推 奨
・乳房全切除術後放射線療法(PMRT)が勧められる。
〔推奨の強さ:1~2,エビデンスの強さ:中,合意率:合意に至らず〕
背景・目的
腋窩リンパ節転移4個以上陽性患者における乳房全切除術後放射線療法(PMRT)については,局所・領域リンパ節再発の抑止のみならず,生存率への寄与も示されており,行うことが標準治療である(放射線BQ5参照)。一方,腋窩リンパ節転移1~3個陽性患者におけるPMRTについては,全例に行うべきかどうかいまだ議論の余地がある。このような患者に対するPMRTの有効性と安全性について検討する。
解 説
腋窩リンパ節転移1~3個陽性患者に対する乳房全切除術後放射線療法の益について,EBCTCGのメタアナリシス1)を用いて評価した。このメタアナリシスでは,乳房全切除術後にPMRT施行の有無をランダム化した22の試験の3,786例が対象で,少なくともレベルⅡまでの腋窩郭清が行われている。PMRTが施行された症例では,すべて胸壁と鎖骨上リンパ節・内胸リンパ節領域が照射野に含まれている。このうち,腋窩リンパ節転移1~3個陽性の1,314例での解析で,10年局所・領域リンパ節再発率は,非施行群で20.3%に対し,施行群では3.8%に低下させた〔リスク比(RR)0.24,95%CI 0.17-0.34,2p<0.00001〕。10年全再発率はPMRTにより45.7%から34.2%に低下し(RR 0.68,95%CI 0.57-0.82,2p=0.00006),20年乳癌死率に関しても50.2%から42.3%と有意な低下(RR 0.80,95%CI 0.67-0.95,2p=0.01)を認めた。
1,314例中の1,133例においては薬物療法としてCMF(シクロホスファミド,メトトレキサート,フルオロウラシル),タモキシフェンのいずれか,または両者が投与されていたが,その症例でも局所・領域リンパ節再発率(2p<0.00001),全再発率(RR 0.67,95%CI 0.55―0.82,2p=0.00009),乳癌死亡率(RR 0.78,95%CI 0.64-0.94,2p=0.01)は低下した。一方,20年全死亡率に関しては非施行群56.5%に対して施行群53.5%と低下したものの,統計学的な有意差は認められなかった(RR 0.89,95%CI 0.77-1.04)。
害については晩期有害事象についてレビューした。心疾患と二次がんについては1編のシステマティック・レビュー2)により評価した。放射線療法の有無でランダム化された75の試験,40,781例を対象にしているが,乳房温存手術後症例も含まれている。症例登録年の中央値は1983年であり,十分に長期間の経過観察が行われているが,古い照射技術が用いられていることにも留意する必要がある。乳癌の再発なしに何らかの心疾患で死亡する確率が増加した(RR 1.3,95%CI 1.15-1.46,p<0.001)。二次がんに関しては,対側乳癌罹患率が照射群で0.45%,非照射群で0.37%(RR 1.20,p<0.001),10年以降の肺癌罹患率が照射群で0.05%,非照射群で0.02%(RR 2.10,p<0.001)と増加した。乳癌を除く全二次がんの罹患率は照射群で0.50%,非照射群で0.42%(RR 1.23,p<0.001)であった。患側上肢のリンパ浮腫については2編のコホート研究をレビューした。1編はEORTC 22922/10925試験において3年の有害事象を報告したもので,胸壁または乳房のみ照射した群と内胸リンパ節を含むリンパ節領域照射を加えた群の比較である3)。もう1編はマサチューセッツ総合病院からの前向きコホート研究であり,非照射群と胸壁または乳房とリンパ節領域へ照射した群との比較である4)。この2編をメタアナリシスした結果,リンパ節領域を含めた放射線療法により,リンパ浮腫は統計学的に有意ではないものの,増加(RR 2.71,p=0.30)することが示された。頻度としては1~2割に生じる3)~5)。皮膚障害と肺障害については前述のEORTC 22922/10925試験における報告3)をレビューした。すべての皮膚毒性(皮膚炎・皮膚線維化・色素沈着・毛細血管拡張・その他)は13.6%であった。胸壁または乳房と内胸リンパ節を含むリンパ節領域照射を行った場合の3年までの肺線維症は2.8%,放射線肺臓炎0.7%,すべての肺毒性4.3%であった。2020年には同試験の15年時点での解析結果が報告され、胸壁または乳房と領域リンパ節照射を行った群で肺線維症は5.1%であった。6)
以上より,益について評価した1編のメタアナリシスでは,全生存率への有意な寄与はなかったが,局所・領域リンパ節再発の低下と乳癌死亡率の低下が認められた。害についてはPMRTのみを扱ったメタアナリシスやランダム化比較試験はなく,エビデンスの強さを「中」とした。PMRTを行うことによって心疾患による死亡や二次がんの発症率が増加するものの,その絶対値は小さい。PMRTを施行することにより,リンパ浮腫は増加し,肺障害や皮膚障害も生じる。これらを踏まえ,PMRTを受けるかどうかについて,患者の意向はばらつくと考えられる。PMRTを受ける患者にとっては,通院や治療に時間と経費がかかる。有害事象に関しては,年齢や併存症の有無,局在の左右や肥満などに依存する(放射線:総説1参照)。また,有害事象に対する患者自身の評価も,個々の価値観によって異なる。PMRTを行うことによってコストはかかるが,一方で,再発した際の治療にかかるコストは非常に高額であり,患者の心身の負担は大きい。
評価した研究が開始された時期はアロマターゼ阻害薬,トラスツズマブやタキサンなどの新規薬剤が普及する前であることから,新しい補助薬物療法の各再発率への寄与が高まっていることが想定される。その場合,放射線治療の相対的な意義が低下する可能性にも留意する必要があるが,一方では放射線治療技術の進歩による有害事象の低減もある。国外のNCCNガイドライン7)やASCO/ASTRO/SSOのガイドライン8)では,行うことを強く推奨しているが,PMRTを省略できる患者群も存在すると考えられる。推奨の強さについては3回のvotingを行ったが,強く推奨するか,弱く推奨するかで意見が分かれた。「行うことを弱く推奨する」が,1回目58%(7/12),2回目58%(7/12),最終的に67%(8/12)で決定に至らなかった。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMedで,“Breast Neoplasms”,“Lymphatic Metastasis”,“Axilla”のキーワードと,nodeの同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,542件がヒットした。一次スクリーニングで64編が抽出され,5編がハンドサーチで追加された。二次スクリーニングで7編が抽出され,定性的・定量的システマティック・レビューを行った。
エビデンス総体・システマティックレビュー・メタアナリシス
参考文献
1)EBCTCG(Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group), McGale P, Taylor C, Correa C, Cutter D, Duane F, et al. Effect of radiotherapy after mastectomy and axillary surgery on 10―year recurrence and 20―year breast cancer mortality:meta―analysis of individual patient data for 8135 women in 22 randomised trials. Lancet. 2014;383(9935):2127―35. [PMID:24656685]
2)Taylor C, Correa C, Duane FK, Aznar MC, Anderson SJ, Bergh J, et al;Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group. Estimating the risks of breast cancer radiotherapy:evidence from modern radiation doses to the lungs and heart and from previous randomized trials. J Clin Oncol. 2017;35(15):1641―9. [PMID:28319436]
3)Matzinger O, Heimsoth I, Poortmans P, Collette L, Struikmans H, Van Den Bogaert W, et al;EORTC Radiation Oncology & Breast Cancer Groups. Toxicity at three years with and without irradiation of the internal mammary and medial supraclavicular lymph node chain in stageⅠ to Ⅲ breast cancer(EORTC trial 22922/10925). Acta Oncol. 2010;49(1):24―34. [PMID:20100142]
4)Warren LE, Miller CL, Horick N, Skolny MN, Jammallo LS, Sadek BT, et al. The impact of radiation therapy on the risk of lymphedema after treatment for breast cancer:a prospective cohort study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(3):565―71. [PMID:24411624]
5)Poortmans PM, Collette S, Kirkove C, Van Limbergen E, Budach V, Struikmans H, et al;EORTC Radiation Oncology and Breast Cancer Groups. Internal mammary and medial supraclavicular irradiation in breast cancer. N Engl J Med. 2015;373(4):317―27. [PMID:26200978]
6)Poortmans PM, Weltens C, Fortpied C, Kirkove C, Peignaux-Casasnovas K, Budach V, et al. Internal mammary and medial supraclavicular lymph node chain irradiation in stage I-III breast cancer (EORTC 22922/10925): 15-year results of a randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol 2020. [PMID: 33152277]
7)NCCN. Clinical practice guidelines in oncology:BREAST CANCER, version 3.2017.
8)Recht A, Comen EA, Fine RE, Fleming GF, Hardenbergh PH, Ho AY, et al. Postmastectomy radiotherapy:an American Society of Clinical Oncology, American Society for Radiation Oncology, and Society of Surgical Oncology focused guideline update. Ann Surg Oncol. 2017;24(1):38―51. [PMID:27646018]