A.男性乳がんに対する治療の考え方は,基本的には女性乳がんと同じです。また,男性乳がんの予後は女性乳がんと比べて大きな差はありません。

解説

治療に関する基本的な考え方

乳がん患者さんの約150人に1人が男性と,男性乳がんは比較的まれです。男性乳がんの患者さんの約15~20%に乳がんの家族歴があります。男性乳がんの予後は女性乳がんと大きな差はありません。

男性乳がんに対する治療の流れは,基本的には女性乳がんと同じです(☞Q19参照)。最初に受ける治療を「初期治療」と呼びますが,「初期治療」には外科手術,放射線療法といった「局所治療」と,化学療法(抗がん薬治療),ホルモン療法,抗HER2(ハーツー)療法(分子標的治療)による「全身治療」があります。最適な治療方針を決めるには,浸潤(しんじゅん)がんか非浸潤がんか,ホルモン受容体やHER2タンパクは陽性か,悪性度(グレード)はどうか,腋窩(えきか)リンパ節転移はあるのか,などの検討が重要です(☞Q18, 30参照)

手術療法および放射線療法

男性乳がんはその発症部位が乳輪乳頭付近となることから,乳房全切除術が選択されます。放射線療法も女性乳がんに準じて行います(☞Q32, 33, 35参照)。

術後薬物療法

術後薬物療法に使われる薬には,抗がん薬,ホルモン療法薬,抗HER2薬であるトラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)の3種類があります(☞Q38参照)。術後ホルモン療法としては,アロマターゼ阻害薬の有効性についてはデータが乏しいので,副作用などの観点から,タモキシフェン投与が困難な場合を除いて,タモキシフェンの投与が勧められます。

男性乳がんに対する術後化学療法(☞Q46参照)では,十分なデータがありませんが,女性乳がんのデータを考慮して,必要に応じて使用することが妥当と考えられます。HER2陽性乳がん(☞Q30, 50参照)の場合は,女性乳がんの場合と同様に抗HER2薬であるトラスツズマブの使用が勧められます。

再発・転移男性乳がん

男性乳がんが再発・転移した場合の治療の基本的な考え方は,女性乳がんと同じです(☞Q40, 41参照)。乳がんが骨・肺・肝臓などの遠隔臓器に転移した場合は,がんの治癒を目指すのではなく,がんの進行を抑えたり症状を和らげることでQOL(生活の質)を保ちながら,より長くがんと共存するための治療を行います。

ホルモン受容体陽性乳がんには,最初の治療としてタモキシフェンが勧められます。タモキシフェンが効かなくなった場合には,アロマターゼ阻害薬やフルベストラントなどの使用を考慮します。その場合,LH-RHアゴニストを併用すべきかどうかは現在のところ定かではありません。HER2陽性の人は,抗HER2薬であるトラスツズマブなどと抗がん薬(化学療法薬)の併用を検討します(☞Q50参照)。それ以外の人や,ホルモン療法が効かなくなった患者さんには,抗がん薬治療を女性乳がんに準じて行います(☞Q46参照)。

男性乳がんの場合は,女性乳がんと比較して遺伝にかかわる乳がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)である確率が高いことが知られています。遺伝学的検査でBRCA遺伝子に病的変異が認められた場合は,オラパリブ(商品名リムパーザ)などの薬が使用できます。