推 奨
・フルベストラント+サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用療法を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:82%(9/11)〕・非ステロイド性アロマターゼ阻害薬耐性かつエキセメスタン未治療の場合,エキセメスタン+エベロリムス併用療法を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕・一次および二次治療で使用されていない内分泌療法薬(未使用の,アロマターゼ阻害薬,タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント,酢酸メドロキシプロゲステロンを含む)の投与を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:100%(12/12)〕
背景・目的
閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対しては,生命を脅かす病変がない場合1),病状コントロールと延命効果に期待した薬物療法としては,化学療法と比較して副作用がより少ない内分泌療法が推奨され,三次治療以降もエビデンスに応じて,内分泌療法抵抗性と判断するまでは内分泌療法を継続することが勧められる2)。
三次治療以降の内分泌療法として,最適な選択肢を検討することを目的として,本CQについて検討した。
解 説
1)フルベストラント+サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用療法について
PALOMA―3試験では,6割の患者が三次治療以降の内分泌療法として組み込まれている3)4)。この結果,PFSに関するサブグループ解析において,三次治療の症例では全体集団と同様の結果であった。四次治療以降の症例は13%と非常に少なく,かつサブグループ解析の95%信頼区間が広く,この結果をもって結論付けることはできない。OSの結果は示されておらず,クリニカルベネフィット率(CBR)やORRは全体集団では併用療法群が高かった。以上より,1本のランダム化比較試験(RCT)ではあるものの,質が高いRCTであり,エビデンスの強さは「中」とした。
有害事象も高い傾向であったが,サブグループ解析として三次治療以降の症例が同様の傾向かどうかはわからない。少なくとも,二次治療までと同様に考えると,益が十分優れると判断した。
PALOMA-3試験の解析によると,QOLはフルベストラント+サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害薬の併用群でより良好であった5)。しかし,フルベストラント単剤と比較してOS延長は示されていないこと,あくまで1つのRCTのサブ解析の結果であることや有害事象増加の可能性を加味すると,患者の希望はばらつきがあると判断した。
フルベストラントと併用した場合のパルボシクリブの医療コストについて,日本の患者負担分を想定した費用対効果分析はなされていない。2017年にパルボシクリブが保険適用されたが,125mg1カプセルが22,560.30円であり,フルベストラントを除いたパルボシクリブ投与分だけでも,1サイクル(3週間投与1週間休薬)あたり473,766.3円を要し,高額療養費制度の適用範囲となる。以上より,費用負担が患者の希望に影響する可能性がある。
推奨決定会議の投票では「行うことを強く推奨する」が18%,「行うことを弱く推奨する」が82%であった。
以上より,エビデンスの強さ,益と害のバランス,患者希望などを勘案し,推奨は「フルベストラント+サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用療法を行うことを弱く推奨する」とした。
2)非ステロイド性アロマターゼ阻害薬耐性かつエキセメスタン未治療の場合のエキセメスタン+エベロリムス併用療法について
BOLERO―2試験において,非ステロイド性アロマターゼ阻害薬既治療例の二次治療以降の内分泌療法として,エベロリムスとエキセメスタン併用とエキセメスタン単独療法が比較された6)~8)。BOLERO―2試験の結果,全体集団のPFSを有意に延長(HR 0.43,95%CI 0.35-0.54)したうえ,三次治療以降の症例におけるサブグループ解析の結果も,同様のPFSの傾向を認める。全体集団でORR,CBRは併用療法で良好であり,OSは有意差を認めなかったが,ラインごとの比較はされていない。以上より,1つの質の高いRCTであり,エビデンスの強さは「中」とした。
全体集団ではGrade 3以上の有害事象がエキセメスタン単独では8.4%であるのに対して,エベロリムスとエキセメスタン併用療法は40.9%と,高い頻度で認めた。三次治療以降の症例のみでのサブグループ解析結果はないが,益が害を上回るとはいえないと判断した。全体集団ではQOL評価では併用による単剤とのQOLの有意差は認めなかった
患者の希望については,あくまで1つのランダム化比較試験の部分集団解析の結果であることや有害事象増加の可能性を加味すると,ばらつく可能性があると判断した。
推奨決定会議の投票では,「行うことを強く推奨する」が17%,「行うことを弱く推奨する」が83%であった。
以上より,エビデンスの強さ,益と害のバランス,患者希望などを勘案し,推奨は「非ステロイド性アロマターゼ阻害薬耐性かつエキセメスタン未治療の場合,エキセメスタン+エベロリムスの併用療法を行うことを弱く推奨する」とした。
3)一次および二次治療で使用されていない内分泌療法薬(未使用の,アロマターゼ阻害薬,タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント,酢酸メドロキシプロゲステロンを含む)について
三次治療として,内分泌療法単剤療法で,Best Supportive Care,化学療法と比較して有意に成績が改善した治療は存在しない。
二次治療以降の症例に対してアロマターゼ阻害薬(AI)単剤が酢酸メゲステロールと比較して,OSを有意に延長したというメタアナリシスが存在する9)。このメタアナリシスで使用された5試験10)~13)における第三世代AI(アナストロゾール,レトロゾール,エキセメスタン)の酢酸メゲステロールに対する優越性が評価されている。これらの試験のうち,2試験において10)11),三次治療以降の内分泌療法症例が含まれているが,1試験11)では三次治療以降の症例は2%程度の患者数となっている。もともと,このメタアナリシスでは二次治療以降の症例全体における,AI単剤の酢酸メゲステロールに対するOSでの優越性が示されているものの,三次治療以降の症例に限った解析はなされていない。さらに,タモキシフェンやトレミフェンのような抗エストロゲン受容体薬のみ,既治療例という制限が存在する。よって,三次治療以降の閉経後乳癌の内分泌療法として,AI単剤と酢酸メゲステロールいずれも未治療であれば,AI療法のほうがより優先される可能性はあるものの,いずれも選択肢になり得る。
また,二次治療以降の症例で別にエキセメスタンとフルベストラントを比較した第Ⅲ相試験が存在する。EFECT試験では,非ステロイド性AI既治療例で,二次治療または三次治療以降の内分泌療法対象症例において,エキセメスタン単剤に対するフルベストラント250 mgの優越性を検証した二重盲検RCTである14)15)。このうち,フルベストラント群351例中,206例が三次治療以降症例であり,エキセメスタン群342例中195例が三次治療以降症例と,全体の6割が三次治療以降症例であった。全体集団では無増悪期間(TTP)の中央値はいずれも3.7カ月程度,ORRはフルベストラント7.4%vsエキセメスタン6.7%,CBRはフルベストラント32.2%vsエキセメスタン31.5%であり,最終的にいずれも有意差を認めていない。サブグループ解析において,三次治療以降症例だけの成績は出ていないが,TTPに関した事前に決まっていたサブグループ解析においても,フルベストラントとエキセメスタンのいずれかがより有効であるという結果は出ていない。また,トレミフェンについては,非ステロイド性AI既治療例を対象として,エキセメスタン25 mgとトレミフェン120 mgを比較した第Ⅱ相RCTが行われている16)。このうち,トレミフェン群の74%,エキセメスタン群の71%が三次治療以降の症例であった。全体集団の解析ではエキセメスタンと比較してプライマリーエンドポイントであるCBR,およびセカンダリーエンドポイントであるORR,OSは統計学的有意差を認めなかったが,PFSはトレミフェン120 mg群で良好であった。この試験でも治療ラインごとの検討はなされていない。
閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する三次内分泌療法としてこれら内分泌療法単剤の有効性は,上記のように,各研究の部分集団ではあるが,PFS,ORRやCBRは推定可能である。以上より,三次治療以降の内分泌療法に特化したRCTは認められず,いずれの薬剤もエビデンスの強さは「弱」とした。
有害事象も,ラインが進むにつれて,通常の報告よりも増えるという報告ではなかった。前治療の効果などを参考に,内分泌療法への感受性が期待される症例では,益が害を上回る可能性がある。
患者の希望については,有効性の不確実さや,費用や投与経路も考慮され,ばらつく可能性がある。
推奨決定会議の投票では,「行うことを弱く推奨する」で全員一致した。
これらの対象における内分泌療法の有効性を明確に裏付けるエビデンスには乏しいものの,前治療の内分泌療法への反応性や,有害事象とのバランスを考慮したうえで,主治医が一次および二次治療で使用されていない内分泌療法薬を患者に提案することは,考慮されるべき選択肢であると考えられる。
以上より,エビデンスの強さ,益と害のバランス,患者希望などを勘案し,推奨文は「一次および二次治療で使用されていない内分泌療法薬(未使用の,アロマターゼ阻害薬,タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント,酢酸メドロキシプロゲステロンを含む)の投与を弱く推奨する」とした。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMedで“Breast Neoplasms”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Estrogen Antagonists”,“Gonadotropin―Releasing Hormone”,“Aromatase Inhibitors”,“Receptor, ErbB―2”,“Cyclin―Dependent Kinases”,“Protein Kinase Inhibitors”,“Everolimus”,“Receptors, Estrogen”のキーワードと,“Postmenopause”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,1,334件がヒットし,2編の論文が追加された。その後,一次スクリーニングにおいて105編の論文が抽出された。
二次スクリーニングにより内容が適切ではないと判断した論文を除外し,アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用についての検討で,最終的にランダム化比較試験1編,QOL解析1編と総説1編17)の合計3編の論文に対して,定性的システマティック・レビューを行った。
また,二次スクリーニングにより内容が適切ではないと判断した論文を除外し,非ステロイド性アロマターゼ阻害薬耐性かつエキセメスタン未治療の場合,エキセメスタン+エベロリムスについての検討で,最終的にランダム化比較試験1編とそのフォローアップ論文2編および総説1編の合計4編の論文に対して,定性的システマティック・レビューを行った。
さらに,二次スクリーニングにより内容が適切ではないと判断した論文を除外し,一次および二次治療で使用されていない内分泌療法薬(未使用の,アロマターゼ阻害薬,タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント,酢酸メドロキシプロゲステロンを含む)についての検討で,最終的にランダム化比較試験7編とメタアナリシス1編および総説1編の合計9編の論文に対して,定性的システマティック・レビューを行った。
システマティックレビュー
参考文献
1)Cardoso F, Costa A, Senkus E, Aapro M, Andre F, Barrios CH, et al. 3rd ESO―ESMO international consensus guidelines for Advanced Breast Cancer(ABC 3). Breast. 2017;31:244―59. [PMID:27927580]
2)Hortobagyi GN. Treatment of breast cancer. N Engl J Med. 1998;339(14):974―84. [PMID:9753714]
3)Turner NC, Ro J, Andre F, Loi S, Verma S, Iwata H, et al;PALOMA3 Study Group. Palbociclib in hormone―receptor―positive advanced breast cancer. N Engl J Med. 2015;373(3):209―19. [PMID:26030518]
4)Cristofanilli M, Turner NC, Bondarenko I, Ro J, Im SA, Masuda N, et al. Fulvestrant plus palbociclib versus fulvestrant plus placebo for treatment of hormone―receptor―positive, HER2―negative metastatic breast cancer that progressed on previous endocrine therapy(PALOMA―3):final analysis of the multicentre, double―blind, phase 3 randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2016;17(4):425―39. [PMID:26947331]
5)Harbeck N, Iyer S, Turner N, Cristofanilli M, Ro J, Andre F, et al. Quality of life with palbociclib plus fulvestrant in previously treated hormone receptor―positive, HER2―negative metastatic breast cancer:patient―reported outcomes from the PALOMA―3 trial. Ann Oncol. 2016;27(6):1047―54. [PMID:27029704]
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7)Yardley DA, Noguchi S, Pritchard KI, Burris HA 3rd, Baselga J, Gnant M, et al. Everolimus plus exemestane in postmenopausal patients with HR(+)breast cancer:BOLERO―2 final progression―free survival analysis. Adv Ther. 2013;30(10):870―84. [PMID:24158787]
8)Piccart M, Hortobagyi GN, Campone M, Pritchard KI, Lebrun F, Ito Y, et al. Everolimus plus exemestane for hormone―receptor―positive, human epidermal growth factor receptor―2―negative advanced breast cancer:overall survival results from BOLERO―2†. Ann Oncol. 2014;25(12):2357―62. [PMID:25231953]
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12)Buzdar AU, Jonat W, Howell A, Jones SE, Blomqvist CP, Vogel CL, et al. Anastrozole versus megestrol acetate in the treatment of postmenopausal women with advanced breast carcinoma:results of a survival update based on a combined analysis of data from two mature phase Ⅲ trials. Arimidex Study Group. Cancer. 1998;83(6):1142―52. [PMID:9740079]
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15)Mauriac L, Romieu G, Bines J. Activity of fulvestrant versus exemestane in advanced breast cancer patients with or without visceral metastases:data from the EFECT trial. Breast Cancer Res Treat. 2009;117(1):69―75. [PMID:19030986]
16)Yamamoto Y, Ishikawa T, Hozumi Y, Ikeda M, Iwata H, Yamashita H, et al. Randomized controlled trial of toremifene 120 mg compared with exemestane 25 mg after prior treatment with a non―steroidal aromatase inhibitor in postmenopausal women with hormone receptor―positive metastatic breast cancer. BMC Cancer. 20136;13:239. [PMID:23679192]
17)Rugo HS, Rumble RB, Macrae E, Barton DL, Connolly HK, Dickler MN, et al. Endocrine therapy for hormone receptor―positive metastatic breast cancer:American Society of Clinical Oncology Guideline. J Clin Oncol. 2016;34(25):3069―103. [PMID:27217461]