2021年3月31日更新

CQ2.浸潤性乳管癌/非浸潤性乳管癌に対する乳房温存手術において,断端陽性と診断された場合に外科的切除は勧められるか?

1.乳癌初期治療における乳房手術

推 奨
・乳房温存手術において切除断端陽性と診断された場合に,外科的切除を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:100%(12/12)〕

背景・目的

乳房温存療法後の局所再発率が近年低下している。摘出標本の病理報告書をもとに術後の追加治療が検討されてきたが,整容性を低下させる外科的追加切除を安全に避けられる対象を明らかにすることが求められている。断端に関する病理診断(乳癌診療ガイドライン②疫学・診断編2018年版,病理BQ6参照)に対する指針を,現在得られるエビデンスをもとに検討する。

解 説

乳房温存手術や手術標本の取り扱い,病理診断には各国,地域,病院や治療医ごとに違いがあり,乳房温存手術後の断端診断の基準を完全に統一することは難しく,断端陽性には多様な病態が混在している。そのため乳房温存手術後に断端陽性と診断されたとき,追加の外科的治療が必要か,放射線療法のみで十分であるのかを明らかにした前向きのランダム化比較試験は存在せず,今回のCQに対して明確な回答を得る十分なエビデンスはない。一方,2014年にSSO(Society of Surgical Oncology)とASTRO(American Society for Radiation Oncology)が,浸潤癌における乳房温存療法時の断端を定めるガイドラインを共同で発表した1)。このSSO/ASTROのガイドラインで断端の定義がなされるきっかけとなったHoussamiらのメタアナリシス2)をもとに,今回のCQについて検討した。

このメタアナリシスでは,1979~2001年に治療が行われた浸潤性乳管癌に対する乳房温存手術後の局所再発と病理組織学的に明確な断端基準が記載されている33の報告が対象となっている。断端陽性〔各試験(施設)による定義〕は断端陰性の2倍の局所再発リスクがみられ〔OR 1.97(CI:1.73-2.25),p<0.001)〕,全身治療,ブースト照射追加,ホルモン受容体の有無による補正をしてもその傾向は変わらなかった。また,断端陰性のマージン幅(>0 mm,1 mm,2 mm,5 mm)による,局所再発率を検討したところ,オッズ比はマージン幅が広くなるにつれて小さくなる傾向はあったが(OR;1.47,1.0,0.95,0.65,p=0.12),ばらつきが大きく有意な差はみられなかった。断端陰性と診断するためのより広いマージン幅は,狭いマージン幅と比べて長期的には利益になっていないようであると結論付けている。断端陽性は陰性に比べて有意に局所再発率が高まるという結論は,対象となっている33研究で結果に一貫性があり,2014年のSSO/ASTROのガイドラインでは,断端陽性の定義は切除断端に浸潤癌もしくは非浸潤癌の露出があることと定義して,再切除の適応を決めるべきであるとしている1)

大半が後ろ向きの観察研究であること,今回のCQを直接検討しているメタアナリシスではないことから,エビデンスの強さは「弱」とした。外科的追加切除を行うことで,局所再発リスクを低減することが本治療方針の「益」であり,温存乳房内の局所再発を減らすことが乳癌死を減少させるということはEBCTCGのメタアナリシスで述べられている(外科:1.乳癌初期治療における乳房手術 総説参照)。外科的追加切除が乳癌死の減少に寄与する可能性については,イベント発生リスクが少なく,また,研究ごとのバイアスが大きいため,本メタアナリシスでは検討されていない。

また,今回の検討論文のなかで言及はなかったが,外科的追加切除を行うことに整容性の低下,再度の外科治療に伴う入院・治療費用の増加といった「害」があることは明らかである。2014年の米国でのガイドライン施行以後,乳房温存手術後の外科的追加切除が16%減少したことが報告されているように3),治療成績が保証されるのであれば患者はより侵襲が少ない治療を望むことが予想される。

非浸潤性乳管癌(DCIS)に対しての乳房温存手術についても浸潤癌と同様に,適切なマージン幅とそれに対する治療方針に関して統一したガイドラインはなかったため,同様のメタアナリシスが施行された4)。局所再発と,病理組織学的に断端状況が定義された20の報告を解析すると,断端陰性〔各試験(施設)による定義〕は断端陽性+近接に対して局所再発リスクが半分となっていた(OR 0.53,p>0.001)。さらにネットワークアナリシスでの解析では,断端陰性のマージン幅(>0 or 1 mm,2 mm,3 or 5 mm,10 mm)による局所再発率のオッズ比はいずれも有意に低く算出された(OR:0.45,0.32,0.30,0.32)。この結果を受けて,2016年にSSO/ASTROがDCISに対する温存療法のガイドラインとして,2 mm以上のマージン幅をDCISの至適マージンとして(断端の定義を2 mmとすることに関しての明確なエビデンスはない)全乳房照射をすることは,局所再発率を低く抑え,かつ再手術率を低下させることにつながるとしている5)

病理診断における断端陽性には多様なケースが存在する。画像で描出し得なかった多量の癌が残っている状況から,ごく少量の癌しか遺残していない状況,また癌細胞の性質によっては,癌遺残があっても術後の放射線療法や全身治療で長期間コントロールされるものや,少量の癌遺残であっても直ちに再発をきたすものがある。断端状況に加えて癌の性質等も考慮した臨床医の総合判断をもとに,追加治療の是非を相談することが望ましい。特に非浸潤癌においては,完全に切除がなされれば完治し得る病態であること,局所再発の半数は浸潤癌として再発することが知られており,患者を含めて慎重に検討することが望ましい。患者の希望については,個々の年齢や病理状況によってさまざまであるが,治療成績が保証されるのであればより侵襲の少ない治療が選択される可能性がある。

以上より,エビデンスの強さ,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は,「乳房温存手術において切除断端陽性と診断された場合に,外科的切除を弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Mastectomy,Segmental”,“Neoplasm Recurrence,Local”,“positive”,“margin”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,546件がヒットした。一次~二次スクリーニングで抽出された論文のなかで,今回のCQに適切と思われる最新のシステマティック・レビュー論文にハンドサーチの論文を加え,定量的および定性的システマティック・レビューを行った。

エビデンス総体(2a/2b)・システマティックレビュー(2a/2b

参考文献

1)Buchholz TA, Somerfield MR, Griggs JJ, El―Eid S, Hammond ME, Lyman GH, et al. Margins for breast―conserving surgery with whole―breast irradiation in stageⅠ and Ⅱ invasive breast cancer:American Society of Clinical Oncology endorsement of the Society of Surgical Oncology/American Society for Radiation Oncology consensus guideline. J Clin Oncol. 2014;32(14):1502―6. [PMID:24711553]

2)Houssami N, Macaskill P, Marinovich ML, Morrow M. The association of surgical margins and local recurrence in women with early―stage invasive breast cancer treated with breast―conserving therapy:a meta―analysis. Ann Surg Oncol. 2014;21(3):717―30. [PMID:24473640]

3)Morrow M, Abrahamse P, Hofer TP, Ward KC, Hamilton AS, Kurian AW, et al. Trends in reoperation after initial lumpectomy for breast cancer:addressing overtreatment in surgical management. JAMA Oncol. 2017;3(10):1352―7. [PMID:28586788]

4)Marinovich ML, Azizi L, Macaskill P, Irwig L, Morrow M, Solin LJ, et al. The association of surgical margins and local recurrence in women with ductal carcinoma in situ treated with breast―conserving therapy:a meta―analysis. Ann Surg Oncol. 2016;23(12):3811―21. [PMID:27527715]

5)Morrow M, Van Zee KJ, Solin LJ, Houssami N, Chavez―MacGregor M, Harris JR, et al. Society of Surgical Oncology―American Society for Radiation Oncology―American Society of Clinical Oncology consensus guideline on margins for breast―conserving surgery with whole―breast irradiation in ductal carcinoma in situ. J Clin Oncol. 2016;34(33):4040―6. [PMID:27528719]

保護中: 乳癌診療ガイドライン2018年版

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