soy isoflavones and risk of cancer recurrence in a cohort of breast cancer survivors:the Life After Cancer Epidemiology study. Breast Cancer Res Treat. 2009;118(2):395―405. [PMID:19221874]
2)Kang X, Zhang Q, Wang S, Huang X, Jin S. Effect of soy isoflavones on breast cancer recurrence and death for patients receiving adjuvant endocrine therapy. CMAJ. 2010;182(17):1857―62. [PMID:20956506]
3)Caan BJ, Natarajan L, Parker B, Gold EB, Thomson C, Newman V, et al. Soy food consumption and breast cancer prognosis. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011;20(5):854―8. [PMID:21357380]
4)Boyapati SM, Shu XO, Ruan ZX, Dai Q, Cai Q, Gao YT, et al. Soyfood intake and breast cancer survival:a followup of the Shanghai Breast Cancer Study. Breast Cancer Res Treat. 2005;92(1):11―7. [PMID:15980986]
5)Fink BN, Steck SE, Wolff MS, Britton JA, Kabat GC, Gaudet MM, et al. Dietary flavonoid intake and breast cancer survival among women on Long Island. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2007;16(11):2285―92. [PMID:18006917]
6)Shu XO, Zheng Y, Cai H, Gu K, Chen Z, Zheng W, et al. Soy food intake and breast cancer survival. JAMA. 2009;302(22):2437―43. [PMID:19996398]
7)Zhang YF, Kang HB, Li BL, Zhang RM. Positive effects of soy isoflavone food on survival of breast cancer patients in China. Asian Pac J Cancer Prev. 2012;13(2):479―82. [PMID:22524810]
8)Conroy SM, Maskarinec G, Park SY, Wilkens LR, Henderson BE, Kolonel LN. The effects of soy consumption before diagnosis on breast cancer survival:the Multiethnic Cohort Study. Nutr Cancer. 2013;65(4):527―37. [PMID:23659444]