推 奨
・卵巣機能抑制とタモキシフェンの併用療法を行うことを強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:強,合意率:100%(12/12)〕
・卵巣機能抑制を行い,閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌の一次療法と同様の治療を行うことを弱く推奨する(薬物CQ15参照)。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:83%(10/12)〕
背景・目的
閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対して,生命に差し迫った状況でない場合にはまず内分泌療法を考慮すべきである1)。前治療の有無,術後薬物療法終了からの期間等を考慮し,一次治療の手段としてどのような治療が推奨されるか検証した。一次内分泌療法の定義については「薬物療法2.転移・再発乳癌 総説」を参照のこと。
解 説
(1) 卵巣機能抑制とタモキシフェンの併用療法について
閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法としてタモキシフェン,卵巣機能抑制,およびその両者併用の治療法を比較した小規模のランダム化比較試験やそれらのメタアナリシスが行われている。タモキシフェンと卵巣機能抑制を比較した4試験のランダム化比較試験のメタアナリシス(n=220)では,両群の効果に関して有意な差を認めなかった2)。LH―RHアゴニスト単独,タモキシフェン単独およびその両者併用とのランダム化比較試験(n=161)において,両者併用が各単独投与に比べ生存期間の有意な延長を示した(生存期間中央値:2.5年,2.9年,3.7年;LH―RHアゴニストvs併用:HR 1.95,95%CI 1.23―3.10;タモキシフェンvs併用:HR 1.63,95%CI 1.03―2.59)3)。LH―RHアゴニストとタモキシフェンの併用とLH―RHアゴニスト単独を比較した4試験のランダム化比較試験のメタアナリシス(n=506)では両者併用において生存期間の延長を認めた(生存期間中央値:2.5年vs 2.9年;HR 0.78,95%CI 0.63―0.96)4)。
タモキシフェン単独療法と比較して,LH―RHアゴニストとタモキシフェンの併用療法によるほてり感や不正出血などの増加や新たな有害事象を認めなかった4)。したがって,タモキシフェン単独と比較して卵巣機能抑制とタモキシフェン併用による益は害に勝ると考えられる。
転移・再発乳癌は治癒困難であり,最適な内分泌療法の治療順序は明らかになっていないため,患者の希望や価値観にはばらつきがあると考えられる。卵巣機能抑制方法は一般的にLH―RHアゴニストが用いられているが,他に手術療法などの選択肢もあるため,それぞれの合併症や治療期間,コストなどを患者と話し合って決めるべきである。
以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は,「卵巣機能抑制とタモキシフェンの併用療法を行うことを強く推奨する」とした(薬物療法BQ3参照)。
(2) 卵巣機能抑制を行い,閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌の一次療法と同様の治療を行うことについて
上記の臨床試験やメタアナリシスは2000年前後に報告されているが,それ以降において閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する質の高い新たな臨床試験は少ないのが現状である。一方で閉経後患者に対してはさまざまな機序の内分泌療法やそれと併用可能な分子標的薬が次々に開発されているため,欧米のガイドラインでは閉経前のホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対してはまず卵巣機能抑制を行い,閉経後と同様の治療を行うように推奨している5)~7)。閉経前の転移乳癌に対する二次内分泌療法では,卵巣機能抑制を行った後に閉経後の内分泌療法やサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬を用いる有用性が明らかになっている8)~11)。また、閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌患者の一次内分泌療法として行われたMONALEESA-7試験で、タモキシフェン、レトロゾールもしくはアナストロゾールのいずれか一剤とゴセレリンの併用に対して、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬であるribociclib上乗せの有効性が検証され、ribociclib併用群で無増悪生存期間の有意な延長と(ribociclib群:23.8カ月,プラセボ群:13.0カ月,HR 0.55, 95% CI 0·44–0·69; p<0·0001)12)、全生存期間の有意な延長が示されている(ribociclib群:Not reached,プラセボ群:40.9カ月,HR 0.71, 95% CI 0·54–0·95; p<0·00973) 13)。以上より一次内分泌療法におけるエビデンスは少ないが,閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対してはまず卵巣機能抑制を行い,閉経後乳癌の一次療法と同様の内分泌療法を考慮してもよい。なお、本邦では閉経前、閉経後患者の一次、二次内分泌療法におけるタモキシフェン(±ゴセレリン)に対するパルボシクリブの上乗せ効果を検証するアジア国際共同のランダム化比較試験(PATHWAY試験)が進行中である。
閉経後の内分泌療法を使用することに関する益と害のバランスに関して有用なエビデンスはないが,内分泌療法による害は大きくないため,益は害に勝ると考えられる。
卵巣機能抑制下に閉経後の内分泌療法を選択することによって選択肢が増え,患者の希望にはばらつきがあると考えられる。閉経後の内分泌療法であるアロマターゼ阻害薬は後発品も出ており,コストの差は大きくない。アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬併用療法の医療経済評価については「薬物療法CQ15,解説 1)」を参照のこと。
以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「卵巣機能抑制を行い,閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌の一次療法と同様の治療を行うことを弱く推奨する」とした(薬物療法CQ15参照)。
なお、術後内分泌療法中、もしくは終了後12カ月以内に再発した患者に対する一次内分泌療法に関しては、過去の多くの試験において二次内分泌療法の患者とともに治療効果を評価されている。このため原則としてCQ14の推奨に準ずることとする [薬物療法2.転移・再発乳癌 総説4)参照 ]。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Premenopaus”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”,“Estrogen Antagonists”,“Gonadotropin―Releasing Hormone”,“Aromatase Inhibitors”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,172件がヒットした。一次,二次スクリーニングで8編の論文のみが抽出された(システマティック・レビュー1編,メタアナリシス2編,ランダム化比較試験:LH―RHa 4―weekly vs. 12―weekly 1編,PALOMA―3サブグループ解析1編,シングルアーム試験3編)。2000年以降ランダム化比較試験は2編のみで,2016年にASCOがシステマティック・レビューを行っており,新たにメタアナリシス等は行わなかった。2019年4月時点で閉経前患者に対する一次内分泌療法に関するランダム化比較試験についてハンドサーチを行い、MONALEESA-7試験の論文1編が該当したため、今回追加した。
エビデンス総体・システマティックレビュー
参考文献
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3)Klijn JG, Beex LV, Mauriac L, van Zijl JA, Veyret C, Wildiers J, et al. Combined treatment with buserelin and tamoxifen in premenopausal metastatic breast cancer:a randomized study. J Natl Cancer Inst. 2000;92(11):903―11. [PMID:10841825]
4)Klijn JG, Blamey RW, Boccardo F, Tominaga T, Duchateau L, Sylvester R;Combined Hormone Agents Trialists’ Group and the European Organization for Research and Treatment of Cancer. Combined tamoxifen and luteinizing hormone―releasing hormone(LHRH)agonist versus LHRH agonist alone in premenopausal advanced breast cancer:a meta―analysis of four randomized trials. J Clin Oncol. 2001;19(2):343―53. [PMID:11208825]
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