ステートメント
・アルコール飲料の摂取により閉経前では乳癌発症リスクが増加する可能性があり,閉経後では乳癌発症リスクが増加することはほぼ確実である。
〔エビデンスグレード:Probable(ほぼ確実)〕
背 景
アルコール飲料に含まれるエタノールおよびその代謝産物であるアセトアルデヒドには発癌性があることが実験的に示されている(二次資料①)。アルコール飲料の摂取により癌のリスクが増加するメカニズムとして,エタノールの代謝に伴う酸化ストレス,性ホルモンレベルの増加,葉酸欠乏に伴うものなどが想定されている(二次資料①)。乳癌との関連についても,欧米諸国を中心に多くのエビデンスが報告されており,それらに基づいた因果関係評価の現状について概説する。
解 説
2015年にアルコールと各種癌に関して,572件の研究と486,538例について大規模なメタアナリシスが報告された1)。乳癌に関しては43件のコホートと75件の症例対象研究が抽出されており,発症に関する研究は110件であった。
非飲酒あるいは機会飲酒者を基準にし,1日飲酒量15 g以下の軽度摂取群ではRR 1.04(1.01-1.07),1日15~50 gの中等度群でRR 1.23(1.19-1.28),1日50 g以上の重度群でRR 1.61(1.33-1.94)と用量反応関係をもってリスク増加していた。コホート研究に限定した場合,軽度摂取群で1.06(1.03-1.10),中等度摂取群RR 1.22(1.17-1.27),重度摂取群でRR 1.50(1.19-1.89)とリスク増加を認めている。
アジアに限定した場合は8件の研究があり,軽度摂取群ではRR 0.89(0.72-1.11)とリスク増加を認めなかったが,中等度摂取群ではRR 1.44(1.21-1.71)とリスク増加した。重度摂取群との比較は1件のみの研究しかなく,RR 3.44(0.47-25.14)であった。
国際的な因果関係評価として,WCRFが2017年1月に出版した報告書では,閉経前乳癌については最大摂取群と最小摂取群との比較で9件の研究が選択されており4件でリスク増加を認め,リスク減少は認めなかった(二次試料②)。
エタノールを1日10 g摂取することによるリスク増加は,10件のコホートのメタアナリシスで5%(95%CI 1.02—1.05,I—squared=0.0%,p=0.739)であった。しかし,それぞれの研究で有意差を認めたのは10件のうち1件のみであった。また,日本の研究は2件取り上げられており,いずれも明らかなリスク因子とはなっていない。
閉経後乳癌については,最大摂取群と最小摂取群との比較で20件の研究が選択されており11件でリスク増加を認め,リスク減少は認めなかった。エタノールを1日10 g摂取することによるリスクの増加は,22件のメタアナリシスで9%(95%CI 1.07-1.12,I-squared=70.7%,p=0.000)であった。また,22件のうち,有意差を認めたものは10件と多く存在した(二次資料②)。
アルコールの種類についての検討では,閉経前ではメタアナリシスでビールを1日10 g(約250 mL)摂取するごとにリスク増加したが〔n=818,RR 1.32(95%CI 1.06-1.64)〕,閉経後ではリスクは変わらなかった〔n=7,798,RR 1.06(95%CI 0.94-1.21)〕。
一方,閉経後ではメタアナリシスでワインを1日10 g(約100 mL)摂取するとリスクが増加したが〔n=3,913,RR 1.12(95%CI 1.08-1.17)〕,閉経前ではリスクは変わらなかった〔n=818,RR 1.17(95%CI 0.79-1.73)〕。
これらの結果に基づき,「アルコール飲料が閉経前乳癌のエビデンスは概ね一貫しているが,重複した研究を除いた解析では有意ではなかったため,原因となる可能性がある」と結論し,「用量反応関係は明瞭」で「閾値は同定されなかった」と総括している。
「アルコール飲料が閉経後乳癌の原因となるというエビデンスは確実である」と結論し,「用量反応関係は明瞭」で「閾値は同定されなかった」と総括している。また,一方,日本人を対象としたエビデンスに基づく評価として,厚生労働省研究班が実施した日本人を対象とする疫学研究のレビューが,2007年8月に報告された2)。本研究では,MEDLINEと医中誌を用いた文献検索により,1996~2005年に出版されたコホート研究3件と症例対照研究8件を選択した。その結果,3件のコホート研究では,飲酒によるリスク増加を認めたものが1件,有意差のないリスク減少を認めたものが1件,関連なしが1件だった。また,8件の症例対照研究では,リスク増加が2件,リスク減少が1件,関連なしが5件だった。これらの結果に基づき,本研究は,日本人女性が飲酒により乳癌発症リスクが増加するか否かについて,データ不十分と結論している。なお,本研究の詳細は,研究班のウェブサイトで参照できる(http://epi.ncc.go.jp/can_prev/outcome/outcome10.html)。本レビューの後にコホート研究から2件の報告があり,1件3)はリスク増加,1件4)は関連なしであった。しかし依然,日本人を対象としたエビデンスは少ない。
以上より,日本人の研究がいまだ少数であることから,世界におけるWCRFの結論を主として考慮し,アルコール飲料の摂取により,乳癌のリスクが増加することはほぼ確実である。なお,「用量反応関係は明瞭」で「閾値は同定されなかった」とするWCRFの総括を考慮し,飲酒量に関する閾値(2杯以上で危険増など)は設けないこととした。
検索キーワード
PubMedで“Breast Neoplasms”,“Alcohol Drinking”,“Risk”のキーワードと同義語で検索した。検索期間は2014年~2017年3月とし,245件がヒットした。その中から該当する4件を引用した。
参考にした二次資料
① IARC Working Group on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Personal habits and indoor combustions. Volume 100 E. A review of human carcinogens. IARC Monogr Eval Carcinog Risks Hum. 2012;100(Pt E):1—538. [PMID:23193840]
② World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research:Continuous Update Project. Diet, Nutrition, Physical Activity and Breast Cancer 2017. https://www.wcrf.org/int/research—we—fund/continuous—update—project—findings—reports/breast—cancer
参考文献
1)Bagnardi V, Rota M, Botteri E, Tramacere I, Islami F, Fedirko V, et al. Alcohol consumption and site—specific cancer risk:a comprehensive dose—response meta—analysis. Br J Cancer. 2015;112(3):580—93. [PMID:25422909]
2)Nagata C, Mizoue T, Tanaka K, Tsuji I, Wakai K, Inoue M, et al;Research Group for the Development and Evaluation of Cancer Prevention Strategies in Japan. Alcohol drinking and breast cancer risk:an evaluation based on a systematic review of epidemiologic evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2007;37(8):568—74. [PMID:17704531]
3)Suzuki R, Iwasaki M, Inoue M, Sasazuki S, Sawada N, Yamaji T, et al;Japan Public Health Center—Based Prospective Study Group. Alcohol consumption—associated breast cancer incidence and potential effect modifiers:the Japan Public Health Center—based Prospective Study. Int J Cancer. 2010;127(3):685—95. [PMID:19960437]
4)Kawai M, Minami Y, Kakizaki M, Kakugawa Y, Nishino Y, Fukao A, et al. Alcohol consumption and breast cancer risk in Japanese women:the Miyagi Cohort study. Breast Cancer Res Treat. 2011;128(3):817—25. [PMID:21318600]