BQ10a インプラントを用いた場合
ステートメント
・インプラントを用いた乳房再建はあまり勧められない。
BQ10b 自家組織を用いた場合
ステートメント
・自家組織を用いた乳房再建は可能である。
背 景
乳房再建は乳癌術後患者の整容性向上を目指した手技として広く行われている。再建術の有用性は整容的満足度に依存するため,術後合併症は極力避けて皮膚・皮下組織等の組織障害のリスクは最低限に抑える必要がある。しかし昨今,乳房温存療法(乳房部分切除+放射線療法)後の乳房内再発や,乳房全切除後放射線療法などの照射歴を有する患者の再建希望が増加している。今回,これらの胸壁照射歴を有する患者に対する乳房再建の妥当性を概説する。
解 説
照射後の乳房再建に関しては,インプラントあるいは自家組織を用いた再建における合併症の頻度について検討している論文が多い。Momohらは26編の文献についてレビューを行い,照射後のインプラントを用いた再建における合併症に言及している1)。その結果,軽度被膜拘縮は30%,重度被膜拘縮は25%に認め,漿液腫,軽度感染・創治癒遅延・乳房皮膚部分壊死などの軽度合併症は18%,インプラント露出,創離開,重度感染などの重度合併症は49%に認められたと報告し,非照射でインプラント再建を行った場合の合併症と比較して発症頻度が高かった。Berbersらは37編の文献についてレビューを行い,照射後と照射前に再建を行った症例を比較検討した2)。その結果,インプラントを用いた再建では照射後再建群のほうが合併症は多く,修正手術が42.4%に必要であったが,再建後照射群では修正手術は8.5%であった。しかし,逆に自家組織を用いた再建では再建後照射群のほうが合併症は多く,修正手術も照射後再建群の11.5%に対して,再建後照射群では23.6%であったと報告した。Leeらは20編の文献についてメタアナリシス(n=8,251)およびレビューを行い,照射後再建群と非照射再建群を比較検討した3)。その結果,インプラントを用いた照射後再建群は感染,乳房皮膚壊死,漿液腫などの合併症やそれに伴う再修正手術が非照射再建群に比較して約2倍多く認められ,被膜拘縮に関しては3倍以上認められた。また,被覆材であるヒト無細胞化真皮基質(acellular dermal matrix;ADM)を使用した症例や一次再建のほうが合併症は多かった。一方,自家組織を用いた照射後再建群の合併症は非常に少なかったと報告している。腹直筋皮弁による再建を検討した論文では,照射群と非照射群では皮弁の血行に差異はなかったが,乳房全切除術時の乳房皮弁の創傷治癒に関しては照射群が高率に問題を生じていた4)。また,胸壁照射後に自家組織(広背筋皮弁)+インプラントで再建した28人の検討では,平均28.8カ月の時点で,すべての患者で被膜拘縮はなく満足度は高かったと報告されている5)。以上の報告により,照射を受けた胸壁組織をインプラントを被覆する再建材料として使用する再建は合併症が多く,血行の良好な組織を移植して行う自家組織による再建は胸壁照射後であっても合併症が少ないことがわかった。
インプラントによる再建は非照射の場合であっても,多くの症例でエキスパンダーによる皮膚伸展の負担が存在する。胸壁照射後の場合は,照射野の皮膚が障害され変性しているため,伸展に対する弊害はさらに大きくなる可能性が高い。また照射の範囲や程度が,再建術の成否に重要な因子となるため6),肉眼的に皮膚に問題がない場合でも,照射の範囲などによりインプラント再建の適応を決めるべきであるとの報告もある6)7)。照射後のインプラントによる再建は,合併症発生率が増加することから慎重に行うべきであるとの報告が散見される1)8)。したがって,照射後にインプラントによる再建を強く希望する患者に対しては,術後合併症について十分説明したうえで慎重に行わなければならない。一方,自家組織による再建は照射後の再建であっても皮弁血行には問題なく,照射皮膚をエキスパンダーにより伸展しないのであれば再建にはあまり影響を与えない。しかし,非照射患者に比べれば照射皮膚に関連する合併症の頻度が増加することは避けられないため,胸壁照射後の自家組織を用いた乳房再建においても適応には注意が必要である。
検索キーワード・参考にした二次資料
「乳癌診療ガイドライン①治療編2015年版」の同クエスチョンの参考文献に加え,PubMedで“Mammaplasty”,“Breast Implantation”,“Breast Implants”,“Breast Neoplasms”のキーワードで検索した。検索期間は2014年1月から2016年11月までとし,95件がヒットした。この中から主要な論文を抽出した。
参考文献
1)Momoh AO, Ahmed R, Kelley BP, Aliu O, Kidwell KM, Kozlow JH, et al. A systematic review of complications of implant―based breast reconstruction with prereconstruction and postreconstruction radiotherapy. Ann Surg Oncol. 2014;21(1):118―24. [PMID:24081801]
2)Berbers J, van Baardwijk A, Houben R, Heuts E, Smidt M, Keymeulen K, et al.‘Reconstruction:before or after postmastectomy radiotherapy?’A systematic review of the literature. Eur J Cancer. 2014;50(16):2752―62. [PMID:25168640]
3)Lee KT, Mun GH. Prosthetic breast reconstruction in previously irradiated breasts:A meta―analysis. J Surg Oncol. 2015;112(5):468―75. [PMID:26374273]
4)Bristol SG, Lennox PA, Clugston PA. A comparison of ipsilateral pedicled TRAM flap with and without previous irradiation. Ann Plast Surg. 2006;56(6):589―92. [PMID:16721067]
5)Spear SL, Boehmler JH, Taylor NS, Prada C. The role of the latissimus dorsi flap in reconstruction of the irradiated breast. Plast Reconstr Surg. 2007;119(1):1―9;discussion 10―1. [PMID:17255645]
6)Grolleau JL, Lanfrey E, Zeybeck C, Chavoin JP, Costagliola M.[Effect of irradiation fields on the results of breast reconstruction with skin expansion after radiotherapy]. Ann Chir Plast Esthet. 1997;42(6):609―14. [PMID:9768103]
7)Evans GR, David CL, Loyer EM, Strom E, Waldron C, Ortega R, et al. The long―term effects of internal mammary chain irradiation and its role in the vascular supply of the pedicled transverse rectus abdominis musculocutaneous flap breast reconstruction. Ann Plast Surg. 1995;35(4):342―8. [PMID:8585674]
8)Eriksson M, Anveden L, Celebioglu F, Dahlberg K, Meldahl I, Lagergren J, et al. Radiotherapy in implant―based immediate breast reconstruction:risk factors, surgical outcomes, and patient―reported outcome measures in a large Swedish multicenter cohort. Breast Cancer Res Treat. 2013;142(3):591―601. [PMID:24258257]