推 奨
・乳房再建を希望するリンパ節転移陽性乳癌患者に対して,乳房全切除術後の一次乳房再建は弱く勧められる。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率92%(11/12)〕
背景・目的
乳癌術後の乳房再建を希望する患者は年々増加している。特に一次乳房再建が増加しているが,その際に患者の適応基準が重要となる。今回は,リンパ節転移陽性患者にスポットを当てて,安全性,有用性について検証した。
解 説
リンパ節転移陽性乳癌に対する乳房全切除術のみの症例と一次乳房再建を同時に施行した症例の比較検討を目的とした。ただし,リンパ節転移陽性乳癌症例のみの集積研究は存在しないので,リンパ節転移陽性症例を含む症例対照研究論文を検討した1)~8)。抽出した論文の症例数を集積した結果,初回手術時のリンパ節転移陽性症例率は乳房全切除単独群が53.1%(3,250/6,119例),一次再建群が37.3%(1,183/3,168例)であった。乳房全切除単独群のほうが若干リンパ節転移陽性率は高いが,症例対照研究論文としては有効と考えた。
本CQにおける推奨の作成にあたっては,「害」としての全生存率の低下,無再発生存率の低下,局所再発率と遠隔転移率を重要視した。その結果,全生存率は,乳房全切除単独群が86.7%(2,176/2,509例),一次再建群が91.3%(1,528/1,674例)であった。無再発生存率は,乳房全切除単独群が81.7%(2,051/2,509例),一次再建群が85.5%(1,431/1,674例)であった。局所再発率は,乳房全切除単独群が3.5%(214/6,119例),一次再建群が4.0%(126/3,168例)であった。遠隔転移率は,乳房全切除単独群が9.9%(525/5,309例),一次再建群が6.7%(206/3,081例)であった。そして,それぞれの項目の両群間に有意差は認めなかった。
これらの「害」の項目は論文間で術後観察期間に若干のばらつきがあるものの,両群間に差はなく,腋窩リンパ節転移症例であっても一次再建が生存率に及ぼす影響はないものと思われた。また,術後の合併症も両群間に有意差はなく一次再建を行っても合併症が有意に増えることはないと思われた。「益」としての患者QOLの向上は,すべての論文で比較検討はなされていないが,当然の結果として一次再建群のほうがQOLは高いものとして論じられている。
腋窩リンパ節転移が4個以上陽性であった場合は,通常胸壁への放射線照射が行われる。放射線照射が行われると,インプラントによる再建では高度な被膜拘縮を生じる可能性が高くなり,乳房の整容性が損なわれる(放射線CQ8参照)。さらに,日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会が定める「乳癌および乳腺腫瘍術後の乳房再建を目的としたゲル充填人工乳房および皮膚拡張器に関する使用要件基準」において,乳房再建用皮膚拡張器の適応基準は,術前診断においてStageⅡ以下で皮膚浸潤,大胸筋浸潤や高度のリンパ節転移を認めない症例と定義されている。したがって,腋窩リンパ節転移が周囲組織への固定あるいはリンパ節癒合を認めた場合にはStage Ⅲ以上となるので,保険適用である乳房再建用皮膚拡張器は原則として使用できないという欠点を有する。
一次乳房再建は患者の意向が強く関与する手術である。再建を希望する患者に対してそれを否定するエビデンスは認められない。一方,リンパ節転移陽性患者に積極的に一次再建を勧めるエビデンスも見当たらない。したがって,再建を希望する患者に対しては,術前に術後放射線治療を行う可能性のあることや再建手術による合併症(漿液腫や感染)について十分に説明を行い,理解を得たうえで手術を行う必要がある。手術コストに関してはすべての再建方法が保険適用となったため,患者負担が特に高額になるということはない。社会的にみた医療コストとしては,乳癌患者の術後QOLを改善するという意味では適正な額と考えられる。患者の希望に関しては,再建の希望の強さにより,価値観のばらつきは大きいと考えられた。
以上,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者希望などを勘案し,「乳房再建を希望するリンパ節転移陽性乳癌患者に対して,乳房全切除術後の一次乳房再建は弱く勧められる」とした。
検索キーワード・参考にした二次資料
PubMedで“Lymphatic Metastasis”,“Lymph Node Excision”,“Surgery, Plastic”,“Breast”,“Mammaplasty”,“Breast Implantation”,“Breast Implants”で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,103件がヒットした。それ以外にハンドサーチで1編の論文が追加された。一次スクリーニングで9編の論文が抽出され,二次スクリーニングで8編の論文が抽出された。これらの抽出した論文に対して定性的システマテック・レビューを行った。
エビデンス総体・システマティックレビュー
参考文献
1)Park SH, Han W, Yoo TK, Lee HB, Jin US, Chang H, et al. Oncologic safety of immediate breast reconstruction for invasive breast cancer patients:a matched case control study. J Breast Cancer. 2016;19(1):68―75. [PMID:27064557]
2) Ryu JM, Paik HJ, Park S, Yi HW, Nam SJ, Kim SW, et al. Oncologic outcomes after immediate breast reconstruction following total mastectomy in patients with breast cancer:a matched case―control study. J Breast Cancer. 2017;20(1):74―81. [PMID:28382097]
3)Lim W, Ko BS, Kim HJ, Lee JW, Eom JS, Son BH, et al. Oncological safety of skin sparing mastectomy followed by immediate reconstruction for locally advanced breast cancer. J Surg Oncol. 2010;102(1):39―42. [PMID:20578076]
4)Petit JY, Gentilini O, Rotmensz N, Rey P, Rietjens M, Garusi C, et al. Oncological results of immediate breast reconstruction:long term follow―up of a large series at a single institution. Breast Cancer Res Treat. 2008;112(3):545―9. [PMID:18210199]
5)Eriksen C, Frisell J, Wickman M, Lidbrink E, Krawiec K, Sandelin K. Immediate reconstruction with implants in women with invasive breast cancer does not affect oncological safety in a matched cohort study. Breast Cancer Res Treat. 2011;127(2):439―46. [PMID:21409394]
6)Reddy S, Colakoglu S, Curtis MS, Yueh JH, Ogunleye A, Tobias AM, et al. Breast cancer recurrence following postmastectomy reconstruction compared to mastectomy with no reconstruction. Ann Plast Surg. 2011;66(5):466―71. [PMID:21451372]
7)Lee TJ, Hur WJ, Kim EK, Ahn SH. Outcome of management of local recurrence after immediate transverse rectus abdominis myocutaneous flap breast reconstruction. Arch Plast Surg. 2012;39(4):376―83. [PMID:22872842]
8)Peled AW, Wang F, Foster RD, Alvarado M, Ewing CA, Sbitany H, et al. Expanding the indications for total skin―sparing mastectomy:is it safe for patients with locally advanced disease? Ann Surg Oncol. 2016;23(1):87―91. [PMID:26170194]